第295話 説明と報告
「と言うわけさ。すまねーな。預かると言いながら最後まで見てやれなくてよ」
昼食後、一息入れてから王都でのことを説明した。
二人はオレが話し終わるまでなにも語らず黙って聞いていた。
「謝るのはオラたちだよ。こんなに良くしてもらって、デンコの才能を認めてもらいながらベーの恩を裏切ったりして。申し訳ねぇだ!」
「すまねぇだよ」
夫婦がテーブルに額をつけて謝ってきた。
「頭を上げてくれや。別に裏切られた気持ちなんてさらさらねーしよ。デンコが望んだ道なら全力で応援すんのが兄貴ってもんだしな。だから、デンコの意思を許してやってくれや」
頭は下げない。ただ、見守って欲しいだけだからな。
「デンコが選んで、ベーが許してくれたのならオラたちに文句はねぇだよ。それどころか感謝でいっぱいだぁ。この恩は仕事で返すだよ!」
恩とかは別にどうでもイイが、それで満足するならオレに否はねー。わかったと頷いた。
「まあ、ちょっとしたコネで王都との道ができたんで、デンコとはいつでも会えるからな、落ち着いたら皆で会いにいこうぜ」
二人は『?』を頭の上に咲かせていたが、まだオレも試してないので詳しい説明は今度なと、曖昧に流しておっちゃんちを後にした。
「──また置いてく!」
と、プリッつあんがオレの頭にドロップキックをかましてくるが、綿毛が頭に触れるほどの痛みもねー。何度も言うが、感覚はあります。
「寂しん坊だな、プリッつあんは」
地団駄を踏むプリッつあんをハイハイとあしらい、村長んちへと向かった。
王都に行った理由は……あれ? なんだっけ? と、買い物だ商売だとマジで忘れていたが、人の名前じゃなければ冒険者ギルドに行ったことは思い出せる。半分近くは忘れてっけどな……。
村長んちに着くと、倉庫の前に集落の女衆が集まっていた。
去年から集落の女衆 (おばちゃんら)も広場に店を出すようになったのでその準備だろう。
「おう、精が出るね」
女衆 (おばちゃんら)に声をかけた。
「あら、べー。王都に行ってたんじゃないのかい?」
村長の息子の嫁で女衆の代表格たるおばちゃんが応えた。
「今日帰ってきたんだよ。村長はいっかい?」
おばちゃんらに捕まってもイイことどころか悪夢を見ることになる。なんでとっとと逃げさせてもらいます。
「ああ、裏の畑にいるよ」
「そうかい、ありがとな。あ、王都の土産だ、皆で食ってくれ」
収納鞄から果物を出し、女衆 (おばちゃんら)に渡してやる。
村じゃおばちゃんらを味方にすれば百人力。媚びてでも味方につけろ、である。
「いつも悪いね」
「なに、いつも世話になってる礼さ。気にすんな」
媚びてはいてもそれを態度には出さない。あくまでも自然に、見返りを求めない態度で去っていくのがミソである。
背後ではあと十年遅ければとかなんとか言ってるが全力で無視。そこは男子禁制の女の聖域。入るべからずだ。
屋敷の裏にくると、村長を筆頭に男どもが畑仕事をしていた。
麦の種蒔きが終わった今の時期は、それぞれの敷地にある畑を耕し、夏前になる豆や葉物野菜の種を蒔いているのだ。
「おう、村長。今帰ったよ」
クワを振るっている村長に声をかけた。
「ん? おお、ベーか。随分とゆっくりだったな」
まともに歩いていったら一月コース。数日で帰ってくるオレが異常なのだが、異常耐性がついた村長には遅く感じたよーです。
「まーな。いろいろやること多くてよ、今日になっちまったわ」
遅くなった自覚はあるので肯定しておいた。
「依頼は出してきた。もし、冒険者がくることがあったら前に言ったように対処してオレに知らせてくれや。問題があるようならオレが引き受けるからよ」
良心的な冒険者なら集落に任せるし、クズな冒険者なら速やかにエリナのエサにしてやっからよ、とは言えないんで黙っておく。
「わかった。きたら連絡はするよ。ご苦労だったな」
「あいよ。詳しいことはまた今度な。冒険者ギルドにも話を通しておかんとならんしな」
あと、依頼完了報告もな。
「すまんな。お前にばかり苦労させて」
「なに、その他の苦労はそっちに任せるさ。あ、それと村に移住してくるヤツがいっぱいいっからよろしくな。なんで山を開拓するんで、税は薬代や薪から引いてくれ」
金で払うといろいろと問題があんでな、税から引いてもらった方が波風が立たなくてイイんだよ。
「なんだか山の方が賑やかになっていくな」
まったくもって反論がしようもねーんで苦笑いで応えた。
でもまあ、村から町になるような賑わいにはしねーさ。暮らしはよくするがな。
「んじゃ、またな」
言って村長んちを後にした。
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