予感

祖母が入院していた5年前の夏のことです。

翌日、家族でお見舞いに行こうということになっていたので、帰省しました。



その日は土曜日で、午前中にお見舞いに行った叔母の話では祖母はとても元気だったらしく、私がお見舞いに行くことを教えたら楽しみにしていたということでした。

早めに自宅に着いたこともあり、まず祖母の所に顔を出そうとも思っていたのですが、元気そうだと聞いていたし、久しぶりに息子と酒盛りができると思って喜ぶ父が、早々にビールの用意を始めて薦めてくるんですね。

久しぶりの帰省に家族の対応は、いわゆるお客様扱いでしたから。

至れり尽くせりでありがたいと思いながら、ビール飲みたさにさっそく風呂に入りました。

体を洗って湯船に浸かるやいなやなんですけど。



突然、祖母の苦しそうな表情と看護師が酸素マスクをつける映像が頭をよぎったんです。



まさか。

とは思いましたが、どうしても嫌な予感を拭うことはできず、まだ明るいしちょっと顔だけ見てこようかな?と思いなおし、すぐに風呂から上がると病院に向かったんです。

病院に到着し祖母の病室に向かうと、看護師の慌ただしい様子が目に飛び込んできました。



容体が急変していたんです。



看護師に事情を聞こうとしましたが、Y様の手を握って声をかけてあげてくださいとしか言われず、ともかく両親に連絡を入れて、言われるがままに手を握って声をかけ続けました。



私の声掛けに最初は何度か頷いていたんですが、そのまま祖母は、息を引き取りました。



ほどなく両親が病室に駆け込んできましたが、あのままお酒を飲んでいたら、私は祖母の死に目に会えなかったと思います。




「最後にあんたと話したかったんだろうね、おばあちゃん子だったし」と、共働きで祖母と過ごすことが多かった私に、母がそう声をかけてくれました。




不思議なことってあるんだなぁと思った話です。





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