第96話 now loading……④

 生まれて初めての恋に私はどうしていいか分からなかった。

 否、どうすればいいかは分かっている。

 ただ単に、思いを告げて、それを拒否されるのが怖くて仕方が無いだけだ。

 苦悩の日々。

 私は退屈な人生とおさらばし、喜怒哀楽に満ちた人生を歩んでいた。

 それは充実した人生だった。


 私はゲームにジェス姫への思いを込めた。

 クリアすれば、私の思いがエンディングにのせてスクロールされる様にした。

 それをディオ王の玉座の下にそっと置いておいた。

 ディオ王の間を掃除するのは、ジェス姫の役割だった。

 だから、彼女が見つけてくれることを期待した。


 だが、ゲームはお転婆なジェニ姫が、王の間を荒らし回ったことで彼女の手に渡る。

 ゲームは彼女の遊び道具になった。



 どうしようも無い思いを抱えて苦しむくらいなら、告白していっそのこと楽になりたい。

 私はジェス姫を呼び出した。

 だが、結果は……


「ごめんなさい」


 生まれて初めての挫折と、虚脱感、そして彼女を失った喪失感が同時に胸を襲った。

 それでも、私は彼女の言ったことが信じられなかった。

 否、信じたくなかったのだ。

 彼女を失うということは、元のつまらない空虚な生活に戻ることを意味していたからだ。

 私は四六時中彼女の側について回った。(もちろん見つからない様に)

 時は流れ、予言通り魔王ハーデンが大地に降り立ち、王国は混乱に包まれた。

 私はディオ王の勅命を受け、ジェス姫とパーティを組んで出撃することを心待ちにしていた。

 戦いでいいところを見せれば、彼女の気持ちを変えることが出来る。

 そう思っていた。

 この後に及んでもまだ、私は彼女のことを信じていた。

 

 ある日、ジェス姫は姿を消した。

 数日後、彼女が平民と駆け落ちしたことを知った。


 私はもう、こんな世界に生きていても意味が無いと思い、自殺した。



 だが、私は死んでいなかった。


 正確に言うと生まれ落ちた瞬間、つまり赤ん坊として生まれ変わっていた。

 赤ん坊なのに、自殺前の記憶(前世)はしっかりある。

 これはきっと生前、何かのスキルに目覚めていたのだろう。

 ゲームに慣れ親しんでいた私は、これがきっと死に戻りなのだろうということに当たりを付けた。

 数年経って、ある程度物心がついた時、魔法で自分のスキルやステータスを確認した。

 思った通りだ。


 『死に戻りの無限ループ(自殺した場合のみ) セーブポイント付き』


 こんなスキルが身についていた。

 セーブポイントというのは恐らく、ループの開始ポイントを設定出来るということか?

 私は自殺する前にセーブポイントを設定しなかった。

 そのせいで、生まれた時に戻ったのか。

 どちらにしても、ジェス姫に何度もアタック出来るチャンスがこれで出来たわけだ。



 だけどダメだった。

 彼女は何度も私の思いを拒否した。

 その度に、私は自殺して、最初からやり直した。

 その度に、私はなるべく同じ生き方をしない様に心掛けた。

 些細な会話の内容や、覚える魔法の順番を変えてみたり、知り合う人間を変えてみたりした。

 私の行動で未来が変わると思っていたからだ。

 だけど、結果はいつも同じだった。


 10ループ目から私は惚れ薬の開発に取り組んだ。

 魔法の力を使ってジェス姫をものにしようとした。

 開発は難航した。

 何で、魔法が得意な私でも作れないのか。

 出来上がる前に、ジェス姫がいつも駆け落ちする。

 27ループ目。

 やっと惚れ薬、完成。

 ジェス姫の水筒の水に、そっと混入させてその体内に送り込む。


 彼女の瞳孔が一瞬、開き掛けたが、すぐに正常に戻った。

 薬が効かない。


 

 私は駆け落ちする彼女を強引に奪うことにした。

 ある夜、ジェス姫が城を出る。

 その後をつける。

 城の森の中で、彼女と手を取り合っていたのは、白装束に黒髪のあの治癒魔法使いだった。

 女同士、彼女たちは手を取り合って森の中に消えて行った。


 私は薬が効かない理由が分かったと同時に、自分の努力が徒労に終わったことを感じた。


つづく

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