事故物件と俺 ~除霊手段が拳の霊能力者とユニークな幽霊娘たち~

平成忍者

第1話 俺、事故物件に入居

「ここが今日から俺の城か……」



 土曜日の早朝、とある都心の綺麗な築浅マンションの前で俺は感涙の涙を流していた。今日から俺も東京の大学生。

 いわゆるシティーボーイになったのだ。おっといかん。

 少しハイになり過ぎているのかもしれない。なにせ超絶ド田舎から憧れの東京に来たのだから。ようやく奇人変人ばかりの田舎から脱出できた。

 今はそれを喜ぼうではないか。

 色々と捜し歩いたおかげで安くていいマンションも借りれたしな!


 都心で駅前から近くて築年数5年、しかも結構広いのだ。

 家賃はなんと2万円! 不動産屋曰く「普通なら10万近くしますよ」とのこと。

 なんとお得な賃貸なんだと俺はすぐさま飛びついた。

 まぁかなりヤバい事故物件らしいけど俺なら大丈夫だろう。

 荷物はもう運び込んであるし、買い物も済ませた。大学は再来週からだし、週末は一人の時間を楽しむか!



 意気揚々と新居に入ってこうとすると、見知らぬ中年のオッサンがエントランスから出てきて鉢合わせになった。

 パジャマの上からコートを羽織り、黒い眼鏡をしているオッサンだ。少しダメ人間っぽさを感じるのは気のせいか?



「あ、君が引っ越してきた子かい? 俺、服部っていうんだ。よろしくな~」



 オッサンは俺に気づくとフレンドリーに挨拶をしてくる。

 表情や雰囲気、そして目元が優しげ……うん、俺の経験上この人は悪い人じゃなさそうだ。



「これはどうも。自分は鳥塚玲也っす! よろしくお願いします」


「元気な子だね~。何かあったらおじさんに言いなよ、相談位は乗るよ。なんたってお隣さんだしね」


「あ、お隣なんですか? 引っ越しの時バタバタしてすみません」


「いや、全然気になんなかったよ。それより大丈夫かい? 君の部屋……そのぉ……」



 服部さんの言いずらそうな雰囲気から俺は察した。おそらく事故物件のことを知っているのかと気になっているのだろう。



「大丈夫ですよ。俺、ここが事故物件って知ってるんで」


「あ、そうなの? でも大丈夫かい? 噂だと結構ヤバいらしいけど……」


「大丈夫、俺は人間が一番怖いって分かってるんで。なにせ地元でもっと怖いモノみたんで」


「え、どんなの? 気になるじゃん」


「丸出し男です」


「丸出し男……?」


「はい、デブのオッサンが下半身丸出しで徘徊してて、目が合うとフルチン揺らして笑顔で全力疾走してくるんすよ」



 俺は当時の事を思い出す。体重100キロは軽く越えてそうな男が陸上部さながらのスピードで迫ってくるのだ。アレは本当に怖い。

 別に触ってくるわけでもないが、笑顔で並走しながらひたすら着いてくるのだ。たとえ殴り掛かっても無駄に洗練された無駄な動きで攻撃を避けつつ、プロペラの如く回転させたフルチンでこちらを二重に意味で煽ってくる。

 その生理的な恐怖はとても言葉に出来ない。

 俺はまだいいが、アレに遭遇した女子生徒は恐怖でガチ泣きしたらしい。

 アレはヤバかった。服部さんもヤバさが分かったのか、恐怖に慄いているようだ。



「それは怖いね、田舎にはそんな猛者がいるのか……」


「一度あれに追われると幽霊とか怖くないですよ。人間が一番怖いっす」


「そうかもしれないな。あ、おじさんもう仕事行かなきゃ。もし幽霊でたら教えてくれよ、相談くらいは乗るからさ。じゃあなー」


「はい、失礼します」



 服部さんと別れると、俺は買い物袋を抱えてエントランスを潜る。さて、大好きな映画でも見ながらひとり暮らしを満喫しますかね!

 我が家に上がり込み、浮かれて夕飯の支度を始める俺は気づかなかった。

 すでに複数の気配が部屋に入り込んでいることに。

 ここで衝撃的な出会いをすることになるとは、この時の俺は知る由もなかったのだ。

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