第52話 ローズさんを探せ!



俺は、いま焦っている。

謎の作詞作曲家ローズさんからの返信がこない。


蓼科さんには事前の連絡を入れて「いいんじゃない。アポとっておいて」とすんなり了承してくれた。


まあ、OKの返事を貰えたので良しとしよう。

残るは、ローズさんからの返信待ちだ。


俺の足は時計の秒針の如き正確に足音を鳴らす。

刻まれたリズムは一定であり、秒コンマ1秒の差異もないはずだ。


「カズ君、なに貧乏揺すりしてるの?」


「そうネ、食事中に貧乏よくないネ」


今は、夕食時、食卓には、雫姉と莉音がお手伝いした料理が並んでる。


「ああ、すまない」


「慌てなくても連絡はきますよ。会社員ならまだ仕事してる人もいますし」


雫姉は、そう言ってくれるけど時間がないのは事実だ。


「ねえ、ねえ、どんな振り付けで踊るの?」


珠美はダンスの方が気になるようだ。


「さあ、俺にはサッパリわからないぞ」


「お兄しゃんが頼まれたのは曲だけなの?振り付けは誰が考えて教えるの?」


莉音の標準語が上手くなってる。

まだ、イントネーションが違いとこもあるけど。


「それは、蓼科さんが……」


俺は答えようとして、嫌な予感がした。あの余裕の無い蓼科さんに言ったら完全に押し付けられそうだ。


「まあ、そうなったらカズ君がどうにかするしかないよね」


聡美姉は、そう言ってこの話をまとめてしまった。





珠美をお風呂に入れて髪を洗い終わった頃、眠気が襲ってきた。

昨夜は、倉庫で仕事したし、お風呂に入って緊張が緩んだようだ。


「カズお兄ちゃん、眠いの?」


珠美に気づかれるとは、我ながら情けない。


「大丈夫だ。少しだけだから」


俺はそう返答してやり過ごす。

そして、お風呂を出たときには、完全に眠気が襲ってきたのである。


珠美の髪を乾かし、俺は自分の部屋に行っとベッドに横になった。


目覚めたなは、翌朝のいつもの時間だったのだ。


しまった!ローズさんからの連絡が……


俺はスマホを取り出して内容を確認する。

だが……きてない。


連絡がきてなかった。

俺はもう一度ローズさん宛にDMを送る。

この時間なら朝目が覚めて気づくだろう。


頼むから返信してくれ!


そうか、運営に連絡して連絡先を教えてもらえば。


運営規約を見ると如何なる場合においても個人の連絡先を教える事は出来ません、と書いてあった。

 

