第8話 お帰りなさい・セレモニー

「沿道の皆さま、お待たせ致しました。只今、月の裏側から帰還しました宇宙飛行士フランキー・バオバオさんが、ここ地元三鷹駅の南口・中央通り商店街に、ご挨拶のパレードに参っております! 下連雀が生んだ人類の奇跡、フランキー・バオバオで御座います」

 オープンカーからアナウンサーの声が響く。


 バオバオは派手に装飾を施されたオープンカーの上に立ち、胸を張って沿道の市民に大きく手を振った。首に幾重にも花輪を掛け、『帰還フランキー・バオバオ』と書かれたタスキを胸に、それはそれは誇らしげであったが、いまだ地面三郎の乾いたうんこが所々、こびり付いてもいた。

 バオバオの姿を目にするや、東は吉祥寺から西は三鷹まで、ほぼ世界中の市民や要人たちが大きな歓声をあげる。

「バオバオ、お帰りなさい!」

「ありがとう、バオバオ!」

 なかには涙を流すもの、手を合わせ拝むものさえいた。バオバオはいまや郷土の誇りなのだ。。

 バオバオはオープンカーの上から答える。

「ありがとうございます。皆さんのお陰です!」

 先にも述べたが、特になにもしてこなかったのだが、バオバオは達成感に満たされていた。


 「お帰りなさい・セレモニー」は、昨日バオバオが着陸時に完膚無きまでに破壊した南口デッキで行なわれる。しかしまだ復旧できていないため、仮設のデッキ、通路が組まれていた。

 「お帰りなさい・セレモニー」のメインゲストには、いまや日本ポップシーンを牽引する人気若手歌手、歌謡界の盗塁王、地面三郎さんが呼ばれていた。


「遠い故郷を思い作りました。夏の午後、母と歩いた恵那の道、決して忘れはいたしません。そう地面三郎さんは熱く語ります。それでは聞いて頂きましょう。大ヒット曲、おらが村さの尻子玉です!」

 司会の紹介と同時に点滴をしながら地面三郎はふらふらとステージの中央に進んだ。もちろん今日はオムツをしている。

 地面の歌はいつもより深みが感じられた。この一曲に命を賭けているようだったと後々多くの市民は口にしたのもだ。


 地面の熱唱が終わると、バオバオや来賓の挨拶、記者会見に先立ち、先ずは皆で乾杯という段取りだ。そこで沿道の市民たちにも紙コップが渡され、ステージ上のバオバオたちにも、白と黒の服装に身を包んだねずみのような姿をしたスタッフが紙コップを配った。

「これは、ワインかなにかですか?」

 まだふらついている地面三郎がスタッフに尋ねた。

「いえ、特産の『もっこ汁』です」

 スタッフはそう言うと、ステージを下り去って行った。


 セレモニーの主催者である日本宇宙開発サービス株式会社の社長の音頭で乾杯となった。

 すると何故だろうか、沿道の市民をはじめ来賓の市長、市議会議員、商工会会長、医師会副会長、地区委員長、三鷹駅長補佐、ふとん屋、果物屋、花屋、酒屋の店主から国連事務総長まで皆、口から泡を吹いて倒れた。地面三郎は朦朧としながら「これ薬か?」と一気に飲み干し、瞬時に卒倒した。勿論ではあるが、ちびるべきものは確しっかりとちびっていた。



(つづく)


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