第8話、山を更地にするヒヨコ
「弟22号!」
「はーい!」
「妹18号!」
「はぁいっ」
「よし、全員揃ったな」
ウルティア領管轄のいくつも隣接する小さな山々の麓にひよこと小びな軍団が集合した。
ほぼ全員が小びなだがひよこは俺だけだ。
兄弟全員に集合をかけ、一ヶ所に集まるよう指示を出す。
年少者がボス猿を気取ってるようにも見えるが、こんななりでもこいつらのお兄ちゃんだ。
しかしまあ、総勢40匹もの雛鳥が集合するのを改めて見ると圧巻だな。
皆血の繋がった兄弟だとは、今更ながら驚きだ。
「兄さん、今日はなんでこんなところに呼び出したの?」
「山には入っちゃダメってお母さん言ってたのに、いいの……?」
弟8号と妹3号の問いに無い胸を張って堂々と答えた。
「魔法の特訓だ。母には後で話すさ」
そう。ついに始まるのだ。魔法の特訓が。
家族全員の魔力の血栓を引っこ抜いたのが数週間前。
本当はすぐにでも特訓を始めたかったのだが、なにぶん血栓を抜いた後しばらくは魔力を全身に馴染ませる必要があったからな。
血栓を抜いた直後に魔力が全身に巡る影響で筋肉達磨となってある程度は循環するが、それだけだと魔法を使うのはちと危険だ。
魔力を身体に馴染ませて安定させないと魔法は使えない。そのせいで数週間も待つハメになったが、待った甲斐があった。皆魔力が安定してる。
これなら魔力を使っても身体に負担はないだろう。
母には特訓のことは伝えてない。
別に隠すつもりはないがわざわざ言うほどのことでもあるまい。
この山は魔物はおろか野生の獣すらいないのだから危険は皆無。
探知魔法を使える者がいないから知られていないだけだ。山イコール獣の認識しかないから危険と判断してるだけで、実際は穏やかなもんだぞ。
……この数週間で俺が魔法の修練がてら狩り尽くしたのが原因だけどな。
うちで育てている農作物と、たまに来る商人から買ってる干し肉くらいしか並ばないテーブルに獣の肉が鎮座した日はとても豪華な食卓となった。
弟妹達は大喜び。両親は何故か頭を抱えていたが。
「わぁー!お肉ー!」
「お兄ちゃんすごーい!」
「狼……だと……!?領主様でも狩るのが難しいのに……」
「あれほど山には入っちゃ駄目って言ったのに……」
ひよこが肉食獣を単独で狩るなんて聞いたことないと呆然と呟く両親に内心同意した。
俺もそんな無謀なことするやつ見たことない。
怪我ひとつしないで野生動物を狩る日々を送る俺に両親は何か言いたげにしつつ最終的に黙認してくれた。晴れて堂々と狩りができるようになり調子づいた結果がこれだ。
弟妹達の安全のためを思えばやむ無し。
「オオカミさんもクマさんもいないねー?」
「みーんなにいにが狩ったのー?」
「ああ」
「すごいすごーい!兄さん強ーい!」
誉めちぎってくれる弟妹達。兄ちゃん嬉しい。
「じゃあ早速魔法の基礎から教えるぞ」
一概に魔法といっても様々だ。
その中で最も初心者向けのものを教える。
「皆、自分の体内に流れる魔力は感知できるよな?」
この数週間、無駄に時間を浪費してたわけじゃない。魔力が安定次第すぐに特訓できるよう手は打ってあった。
魔法が使える身体になったからといって直ぐ様魔力を感知などできない。血栓のせいで己に宿る魔力を感じなかったのだから当然だ。
そこで手始めに宿題を出した。
己の中に流れる魔力を感知するという宿題を。
「うん、できるよっ!」
「ばっちりー!」
全員魔力を感知できるとの返事を聞き、軽く頷く。
「今回は魔力をそのまま身体の外に放出する訓練を行う」
卵の殻を破ったときのと同じだ。
これは厳密には魔法ではないが、いきなり属性魔法やらを教えるわけにもいかないしな。
「手本を見せてやるから同じようにやれ。よく観察しておけよ」
「「「はーい!」」」
元気に手を上げて穴が開きそうなほど凝視してくる弟妹達に微笑みながら山を見上げ、魔力を練り上げる。
ちょうどいいところでそれを止め、一気に山に向かって魔力を放出した。
――――――――ドゴォォォンッッ
魔力の衝撃波により地面が大きく揺れる。
コロコロ転がっていきそうな弟妹達を結界で守り、もう一度山を見ると……そこには何も残っていなかった。
山が存在していた過去ごと綺麗さっぱりなくなり、まるでその場所には初めから何もなかったかのように更地が広がっていた。
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