第18話 吞気な幽霊たち


「それでこれからどうするんだ? お前さん達を縛っていた祭壇はなくなった」



 夕飯後、俺は顎に手を当てながら貞代に問いかける。

 俺のゲームデータを勝手に消した貞代たちにアイアンクローをお見舞いした後なので、勿論彼女らは正座だ。

 貞代達はお互いに見合って覚悟を決めたような表情になる。

 なんだ、一体何を言うつもりだ? 俺は思わず身構えてしまう。すると、彼女らは頭を下げて言った。



『――お願いします。日本の観光ガイドブック買ってきてください!』


『最新版……絶景スポットや温泉地を完全網羅……』


『この本なの。税込み2000円で買えるの』



 ……え? 突然の申し出に困惑してしまう。

 貞代たちは真剣な眼差しで俺を見つめている。どういうことだ? 成仏とかって出来ないのか? 俺が困惑していると貞代が説明を始めた。



『私達って親とか経済的な理由で友達と遊びにいった事ないんですよ。今はほら、 幽霊だしどこでも行けるじゃないですか』


『タダ乗り……圧倒的タダ乗り……』


『無料で交通機関使えるの!』



 なるほど、確かにそれはいいかもしれない。しかし死んでからこんなアグレッシブ幽霊中々いないぞ。こいつ等らしいや。

 俺が苦笑いを浮かべると、貞代は話を続ける。



『そんな訳で成仏するまでの間、日本中を観光しようと思うんです』


 俺はその言葉を聞いて感心してしまった。なかなか前向きな発想をする。仕方ないか。俺は財布の中身を確認すると、2人に向き直った。


『分かった。買ってきてやる』


『『『やったー!』』』



 俺の言葉に貞代たちが大喜びでハイタッチする。

 こいつら本当に仲がいいなぁ。俺も大学でこんな友人ができますように。


『あ、ご一緒しましょうか? 今なら私達も外出れますし』


 俺が財布を掴んで玄関に向かおうとすると、貞代が話しかけてきた。


「いや大丈夫だ。帰りにAVの新作買いたいし」


『うわぁ……それ大学で言ったら駄目ですよ? 彼女絶対に出来ませんよ』


「言わないっつーの」



 蔑みから憐れむような貞代の死線から逃げるように外へ出る。そういえば服部さんにも頼みたいことあったしな、帰りに服部さんちに寄るか。俺はエレベーターへと歩き出した。

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