第56話 プレゼント



翌日の日曜日。


俺と穂乃果は、新宿のウィステリア探偵事務所の事務所内にいる。

ちびっ子アイドル達の練習を手伝おうとしたら、メイから「グーグは邪魔なのネ」と言われ、穂乃果も花乃果の件もあり、聡美姉から事務所の留守番を仰せ使ったのだ。


つまり、俺と穂乃果は戦力外宣告を受けたらしい。


穂乃果は、事務所内を掃除している。

今は、入口の階段付近をせっせと掃いていた。


俺は雑巾で窓掃除だ。

雫姉が来て掃除してくれてるので、特に汚れたところはない。


掃除が終われば、後は留守番だ。


俺は買ってきたジュースと菓子パンを取り出して食べる。

勿論、穂乃果の分もある。


2人で午前中のティータイムをしてたら事務所の電話がなった。


〜〜〜〜〜

「はい」

「え〜〜と、デラックスピザとポテト、それとコーラをお願い」

「ここはピザ屋ではありません。番号を確かめて下さい」

「そうなの?ガチャ!」

〜〜〜〜〜


「間違い電話のようですね」

「ああ、困ったものだ」


だが、その直後道路に面した窓ガラスが割れて馴染みのあるものが放り込まれた。


「穂乃果!」

「はい!」


俺と穂乃果はその場を一瞬で離れる。


『ドッカーーン!!』


その場に大きな爆発音が鳴り響いた。





『今日の午前10時ごろ、シンジュ区の繁華街のビルで突然、爆発が起こりました。怪我人は出ていないようですが、ガス漏れの危険もある為、現場は騒然としているようです。では、現場の三島さんにつなぎます……』


