第7話 ダルクの過去

「──わかったよ」


 そして俺たちは部屋に戻り、就寝。布団の中で目をつぶりながらダルクのことを考える。



 ダルク、子供ながら両親を失っているという重い過去を持つ存在。

 不器用で人となじむのが得意でないことがよくわかる。実は文香もそうだったな。全体的に2人は似ている。

 あいつ愛想と反応はいいから周囲からは優等生として認識されているけど、本当は不器用なんだよな。

 彼女の素を知っている俺だからよくわかる。

 気持ちを伝えるのが下手だから暴力に頼る。罵倒する。


 けれど、根っから悪いやつではないというのもわかる。ダルクだってそうだ。何とか、ダルクとは分かり合えるといいな。


 そんなことを考えながら俺は夢の中に入っていった。




 翌日。朝起きてから、朝食を済ませたころ。


「ただいま」


 教会の管理人である神父さん「コルテス」さんが返ってきた。長いひげをした、年配の人だ。


 俺はコルテスさんに彼が留守だったときに起こったことを話す。もちろん文香が今いないことも。


「そうですか、それは残念ですね……」


 彼女がいないことにがっくりと肩を下す。まあ、本性を知らないなら納得だ。どこかで会わせてやりたいけどな。


 そして子供たちとも再開。久しぶりの体面に子供たちは大はしゃぎ。

 そんな姿を俺はじっと見ている。しかしダルクだけは腕を頭に組んでそっぽを向いていた。

 明らかに孤立しているのがわかる。



 ドントン──。


 誰かが玄関の扉をノックしてきた。俺はすぐに返事をして扉を開ける。


「おはようございます。突然な話ですが、信一さんと文香さんにお願いがあります」


 そこにいたのは金髪でロングヘアのお姉さんだ。確かこの村のギルドの支配人だっけ。


 話を聞くと、南の森で魔王軍の大群が現れたらしい。ギルドの人がそう言って俺の元にやってきたのだ。


 とりあえず文香はいない。ちょうどコルテスさんが返ってきたから子供たちの心配をする必要はない。


 俺だけでも行くか。


「す、すいません。文香は今いないんです、私1人でもよろしいでしょうか」


「そ、それは仕方がありませんね……」


 お姉さんが少し残念そうな表情をし始めると、背後から1人の少女が話しかける。


「俺でよければ、参加してもいいぞ」


 ダルクだ。その言葉にお姉さんは戸惑いを見せる。


「気持ちはうれしいですが、ダルクさんの噂、ギルドでも噂になっています。何でも無茶苦茶な特攻をして周囲を困らせているとか──」


 この村、オラデューヌ村は、王国の国境付近に位置する小さな村。小さい村だけあって噂が出るとあっという間に広がってしまう。

 その言葉にダルクは言葉を失う。


「申し訳ありませんが、子供が戦死すると、責任問題になるんですよ。周囲の村からも冷たい目で見られるんです。子供を犠牲にする冷酷な村と後ろ指をさされてしまうんです」


 ダルクは歯ぎしりをしたままうなだれる。確かに彼女1人なら危ないかもしれない。


 それなら──。


「じゃあ、俺が常に彼女を見ます。そして俺の援護役をさせるだけならいいですおよね?」


「そうですか、それならば大丈夫だと思います。くれぐれも気を付けてくださいね」


 とりあえず納得してくれたか、良かった。そしてお姉さんは俺たちに軽く状況や、報奨金の説明をする。



 説明が終わると、彼女は帰っていき、直ちに出かける準備が始まる。


「信一さん。ダルクさん無事でいてくださいね。それでは行ってらっしゃい」



 コルテスさんの優しい声かけ。当たり前だ、必ず2人で帰ってくる。



 そしてコルテスさんや子供たちにも守られながら俺たちは出発。


「行ってくるね!」


「お兄ちゃん行ってらっしゃい。絶対帰ってきてね」


「わかったよ」


 挨拶を済ませ、俺たちは戦場へ。



 歩いて少し経つと、うっそうとした森の中に入る。

 この辺りは王国の国境沿い。ジャングルを抜けると魔王たちが支配する地区となっている。


 なのでこのオラデューヌ村は、魔王軍との戦いの最前線ということだ。

 だから寝返り工作だってそれなりにある。文香の時のように。


 そんなことを考えていると、ダルクが俺に話しかけてくる。


「お前、さっきコルテスに俺は最前線で戦わない。後方支援だけでいいとか言ってたが本当なのか?」


「なんでそう思った?」


「お前、本当にそう思っているのか? 多分俺魔王軍を見た瞬間、頭に血が上ってぶっ殺しに行くかもしれないぜ」


 その質問に俺は、ニコッと笑みを浮かべる。よく気づいたな。


「戦場は生きるか死ぬかの世界。そこにいれば嫌でも命がけで戦わなくてはならない。方便だよあんなの」


 まあ、あそこで我慢しろなんて言っても聞かないのがわかってた。だったら適当な理由つけて、行かせた方がいいと考えた。それだけだ。


「まあ、奇襲されてやむを得ずとか言っておけば大丈夫。何かあったら俺が守ってやるから思う存分行け」


「気前いいなあんた。じゃあ、そん時はよろしくな!」


 ダルクはにっこりとし、気分を良くする。

 そして他の村人たちとも合流。騎士の格好を着たリーダー格の人が俺に話しかける。


「前方から魔王軍の気配がする。この辺りで待伏せしよう」


「そうだな」


 他の村人に作戦に俺は首を縦に振る。俺たちが進んできた道はこの先の魔王軍の土地に通じている道。ということは魔王軍たちはこの道から侵略をしてくる可能性が高い。


 いきなり出会って真正面で戦うより、茂みに隠れて待ち構え奇襲をした方がいいという判断だ。


「わかった、俺とダルクは右に隠れてる。あんたたちは左に隠れてくれ」


「了解、ご武運を祈る」


 そして俺たちは道をそれ、ジャングルの茂みに隠れる。

 隠れてから30分くらいたったころ──。


 カッカッカッ──。


 道の向こうから誰かがこっちに向かってくる足音がする。


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