第152話 買いでしょう

「ちょっくらごめんなさいよ」


 そう言いながらモコモコさんたちの間を進んでいく。


 あんちゃんの店──アバール商会の前には、モコモコさんたちだけではなく、ヒゲモジャな小さいおっさんとふっくらとした小さいおばちゃん、そして、ちっちぇー子供が三人いた。


 エルフと並んで有名な種族、ドワーフだ。


 ただ、この世界のドワーフは国を造らない種族として有名で、違う種族の間に入って鍛冶仕事を請け負いをしながら生きているそーだ(旅のドワーフ談)。


 まあ、国は造らねーが、鍛冶ギルドは組織しており、結構な発言力を持ってるそーな。


 ドワーフ族はそれほど珍しい種族でもなけりゃあ、バリアルの街や王都で何度も見ているのでなんの感慨もない。なんで、いるなと認識しただけでなにも言わずに店へと入った。


「おう、あんちゃん。繁盛してんな」


 なにやらお疲れ気味のあんちゃんに挨拶する。


「繁盛してんなじゃねーよ! 店持ち初心者になに大振りしてんだよ、お前は! どうしていいかわかんねーよっ!」


「普通に商売すればイイだろう。ここは、売り買いするところなんだからよ」


 別にここはなんかの専門店ってわけじゃねー。なんでも扱う雑貨店──を目指している途中なので、今は品揃えは少ねーがな。


「客が金持っててここにある品を買うなら文句は言わねーよ。だがこいつら、木の実だのなんだかわからん草だの、そんなもの持ってこられても物々交換もできねーよ。お前の紹介だから無下にもできねーしよ……」


 カウンターに置かれた木の実だのなんだかわからん草ってのを見る。


「ほーほーふむふむなるほどなるほど」


 さすが獣人(なんのかは知らんがな)。山の植物に長けていやがるな。


「もし良ければ、オレが買い取ってもイイかい?」


 そこで初めてモコモコダンディ(とそのお仲間たち)に目を向けた。モコモコガールはいねーようだな。


「……買ってもらえるのなら……」


「よし。こっちからの了承は得た。で、あんちゃんどうだ? オレが買い取ってイイか?」


 親しき仲にも礼儀あり。客の横取りは不義だからな。ちゃんと了承は得ねーとな。


「いいよ。どうせおれには目利きできんし、お前が換金してくれるのならこっちは大助かりだ」


 まあ、商人とは言え、山のもんを目利きしろと言うほうが悪い。こう言うそれぞれの地域で密かになる木の実や山菜とかはその地域でしか消費されない。まず街には滅多に出回らないものなのだ。


「あんちゃんからも了承は得たってことで、あんたらが持ってきたもんを見せてくれるか?」


 そう問うと、モコモコダンディ(とそのお仲間たち)がバシの蔓で編んだ背負い籠を七つ、オレの前へと並べた。


「結構あんだな。どれどれ。この木の実が詰まった籠は銀貨六枚。この山菜が詰まった籠は銀貨二枚。この茸が詰まった籠は銀貨八枚。おっ、ベラの実なんてこの辺にあったんだ。これ金貨一枚な。サレーにハニラとかスゲーな。薬草の知識まであんのかよ。この籠は銀貨二十枚だ。この籠……と、残りは合わせて銅貨十七枚が精々だな……」


 残りの籠のものは食えねーことはねーんだが、飢饉でもなけりゃあ、まず食わねーものばかりだ。けどまあ、鶏どもにはイイエサになる。冬のエサとして考えたら損はねーぜ。


 ポケットから金を出し、カウンターに置く。


「この値段なら買うぜ。嫌なら買わねー」


 オレは値切り交渉とかメンドクセーって思うタイプなので決裂したらスッパリ諦めることにしている。


 そんな目でモコモコダンディを見る。


 しばし鋭い眼光でオレを見ていたが、引かぬオレに根負けしたのか、あんちゃんに目を向けた。


「……どうなのだ?」


「言ったようにおれには山のもんはわからんが、たぶん損はしてない……どころか適正な値段より一割か二割は高くなってるはずだ。これもたぶんになるが、これを街で売ったら銀貨十枚にもならないだろうよ。それどころか半分以上は売れ残ると思う。それをべーは全部買い取ってくれるんだ、こんな豪快な買い手は世界を探してもべーだけだろうさ」


 まあ、オレには結界術があり、保存庫がある。ましてやこれだけの量を採るとなると十日は必要となる。手間を考えたら問答無用で買いでしょう。


「なにより、べーの言った値段であんたら一族が一月分の食料は買える。住みかを失ったって言ったが、おれに言わせたらべーに出会えたんなら安い犠牲だ。べーは下手な幸運の女神より幸運を運んできてくれるクソガキだからな」


「褒めんなら最後まで褒めろや。ヘタレ商人が」


「アハハ。まあ、この通り口の悪いのが欠点だが、誠意にはそれ以上の誠意を返す男だ。仲良くなって損はないぜ。こうして獣人だろうとなんだろうと気軽に利用できる店を紹介してもらってんだからな。普通の村じゃ入ることもできんよ」


 この国にも獣人はいるし、他の国より種族差別も少ねーが、閉鎖的なド田舎にはなかなか入れねーし、入れたとしても入店拒否されるだろうよ。まあ、街なら通行税さえ払えば入れるが、未開の土地に住む獣人にはレベルが高くていこうとも思わんだろーて。


「……わかった。それで買い取ってくれ」


「区別すんのメンドクセーから籠ごと買うな。銅貨七枚でイイだろう」


「あ、ああ。構わない」


 言って結界で包み込み、時間凍結する。


「んじゃな」


 結界台車に載せ、家に戻ろうとしたらモコモコダンディ(と仲間たち)が急に両膝を床に付けた。


「お願いします! 我々をお救いくださいませ!」


 ……はい?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る