第178話 オレはここにいる

「んじゃ、帰るか」


 なんの問題もなく下見が終わり、泊まる三人を残して潜水艦に乗り込んだ。


 くるときとは違い、帰りの道中、平和そのもの。火竜も海竜も現れずに無事到着した。


 モコモコ族に手伝ってもらい潜水艦の武器を下ろし、地上へと帰る。


 時刻は六時前。夕陽が山に掛かる時間帯だ。


「ん~~ん。今日も働いたぜ」


 大きく伸びをして今日した仕事の充実感の余韻に浸る。


 働く。それが嬉しく感じる今世に感謝だぜ。


「ん。ねーちゃんら今帰りか?」


 なにやら装備が汚れ、表情に元気がなかった。


「ええ。オークの群れと二度も遭遇して、散々だったわ……」


「そりゃご苦労さん。で、成果は?」


 余程の油断がなければあの装備で負けることはないが、可能な限り捕獲でってお願いしてるからな、戦うより神経を使うだろうよ。


「最初の群れは全て捕獲はできたけど、二度目のは戦士級の群れで倒すのがやっとだったわ」


「まあ、死体は持ってきたけどね」


「さすがに戦士級は頑丈で参ったわ。投げナイフを躱すんだもん。あ、補充したいんでよろしくね」


「…………」


 なにやらアリテラは、他の三人より元気がないな。苦戦したのか?


「まあ、無事でなにより。お仕事ご苦労さんだ。風呂入って疲れを抜けや。離れに酒置いておくから息抜きするとイイさ」


 この時代じゃあ、酒は娯楽であり、今日を生きた褒美でもある。命のやりとりをする冒険者には欠かせないものだ。


「ありがとう。遠慮なく使わしてもらうわ」


「あ、氷もお願いね」


「つまみはなんでもいいからね」


「…………」


 やっぱりアリテラは無言。ほんと、どーしたん?


 騎士系ねーちゃんらに目で尋ねるが、なんか生暖かい目で『ガンバレ』と語っていた。


 ……なんかもう目と目で語り合えるねーちゃんらが他人とは思えねーほど身近に感じるよ……。


 まあ、気にしてもしょうがないと、オレらは家へと入り夕食にする。


 いつものように夕食後の一時を楽しみ、オカンとサプルが先に風呂に入り、その後はオレにトータにタケルで入った。


 イイ時間になったので寝室へと行き、サプルとトータにお伽噺を聴かせ、眠ったら一時の続きをするために暖炉の前に戻った。


 さて。そろそろラーシュへの手紙を書かないとなと、最近の出来事を手紙に書いていく。


 まあ、オレには文才がないので子どもの日記よりマシなぐらいだが、異国の話は滅多に聞けないから楽しいとラーシュは喜んでくれてるよ。


 エリナのことを書いてると、戸が叩かれた。


「開いてるよ」


 戸の叩き方って人それぞれだな~と思いながら応えた。


「お邪魔してもいいかな?」


 ちょっと頬を赤くしたアリテラが顔を出した。


「構わんよ。入りな」


 そう勧め、水と氷を出してやり、街で買ったサニュー(枇杷に近いもの)を出してやる。


「珍しく飲んだようだな」


 コップに水と氷を入れ、まあ飲めやと差し出した。


「ありがとう……」


 水を一気に飲み干したので、また水を注いでやる。


 今度はゆっくりと飲み干し、ふぅ~と息を吐くアリテラ。


 女心に聡くはねーが、なにかあるとわかるくらいには人生を経験している(もちろん前世でのことね)。なので、アリテラが語るまでは静かに待ってやった。


「ベーって、本当の名前って、なんて言うの?」


「ヴィベルファクフィニーだが」


 そう言うと、なぜかキョトンとするアリテラ。よくわからん反応だな。


「……え、えーと、べィべ、べべっ──」


 久しぶりに見たな、この反応。やっぱり言えるヤツはスゲーだな。


「無理しなくてイイよ。ここのヤツらはヴを発音できないからな。イイやすくベーと呼べや」


 まあ、ベーでもべべでもどっちでもいーわ。どっかの英雄の名前から取っただけで、なにか意味や願いが込められてるわけじゃねーんだからよ。


 ……たんにカッコイイからだけでつけられた名に大した執着も愛着もねーよ……。


 と、また沈黙タイムが訪れたが、気にせず待ってやる。


「……ベーは、さぁ、冒険者とかならないの?」


「なんねーよ」


「どうして? そんなに力があって強いのに。ベーならソロでもS級になれるじゃないのよ」


「別に冒険者って職業に偏見や恨みはねーが、その日ぐらしなんてオレにはできねーし、したくもねー。ましてや人に使われ、利用されるなんてゴメンだね。オレはオレのために生きたいんだ。誰かの人生にはしたくねーんだよ」


 我が儘でガキな発想だが、流れ流されるだけの人生など前世で十分。今世は自分のために生きるって決めたんだよ。


「オレは村人でいることに不満はねーし、不自由もしてねー。それどころか村人に生まれたことに感謝しかねーよ」


 これが町人だったら神(?)からもらった能力を隠しながらの生活だったろうし、貴族に生まれていたらマナーだ貴族の誇りだとかメンドクセーことに時間を割かれていただろう。奴隷や孤児など語るのもアホらしい。利用される人生しか思い浮かばねーよ。


「オレは生涯村人だ。可能な限りオレはこの村からは離れねーよ」


 まあ、いる努力も欠かせねーが、まずはそうであると口にすることだ。


「とは言え、それはオレの考えであって他人に強制するものじゃねー。好きなように生きろ、だ」


「……あたし、冒険者を続けたい……」


「なら続ければイイさ。誰に遠慮もいらねー。アリテラの人生はアリテラのもんだ、好きなように生きろ。少なくともオレは応援するぜ」


 どう言う心理的状況からは知らんが、やると言うならやれ。後悔し、腐らないようにな。


「オレはここにいる。戸も開いている。きたくなったらくればイイ。いつでも歓迎するよ。我が親愛なるアリテラよ」


 オレの人生はオレのもんだが、他人を寄せ付けない人生などまっぴらごめん。友達はいつでもウェルカムな人生を送りたいぜ。


「……ベーはほんと、いい男だよね……」


「オレとしてはバカな男が理想だがな」


「フフ。ベーなら世界最強のバカな男になるよ……」


 なにか、その後に続けたようだが、オレの耳には届かなかったが、アリテラの笑顔の前ではどうでもイイことだった。

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