第183話 心の友よ
「………」
港を前にデンコが絶句する。
まあ、無理はねーか。長い通路を越えたら広大な港が広がってるんだからな。
「……こ、ここも兄貴が創っただかぁ……?」
五分くらいかかってやっと我を取り戻したデンコが聞いてきた。
「ああ。オレの自信作だ」
結構自慢なので謙遜はしません。
「……兄貴って、ほんとーにすげぇんだな……」
「まあ、バカなことをバカなだけやってるだけだがな」
これは自己満足。オレが納得できればイイことだ。
「さて。まずは出入り口の拡張からだな」
いずれは大型船が入っても大丈夫なように港内は広めに、四隻は余裕で入れるようにはしてあるので百メートル近い潜水艦も余裕で停泊できているが、出入り口は結構ギリギリ。よく入ってこれたなーって感じだ。
「ん~。やっぱ、五十メートルは欲しいか」
深さは四十メートルくらいあるから高さはそのままでイイだろうが、幅は五十メートルくらいあった方が出入りに神経を費やさなくても済むだろう。
「デンコ。お前、泳げるか?」
「へ? あ、いや、泳げねぇだよ」
だろうな。ドワーフの別名は土地どち族。半地底人だ。泳ぎとは無縁の種族だ。
「んじゃ、そこで見てろ」
結界術を使い、海面上を歩いていく。
出入り口の右側にきて分解と移動と圧縮硬化させながら出入り口を拡張して行く。
だいたい広げたら左側に移り、同じく拡張していく。
具合を見るために一旦戻り、眺めていると、エリナ専用通路の扉が開いた。
そこから二頭仕立てのシンプルな箱馬車と、馬に騎乗したイケメンなゴブリンとその部下が現れた。
「結構早い時間にきてんだな」
引きこもりなエリナのことだから夜にきてるかと思ってたぜ。
「おう。久しぶり」
イケメンなゴブリンに挨拶するが、なぜか嫌な顔をされてしまった。ったく、お互い様なんだから水に流せってんだ。そんなんだから成長しねーんだよ。
箱馬車の扉が開かれ、まず執事姿のバンベルが現れ、続いて黒いドレスに黒いベールをしたエリナが出てきた。
「なんか未亡人の墓参りみてーだな」
「気持ち的にはそんなもんでござるよ」
黒いベールで表情は見えねーが、声の感じからして不満一杯って感じなよーだ。まったく、どんだけ出不精なんだよ、お前は。
「まあ、そのうちこことエリナの領域と繋ぐからそれまで我慢しろや」
やれば三日とかからねーんだが、その三日が取れねーからできねーだけだ。
「……わかったでござる……」
納得してないだろうが、バンベルにでも説得されたようで、渋々ながらも受け入れているみたいだ。
「で、魔力は溜まってんのか?」
「これまでがウソのように溜まってるでござるよ。海の幸は栄養満タン。この港と同じところまで掘り下げたでござるよ」
「そりゃあスゲーな。なら、ここまで繋げられんじゃねーの?」
「やれぬことはないでござるが、ジオフロント計画の方が遅れるでごさるよ」
「へー。そっちも進めてんだ。引きこもりのクセによく働くな」
働きたくないと言いながら仕事が早いじゃねーか。
「自分のテリトリー内のことは仕事じゃないでござる。創作活動でござる」
うん、ごめん。引きこもりの主義主張はオレには難しくて理解できん……ん? ってことはテリトリー内なら動くってことだな。
「ところでエリナに頼みがあんだけどよ」
って言ったら、バンベルの背後に隠れてしまった。なんでだよ。
「ヴィどのが悪い顔してるでござる。きっとよくないことを言おうとしてるでござる」
チッ。無駄にイイ勘持ってんじゃねーか。
なんて心の中では思ったが、顔は笑顔満点。態度にも表しませんわ。
「いや最近さ、転生者に会ったんだけどよ、そいつの武器、つーか、そこの潜水艦の持ち主が転生者でな──バンベル、逃がすなよ」
「──なっ、なぜにヴィどの命令優先でござる!?」
主を背後から羽交い締めする手下に文句を言うが、バンベルは聞く耳持たない。
「申し訳ございません。主の命より友の頼みが優先されますので」
「え!? ここにきてのまさかの裏切りでござるっ?!」
「おいおい。忠実な部下に向かって酷いな~。これも主のことを思ってのことじゃねーかよ」
「まったく持ってその通りでございます」
ほんと、酷い主さまだ。もっと部下を信用してやれよ。
「あきらかに脅しでござるよ!」
「ハッハッハ。人聞きワリーな、エリナは。脅しじゃなく友達からのお願いだよ。なあ、心の友よ」
「ジャ〇アンがいるでござる! 助けてド〇えもーん!」
「はいはい。お願い聞いてくれたら助けてもらえな」
バンベルにクイっとアゴで連行するようお願いし、潜水艦の武器を置いた倉庫に連れてくる。
「ワリーけどよ、ここにある武器を創り出してくれや。できるだけたくさん。できるだけ早く、な」
「拙者、死んでも働かぬでござる!」
「うんうん。働かなくてイイよ。ただ、エリナの領域で創ってくれればイイだけ。思う存分創作活動してちょうだいっ」
お願いと可愛く微笑んだ。
「──ヴィどのの鬼ぃぃぃぃぃっ!」
ああ。心の友のためならオレは鬼にもなるぜ。なんてねっ。
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