第26話 どこの救世主様だよ
「あ、ベー。雑貨屋の女将さんがきてくれってさ」
バンたちとおしゃべりしていたサリバリがそんなことを言った。
「おばちゃんが? なんだって?」
「知らなぁ~い」
うん。サリバリに聞いたオレがバカでした。
にしても雑貨屋、か~。
完全な、とは言えないが我が家の自給自足率はかなり高い。食料は完全に自給自足だし、道具類も完全自給自足だ。
まあ、衣服などはどうしても買うしかないが、月一でくる行商のあんちゃんに注文すればイイし、他に欲しいものも頼めば取り寄せてくれる。
だからと言って、雑貨屋のおばちゃんらとまったく繋がりがねぇ訳じゃない。露店の管理は雑貨屋の仕事だし、換金所の役割もあるから何日に一回は必ず会う。
確か、前に下りてきたときも会ったような気がする。まあ、挨拶するくらいだったが。
なんだろうなと思いながら雑貨屋へと向かった。
っても、隣なので五秒もかからないが。
「こんちは~」
ド田舎の村の雑貨屋なので店自体は十畳ほどしかなく、品数も豊富ではないが、村で生きていくに必要なものばだいたい揃っている。
……雑貨屋の仕入れも行商のあんちゃん頼みだから雑貨屋にあるものは大抵揃えられるんだよな……。
なので、雑貨屋に大して興味を引くものもないのでカウンターに立つおばちゃんに挨拶する。
「悪いね、呼んだりして」
「構わんよ。急ぎな用があるでもないしな」
いかにも田舎のおばちゃんと言ったふくよかな雑貨屋のおばちゃんに笑顔を見せた。
それほど付き合いがあるわけじゃねーが、狭い村でのこと。小さなことでもコミュニケーションがあるとないとでは村での生活に左右されかねないのだ。
「んで、なんの用だい?」
コミュニケーションは大事だが、おばちゃんのおしゃべりに付き合うほどオレのコミュニケーション能力は高くはない。アレは一種の精神攻撃だぜ……。
「あんたとこで肉は余ってないかい?」
「肉? まあ、あるにはあるが、どうしたんだい、肉を求めるなんて?」
雑貨屋はあくまで雑貨屋。食料品店ではない。まぁ、冒険者もくるので保存食は売っているだろうが、村の食卓に上がるようなものは売ってないし、取り扱ってもいない。
それは、市(露店)の領分──とまでは言わないが、村内での流通なので市(露店)で充分。あとは個人同士での取引(物々交換)だ。
「港に商船が入ってきたのは聞いてるかい?」
「ああ。海竜に横っ腹をやられたとかなんとか」
「その商船のヤツらが毎日食料を買い占めてね、野菜なんかは大丈夫なんだが肉が間に合わないんだよ」
まあ、どれだけ航海するか知らねぇが、交易範囲からして船で五日から七日が精々だろう。
そうなれば多少のなまものは積んでるだろうが、ほとんどは根菜類と干し肉のスープや石のように固いパンくらいなものだろう。
この時代の保存食技術はそんなに、どころか低いとしか言いようがねー。ビン詰め技術はかろうじてあるもののビンは高価な上に小さなものしかねー。しかも割れやすいときてる。
家で使うならともかく、航海に持っていくには不便でしかねー。なら、樽に詰められるものの方が遥かに積み込めるってもんだ。
「商船って、いつからいんだ?」
「三日前くらいだよ」
「それならまだ問題はねーな」
「問題って、なにが問題なんだい?」
首を傾げるおばちゃん。まあ、こんなド田舎の雑貨屋ではわかれと言う方が酷だな。
「その商船がどんなもんかは知らねーが、商船ってくらいだから二、三十人は乗ってんだろう。それだけの人数なら村の食料事情でもしばらくは持つが、もし、四十人とかだったり、長引けば村の食料は減る一方だ。うちは漁があるから食うに困ることにはならねーとは思うが、それでも確実に食料は減る。野菜だってそれぞれの家で消費し切れない程度のものを市に出す程度だ。人を割けば山から山菜を採ってくることも可能だが、これから麦の種蒔きだって言うのに、誰を行かせる? 子守りのガキか? 冒険者か? その人数で商船のヤツらを賄い切れるのか? 家々の食料事情は知らねぇが、余裕のある家なんかねーよ。明日どうなるかわかんねーご時世に自分の食料出すとかどこの救世主様だよ」
ギリギリでやってる村に、ただ消費するだけの人数を賄えるだけの食料なんてある訳がねぇ。これは
「……だ、大問題じゃないか……」
「そうなるかどうかは村長の腕次第だな」
オレにはなんの権限もねーし、子どもの領分でもねー。まあ、頼まれたら考えねぇでもねーが、わざわざ関わるほど酔狂じゃねー。
この村は好きだ。愛着もある。そこに住む人々は好ましいヤツらばかりだ。だが、なにより大事なのは家族だ。他人と家族ならオレはなんの躊躇いもなく家族を選ぶね。
「──こうしちゃいられないよ!」
スカートの裾をつかんで闘牛のように店を出ていってしまった。
まあ、村長もバカじゃねーんだし、これだけ言やぁなんとか対処するだろうよ。
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