ダメか……


俺はローズさんな他の動画も見てみた。


ローズさんらしい曲が他にも4曲ほどアップされている。


その中に、イラストが多かった動画に唯一、風景を写した動画がある。最初の作品で、多分本人が散歩しながら撮影したようだ。


もし、今日中に連絡がとれなければ手掛かりは、この散歩した動画しかない。


俺は祈るような気持ちでその動画を見ていた。





そして、丸1日経過した。

返信は相変わらずきてない。

もう、時間がない。


俺は私服に着替えて、外に飛び出す。

庭では雫姉と莉音が掃除をしていた。


「雫姉、バイク借りるよ」

「あ、カズキ様、どこへ?」

「あの動画の主に会ってくる」

「わかりました、お気をつけて」


散歩動画のに映っていた電柱の番号と流れる川、そして上信越自動車道の側道をを頼りに俺はその現地に向かう。

学校はサボりだ。


バイクは、関越自動車道を乗り、上信越自動車道へ。

そして、サクICで降りて市内に向かう。


市内を周り、何度も見た動画の場所を探す。

確か、川原の道から出発してたはずだ。

広がる風景は長閑な畑。

季節の花が道路脇の咲いている。


1時間ほど地図と動画を頼りにその場所を特定する。

思った通り、電柱番号があっている。


さて、ここからどうやって探すか……


お金はある程度持ってきている。

仕方ない、やるか。


俺はもう一度市内に戻り、外部スピーカーの付いた車を探す。

選挙活動などで使用するため、あるとこにはあるのだ。


俺は一台の車を発見。

そして、その会社に飛び込み事情を話し、現金を支払って車を貸してもらった。


アメリカで免許は取得済みだが、日本で運転するのは初めてだ。


ローズさんがここに住んでいるとは限らない。

だが、手掛かりはここしかない。


車にスマホを接続。

ローズさんの曲を外部に流して車を発進させた。


それほど大きな音で音楽を流していない。

警察に見つかったり、通報されればそれまでだ。


音楽は流して、車は市内へ。

あれば、その人に聞けばいい。


10分‥‥15分……。


車で回っていると、通行人はなんだと怪訝な目を向けてこっちを見るが、気にしてはいられない。


そして、市内を一通り回っても反応がないので、少し郊外に行く。


流している音楽は、勿論、ローズさんのものだ。

家と家の距離が遠い。


そして、俺は一軒の家を見つけた。

窓から不思議そうにこちらを見ている女性がいる。

庭には薔薇の花がアーチを作り門代わりになっている。

そして、庭先にも咲き誇り綺麗な花。


この人に間違いない。


俺は、その家を訪ねる。

表札には木野里と書いてあった。


車を止めて、降りる俺を窓から見ていた女性はジッと見ていた。


「ローズさんですよね?」


「えっ、なんで!?」


それは驚くだろう。

直接アポも無しに訪問するなんてルール違反だ。


「メールを送った東藤です。ローズさんの力が必要なんです」


窓から覗く女性に俺は頭を下げて頼み込む。

これでダメなら土下座しかない。


「わかりました。少しお待ち下さい」


玄関の鍵が『ガチャ』とあき、ドアが静かに開いた。


そこには車椅子に乗ってる20歳ぐらいの女性が俺を見つめていた。





「木野里香織と言います」


「東藤和輝です」


お互い目があい自己紹介をする。


「ローズさんですよね?」


「はい、私がローズです」


「良かったーー!」


俺は嬉しくなり、思わずガッツポーズをしそうになった。


「あの、どうしてここがわかったのですか?」


「ローズさんの最初にアップした曲の映像がこの付近でしたので、探させてもらいました」


「あの映像からこの場所に?」


「ええ、上信越自動車道や電柱に貼ってある番号を特定して、おそらくこの辺に住んでいるのでは、とあたりをつけました。映像の目線が低かったので不思議だったのですが、車椅子で散歩しながら撮影したのですね。あ、すみません。少し踏み込みました」


「いいえ、気にしないで下さい。私もメールがきて返信をしなかったのがいけないのですから」


「どうしてか、お聞きしても?」


「揶揄われていると思ったのです。それに、私はこの有様なので人とお会いするのは苦手なんです」


そうか、車椅子を気にしていたのか……


「こちらこそ、すみません。でも、どうしてもローズさんの曲を使いたいのです。詩も歌もピッタリなんです」


「それは嬉しいのですが、なんでそこまで……」


「『FG5』というアイドルグループはご存知ですか?」


「はい、すごい人気ですから知っています。私もよく歌いますよ」


「その妹分の『苺パフェ8』というアイドルグループがいます。小学生高学年を中心とした女の子のグループです。来週の日曜日にミニコンサートを行います。その時のローズさんの歌をその子たちのオリジナル曲として使いたいのです」


「ああ、それで……。あの歌は少し子供っぽい感じで作りました。私がまだ歩けていた時の事を思い出して」


「そうでしたか……」


「だから、あなたが小学生高学年の子達の歌をという理由がわかりました」


「それで、ローズさんの歌を使わせてもらえますか?勿論、作詞、作曲はローズさんとして契約して頂きます。売り上げに応じた印税もそれなりに入ると思うます」


「わかりました。こちらこそお願いします」


それからは、蓼科さんに連絡をして、契約書の雛形をFAXで送ってもらった。

本契約は郵送のやり取りでできるようだ。


ローズさんこと木野里香織さんは、ふわふわな髪にカチューシャをしているとても可愛い人だった。年齢は秘密だそうだ。


ローズさん曰く、突然、自分の曲が外から聴こえたのでビックリしたそうだ。

俺も、正直どうかと思ってた。


来週の日曜日のコンサートに良かったら来て下さいと誘ったけど、家の者に聞いてみないと、と言われてしまった。


車椅子での移動となると大変なこともあるのだろう。


俺は、ローズさんの家を出ると車を返してバイクに乗りトウキョウへ。

辺は既に陽が山に差し掛かっており、綺麗な夕焼けが見送ってくれてた。


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