第57話、魔力と魔素
とりあえず、あちらさんに敵意や害意はなさそうなので警戒を解き、向かい合って座る。
「ルファウス殿下。少々お伺いしたいことが」
「ルファウスでいい。敬語もいらん」
「………ルファウス。どうやってここに入った?」
一応相手は王族なので下手に出ていたら面倒くさそうに手をひらひらさせて止めろと言われたので通常運転でいくことにした。
そしたらなんか意外そうにじっと見てきた。
「なんだ?」
「いや……こちらがなんと言っても畏まるやつが大半なのでな」
そりゃそうだよな。相手王族だし。でもさっきガッツリタメ口だったし、今更だろ。
「俺も畏まるのはどちらかと言うと苦手だから助かる。それで……」
「ああ、どうやってここに入ったか、だったな。気配と魔力を遮断して窓から入り込んだ。普通に訪問しても良かったのだが、ここの商人と部下には面が割れてるのでな。騒がれるのは避けたい」
王族だもんな。見つかったら当然騒ぎになるだろう。
てかグレイルさん、王族と知り合いだったのか。相当やり手の商人だろうなーとは思ってたけど、まさか王族と顔を会わせるほどだとは。何者なんだろうあの人。
まぁ、あの人が何者だろうと良い人なのは変わりないから何だっていいけど。
それよりも。
「魔力を遮断か。その発想はなかったな」
俺の場合、魔力量が多過ぎて魔力の遮断や隠蔽などは完璧にできそうにない。だからその手の技術は思い浮かばなかった。
「その魔力を遮断するのはどうやるんだ?」
「空気中の魔素を利用して魔力を遮断・隠蔽する魔道具がある。それを使った」
「な、何だって!?」
衝撃のあまり勢いよく立ち上がった。
魔素を使う?そんなことができるのか!
空気中の魔素とは、魔物を生み出すエネルギーのようなもの。魔物に宿る魔力の源というだけあって人には扱えないものだったはず。
それを利用できるだなんて……!
「どうやって魔素を使うんだ!?」
「うわっ!?えらい食い付きようだな……」
「是非とも教えてほしい!」
魔素とはすなわち無限に等しい魔力である。それを利用できる方法があるならば是非とも知りたい。
だって考えてもみろ。無限の魔力だぞ?魔力量に限界のある生き物の許容を遥かに越えた素晴らしいエネルギーだぞ?
それを思う存分、自由自在に使えるなんて夢のようじゃないか!
もし魔素を使えるようになれば、今まで考えつかなかった未知の魔法や魔道具を開発できるかもしれないんだ。興奮しない訳がない!
ふんす!と鼻息荒く詰め寄れば軽く引いた顔のルファウス。しかし律儀に答えてくれた。
「教えてやってもいいが……君には扱えないぞ」
「そんな……」
ヒヨコショック。
「魔力と魔素は相反する力だ。魔力量が多いほど扱えなくなる。私は本来魔力量が多い種族に生まれたが、転生ガチャで極端に少ない魔力を引き継いだため魔素を使えるのだ」
「……逆に言えば魔力量が少ないほど扱いやすい、と」
「そういうことだ」
どう足掻いても俺には使えないじゃないか……
せっかく面白い実験ができそうだと心踊らせていたのに、残念。
ところで転生ガチャって単語がでてきたということはルファウスも転生者か?
転生者自体は珍しいものではない。記憶と一緒に魔力も引き継ぐのはかなりレアだが。
かなりの数の魔素を使う魔道具を独自に開発しているとルファウスは自己申告してきたが、何故魔素を直接魔法に変換しないのか。
そう問うてみたら、元々魔法を使う概念のない世界で生きてきたので魔力や魔素を使う感覚が分からないとの答えが返ってきた。
そういう者は実は少なくない。
魔法を使う概念のない世界が多数存在していると何度も耳にした。魔法を使う概念がない、イコール魔力の存在を知らない世界で生きていたなら魔力の使い方が覚えられないのも無理はない。
魔力の使い方が分からないのに魔道具を作り上げるなんてな。相当努力したんだろう。魔素を直接魔法に変換できなくとも魔道具に運用することはどうにか覚えたとのことだし。
魔力を扱えないなら魔力回路が作れないのでは?と疑問に思ったがそれも魔素で補っているらしい。素直に凄い。
「ちなみに、冒険者ギルドで君の魔力を霧散したのは私だ」
「やはりそうか」
魔力を霧散させたやつの魔力が感知できなかったことといい、このタイミングで姿を表したことといい、魔素を使う魔道具のことといい、そうじゃないかと睨んでいたんだ。
「どうしてあんな真似をした?」
あの場で姿を表さなかった理由は察したが、それなら何故わざわざ魔力を霧散させたのか。謎を残してしまえば余計に警戒されると分かっていながら。
「身内の前で犯罪者にはなりたくないだろう?」
優雅に組んでいた足を組み替えて椅子の背凭れに背を預けてちょいリラックスしつつ告げられた言葉に沈黙した。
確かに、あのまま誰も止めなかったら、ヒキガエル男を殺していた。どこの世界も殺人は犯罪だ。いくら子供でも許されない。
犯罪者になったからといって家族に勘当されるとかそんな心配は微塵もしてない。そこは信じてる。
しかし、レルム達の前で人を殺してしまったら、純粋なあの子達はそれが普通だと信じてしまうだろう。
嫌なことをされる度に人を殺す、そんな最低な者にはなってほしくない。
今になって冷静に考えたら背筋が冷えた。
俺のせいであの子達の人生を狂わせてしまうかもしれなかったのだ。
「……すまない。助かった」
レルム達の人生が俺の行動ひとつでめちゃくちゃになる可能性に気付いて肝を冷やしながらルファウスに深く頭を下げる。
「気にするな、とは言わないが……そこまで重く受け止めているなら二度目はないだろう。今後はよく考えて行動しろよ、賢者」
「フィードだ。賢者だなんて呼ばないでくれ、ルファウス殿下」
「む。わかった」
暗に「賢者と呼ぶならこちらも殿下と呼ぶぞ」と告げたら、畏まられるのがよほど嫌なのかすんなり了承した。
「それで、なんで王族が監視役に?」
魔素の件でうっかり話が逸れたが、一番気になっていたのはそこだ。
ルファウスは最初に言っていた。賢者の監視を命じられたと。
監視がつくのは予想してたから驚いたりしないが、まさかその役目を王族が担うとは思っていなかった。
これは何か特別な事情があるのかも、と思考を働かせていたら黒ウサギ王子はあっけらかんと答えた。
「監視でもあり、護衛でもあり、人質でもあるな」
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