第431話 フラグ立つ

「――ちょっと待った!」


 と、チャコに襟首をつかまれた。


「なんだい? まだ大きくさせたいのがあんのか?」


「そうなの。相棒も大きくさせてあげて」


 相棒? そんなもんいたっけ? あ、ガブの頭の上に、なんか水花のようなものが咲いてたな。


「ったく。わかったよ」


 そんな手間じゃねーし、チャコがデカくなってくれんなら百パーセント安心してトータを任せられるしな。と、チャコの相棒、カナコを大きくした。


「つーか、こいつの格好のコンセプトってなによ?」


 なんか知らんが不思議の国の子が未来的な対戦車ライフルっぽいものを担いでるのはなんなワケ?


「戦場を駆ける凶弾のアリスよ」


 さも当然に返された。


「あ、うん、そ、そうか。まあ、イイんじゃねーの。ロマンがあって」


 ロマンってなんだよとの突っ込みはノーサンキュー。全てを拒否したオレの最大の出任せだよ。


「ふふ。やっぱりね。ベーはロマンを知る男だってわかってたわ」


 お前のロマンとオレのロマンは、交わりもしなければ重なることもなく、一生平行線を辿ると思うよ。うん。


「お礼にこれあげるわ」


 心の底からどうでもイイと思っていると、突然、持っていたシャレオツなマスケット銃をオレに放り投げて来た。


 反射的に受けとると、続いて腰に巻いていたガンベルト(的なもの)を外して、それも放り投げて来る。


「ライカロンの魔銃と予備のエネルギーパック、そして、モーゼルnキャサリンバージョンよ」


 なに一つ言っている意味がわからないが、チャコの心遣い。一応、ありがとうと言っておく。まあ、収納鞄の肥やしになるだろうがな。


「甘えついでに、あたしたちの戸籍とかもらえないかな?」


「戸籍?」


 それこそ意味がわからんのだが?


「あたしら、花人族じゃん。住所不定、国籍不明の種族不明じゃん。これで冒険者になれる?」


 まず間違いなくなれねーだろうな。戸籍がねーと、どんなギルドにも入れんからな。


「つまり、村の住人になりたいってことか?」


「うん。さすがベー! わかってるぅ~」


 なんか、よーわかりん踊りを見せるチャコ。なんともロックなやつだ。


「なら、姉御に、受付にいるねーちゃんに、ベーからの紹介と言え。あと登録料に銅貨三枚必要だから、これ持ってけ」


 収納から小袋を出してチャコに渡した。トータ、金の使い方まだ知らねーから持たせてねーんだよ。


「お、気が利く~。なら、遠慮なくいただくわ。んじゃ、いくわよ!」


 嵐のように騒いで嵐のように去っていった。


「まったく、台風みてーなヤツだ」


 だがまあ、嫌いじゃねーな。あの好き勝手に、全力全開で生きてるところわよ。


「なんと言うか、お前さんによく似とるな。姉だと言われても納得しそうだわい」


「だな。あのバカ笑い、まるでベーを見ているようだぜ」


 同類と言われているようで、なんか心外だが、まあ、他人とは思えねーところはあるな。でも、精神的にはオレが兄じゃね? いや、どっちでもイイか。


「時間食ったし、そろそろいこうぜ。最低でも六頭は狩らねーとならんしよ」


「そう言えば、ベーよ。お前さん手ぶらだが、なにで狩るんじゃ?」


「そう言や、おれもなに使うか知らんな。狩りはときどきするとは聞いてたが」


「あれ? 言ってなかったっけか?」


 別に秘密にしてるわけじゃねーし、よく来るエルフの狩人とは、ちょくちょく同行させてもらってる。誰だか忘れたが、結構言ってるぜ。


「オレは、主にコレとコレだな」


 ズボンの右ポケットから殺戮阿吽の阿を取り出し、結界術で球を創り出した。


「…………」


「…………」


 なぜか沈黙するお二人さん。どうしたい?


「……な、なんと言うか、予想の斜め上どころか、想像だにしないものを出して来たな……」


「こん棒、にしては細いのぉ。と言うか、その塊、なんなのだ? 魔術や魔法の類いではないぞ?」


 さすが賢者殿。見ただけで違いがわかるんだ。


「まあ、これはオレの奥の手だから秘密だ」


 そう言っておけばだいたい納得して……はくれねーが、追求はしてこねーから、そう言っておく。


「そ、それで、それをどうするんだ?」


 使い方も想像できないようで、怪訝そうに聞いてくるザンバリーのおっちゃん。まあ、できたら変態だわな。


「ザンバリーのおっちゃん、あっちの方に投げナイフを放ってみてくれや」


「え? ああ。こうか?」


 疑問に思いながらもオレ製の投げナイフを軽く放った。


「ほいっと」


 投げた結界球が投げナイフを打ち抜いた。


 オレの投球センスの前ではあのくらいは止まっているのと同じ。超余裕だぜ。


「これは獲物が近いときか、小型のとき用だな」


 標的がデカかったり、咄嗟のときにも使うが、まあ、基本、狩りは投球だ。


「で、こっちは集団用だ」


 まんま、殴って使うんだよ。狼や集団で来るヤツは殴った方が早いからな。


「あと、コレとコレを併用した方法もあるが、それは危険だから機会があったら見せてやるよ」


 このとき、本当に見せる機会が訪れようとは、誰も思わなかった。


 なーんてこと言っちゃったりして。んな機会、竜でもこなきゃそうそう使わねーよ。 


「ほんじゃ、今度こそ狩りに出発だ」 

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