「ニュースでは、ガス漏れによる爆爆発でおさまりそうだな」

「無粋な輩です。和輝殿が買ってくれた私のアンパンの餡が飛び出しました」


俺と穂乃果は、投げ込まれた手榴弾を見た瞬間に、その場から離れた。

爆発音で少し耳がやられた。

聞こえづらいが、鼓膜は破れていない。


穂乃果は、少し腕に破片が飛んで怪我をしていた。

俺も擦り傷を負っている。

大したことはないのだが、化膿したら困るので俺達は日下病院に来ている。


日下病院の待合室のテレビは、先程の爆発事件が流れていた。


「ほら、娘っ子、腕の傷見せてごらん」


今日は院長の婆ちゃん先生だ。

穂乃果は、その腕の傷を消毒して包帯を巻かれていた。

俺も、傷の手当てをされ、メイとの戦闘で負った腕のギブスを外された。


「あんたはもう良さそうだ。若いってのはいいねぇ。治りが早くて」


そんな事を言われても嬉しくない。

怪我などしないほいが良いのだから。


聡美姉達には、既に連絡を入れてある。

ちぼっ子達を預かっているので、屋敷内のセキュリティーを上げてもらう必要があった。


すると、スマホが鳴る。

聡美姉かと思ったら見知らぬ番号だ。

俺は録音機能を使いながらその電話に出た。

〜〜〜〜〜

「プレゼントは気に入ってくれたかい?」

「派手な贈り物は好きではない」

「ははは、それはボスからのものだ。感謝してほしいものだ」

「いろいろ聞きたいが、お前は誰だ?」

「その質問には答えられない。普通、そう問われて話すバカはいないと思うがね」


メイなら話してるだろうな……


「そうもそうだな。それより、あんたのボスはなんで俺を狙ったんだ?」

「ははは、君にはきちんと挨拶をと言われているのでね」

「では、あんたのボスに伝えてくれ。俺は派手なプレゼントは嫌いだ。安眠できる贈り物で返す、とね」

「わかった、伝えておこう」

〜〜〜〜〜


電話は切れた。

犯人からの挑戦状だ。


「穂乃果、こいつの声に聞き覚えはあるか?」


俺は会話をスピーカー状態にしてあった。

穂乃果は勿論、院長の日下の婆さんにも聞こえてただろう。


「いいえ、初めて聞く声であります」


断定はできないが、これは俺個人へのプレゼントだ。

というとユリアと一緒に活動してた頃、潰した組織の残党かもしれない。


俺は思いを巡らしてると、日下の婆さんは『蕎麦でも食うかね?』と言って俺達に出前の蕎麦を奢ってくれた。


良い婆さんだ。





俺はバイクに乗り、山手通りを南下していた。

聡美姉からNシステムのハッキングで、事務所を爆発させた白のバンがこの道を通ったという。


現場の後片付けのある穂乃果はその場に置いてきてある。

警察や消防の事務所への立ち入りに穂乃果が必要だった。


俺はインカムで穂乃果と通信する。


「今更、追いつくはずもないが」

「地道な作業は大事、足跡は消せない」

「そっちはどうだ?」

「立ち入り検査は終わった」

「そうか、ご苦労」

「いいえ、些細な事です」


今の事務所を見たら紫藤さんが怒りそうだな……


今の世の中は監視カメラで溢れてる。

例え追いつけなくても敵のアジトの検討ぐらいは見つけられる。


「下っ端を潰してもなんの意味もないと思うが」

「東藤殿にはボスの心当たりがある?」

「いや、全く」


「カズ君、対象は首都高3号線を用賀方面へ、そして東名高速に乗ったみたいだよ」


聡美姉からの連絡を受ける。


「わかった」


高速などに乗ったら逃げ場がないだろうに。

現場を襲った犯人達は、素人並みの頭しかないようだ。


俺の乗ってるバイクはYAMAHA RZ350、藤宮家別邸の車庫で眠ってたバイクだ。


乗るにあたって、ある程度のメンテナンスは必要だったが、今でも充分過ぎるほどエンジンが回る。


他にのオフロード系のバイクや大型のバイクもあったが、今の俺に怪しまれないで走らせるにはこれが1番だ。というか、これを走らせてるとおっさん達の視線を感じる。


前にもそんな視線を感じたな……


俺のバイクは首都高3号線に乗り込んだ。





〜藤宮聡美〜


「全く、頭にきたーー!!」


久々に私は怒ってる。

よりにもよってカズ君を狙うなんてっ!


「許さない、絶対許さない!」


お屋敷にあるコンピュータ・システム室。

主に、株取引や屋敷の防犯管理に使っている。


だが、今回は遠慮しない。

私の得意分野だ。


私は戦闘が得意ではない。

ある事件で警護官に自信がなくなり、落ち込んでいたところをお祖父様に、この屋敷に来いと言われた。


当時小学生だった私は藤宮家本家に居辛くなった。

そんな時に。声をかけてくれたのがお祖父様だ。


この屋敷の来た時は、紫藤さん達、お祖父様のお弟子さんがたくさん居た。

雫ちゃんと会ったのもこの時だ。


弱い私は、ここで戦闘訓練を受けつつも、お祖父様から情報収集の大切さを教わった。


戦闘が苦手な私にお祖父様がくれた生きるためのプレゼントだった。


私は、意外にもこういう事が得意らしい。

特にハッキングは、日本では右に出るものはいないと思う。

当時某国の軍のシステムに介入した事があった。

その時は、それがきっかけで戦争が始まるところまでいった。


あの時はお祖父様に怒られたっけ……。


でも、今回は遠慮はしない。

犯人は、カズ君を傷つけた。

それに、この日本で手榴弾を遠慮なく使われた。

事務所はめちゃくちゃだ。


これを許したら私の沽券に関わる。


常駐起動のシステムではない、ハッキング専用のシステムを立ち上げる。

10枚ほどのディスプレイが一気に明かりを灯した。

2台のキーボードで、プリグラムを打ち込む。


これは私だけができる両刀使いだ。


あくまで私基準だけど……


現場時刻の事務所前の監視カメラは、ウィステリア探偵事務所が設置しているものだから問題ない。


「いた! こいつらか!!」


白の商用車が事務所前に止まっている。

運転席に中年の男、女子席の女、30歳前後だ。

それに後部座席にも数人いるようだ。


車のナンバーは……と。


はい確定。


今度は車両登録を調べて……と。


やはり盗難車か……。


でも、車を抑えれば指紋や証拠の品を手に入れられる。


車は急発進して大通りへ。

靖国通りから山手通りを南下する。


絶対、逃さない!


いざという時のために、道路沿いにある監視カメラのハッキングはすんでいる。

それを起動させて……と。


ほう、こいつら素人みたいだね。

タバコを吸って、その吸殻を路上に投げている。


本当、証拠をあちこちに残すなんて素人以外考えられない。


既に自動車ナンバー自動読み取り装置、Nシステムをハッキングしてある。

ひとつのディスプレイには、その情報が映っている。


その隣のディスプレイには、犯人の顔から免許証の写真と照合するシステムで特定を自動演算で処理している過程が映し出されている。


その照合が完了したようだ。


草原坂茂 1982年8月14日生まれの38歳。住所は……。

その隣の女は……

九段上順子 1989年2月6日生まれの31歳、住所は……。


後部座席の連中は顔が見えないから今は特定できない。


コンビニでも寄ってくれれば、顔の判定ができる。


おっと、犯人達は首都高3号線を用賀方面に向かった。

このまま東名高速に入るのかしら?


バカな犯人だ。

高速で移動したら逃げ場がないだろうに。

それに、高速道路って、あちこちに監視カメラがあるんだからね。


相手が素人で良かった。

カズ君に電話しなくちゃ……


私はスマホを掴みカズ君をコールをした。


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