019「異世界の自営業-1」

「おはようございます。この依頼を受注したいので手続きお願いします」


掲示板に貼ってあった依頼表と一緒に魔石のついたドッグタグみたいな形のギルドカードをカウンターに提出して手続きをしてもらう。


はい、えぇ無理はしてないので大丈夫ですよ?受付さんこそ今日は疲れた顔してますけど大丈夫ですか??


アカドクナシ茸?まぁ、西の森に行くので見つけたらついでに採取しておきますね。


わかってますよ、1人ですから奥の方へは行きませんって。受付さん以外と心配性ですよね?


あ、手続きありがとうございます。いってきますねー。


ギルドカードを受け取りカウンターのお姉さんに挨拶してギルドの出口へ向かう。


ガタイのいいおっさん達に挨拶されたので挨拶を返す、おっさん達のパーティーは今日から南の方にある遺跡に行くって昨日言ってたっけ。


なんか息が荒くて目が血走ってるお姉さんが抱きついて来ようとしたので、ひょいと避けて笑顔で挨拶だけして逃げる。


若い冒険者のパーティーが不思議そうな顔でこっちを見てたから会釈だけしておく。


冒険者になって1ヶ月、もうこんな感じのやりとりにも慣れてきた。


冒険者としてギルドに登録するときも、異世界冒険者ギルドのテンプレである「お前のようなガキが冒険者だと?先輩としてうんぬんかんぬん」みたいのもなかったので、今のところトラブルらしいトラブルもなく平和な冒険者生活を送れている。


ちなみに、あの異世界冒険者ギルドのテンプレにはちゃんと理由があってやってたりする場合がある。


自己主張の強い馬鹿が本当に喧嘩を売ってるパターンと。


自分達の実力をわかっていないのに粋がってる無謀な阿保に現実を教えるパターン。


この2つ。


前者は馬鹿は知らない、良くも悪くも冒険者には学がなくて血の気が多い奴等がいるから仕方ない。


後者は、学がないながらも不器用に新参者を心配しているからやってる。


なんせ、装備を揃えて計画を練って出来る限りの準備をしても、あっさり死ぬのが冒険者って職業だ。


朝に笑いながら互いの健闘を祈って別れた相手が、夜に互いの冒険譚を披露しながら酒を飲んだ相手が、唐突に二度と会えなくなってたりするのが日常な連中。


だから、不器用ながらも無謀な阿保には厳しくする。


知り合いが死んでない冒険者なんていない、遺品を泣きながら抱きしめている家族を見た事がない冒険者なんていない。


善人も悪人も馬鹿も阿保も変人も天才も凡人も、冒険者なら喪う悲しみだけは知っている。


「だから、俺も心配されるんだろうなぁー」


見た目はガキだからなぁ……。


あと、俺がテンプレに遭遇しなかったのは冒険者になる為に昔からギルドで先輩冒険者達から武器の訓練をつけて貰ってたり、レーラさんが調合した薬をギルドに卸してたりしたから冒険者にもギルド職員にも顔見知りが多かったのと。


「レーラさんの保護者って認識されてるんだよなぁ………」


残念美人にして超自由人のレーラさんの店で働いてる俺は、ちょいちょい薬の素材を採取しに森やら山やらに連れ回されていた。


そういう時に、「ヴィルー、ついでにクエストも受けていこー」ってギルドに寄るのはいいんだけど、手続きを面倒くさがったレーラさんの代わりにクエストの受注やら達成報告やら素材の換金やらを俺がやっていたら……いつの間にか保護者扱いされていた。


「まぁ、レーラさんがBランクだから冒険者登録も出来ない年齢の子供を連れ回しても問題視されなかったし。冒険者になる前に実地で訓練させてくれたのは本当にありがたかったけど」


なんか、あの人がBランクってのは納得がいかない。


冒険者のランクはFから始まって最高がS。よく聞くランク制度である。


冒険者ギルドの制度もあり方も異世界テンプレそのまんまだから、冒険者ギルドを立ち上げたのは転生者か転移者な気がしてる。


Fは駆け出し、Eはヒヨっ子、Dは普通、Cは中堅、Bは一流、Aは人外、Sは英雄。


その中で、残念美人はBランクの一流冒険者。


………うん、これ以上考えるのはやめよう。


あ、昼ご飯買ってかなきゃ。


今日の目的地は街から体感で3時間くらい歩いた所にある森なので、ちゃんとご飯買わないといけない。


「おばちゃんおはようございます。干し肉とパン貰えます?」


水は孤児院で汲んでおいたし、無くなっても魔法で出せるから大丈夫やろ。


買った食料を肩がけの鞄に入れるついでに、今なら足りない物を買えるので持ち物を再度確認しておく。


「食料はいま買った、水はある。素材を入れる袋もあるし、予備の袋も大丈夫。予備のナイフと薬関係も問題なしと」


よし、大丈夫。


街の西門まで歩いて門番さんに挨拶しながらギルドカードを渡す。


ギルドカード受け取った門番さんは横に置いてある魔道具にかざして反応を見てから俺に返してくれる。


よく知らないけど、犯罪歴とかを調べる魔道具らしい。


もう一度門番さんに挨拶をして街を出る。


たまに、俺がガキだからか止めてくる門番さんもいるんだけど今日の門番さんは何度か顔を合わせてる人なので大丈夫だった。








さて、じゃあ今日も行きますかね。

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