第80話 運命を変えられるのは私だけ

 ケンタは私が何度軌道修正しようとしても、間違った方向に進もうとする。


「いい加減、何度目?」


 そう問い詰めると、キョトンとした顔で私を見つめて来る。

 普通の顔のくせして、何か可愛いから、むかつく。


 またいつもの朝が始まった。

 グランの結婚式当日の朝。

 窓から見える親衛隊の行進を私はもう何度も見た。

 冷静に数えてみると、8回目。

 そうか、意外に少ないのかな。

 比べる物が無いから分からないよ。

 つまり、私は7度死んだことになる。


『死に戻りの無限ループ』


 私はこの自分の身に起き始めた現象をそう呼ぶことにした。

 この現象は以下の通りだ。


 私が死ぬと、グランの結婚式当日の朝に戻る。

 

 生まれた日に戻るとかじゃないんだ。

 それが、初めてループした時に思った率直な感想だった。

 死ぬ前、前世って言った方がいいかな。

 その頃の記憶はしっかり残っている。

 例えば、一回目。

 私はマリクの血を盛大に浴びたことを覚えている。

 真っ赤に染まった私は、しばらく身動きが取れなかった。

 気付いたら、ケンタはグランに切り裂かれ死んでいた。

 その直後、私もグランに切られて死んだんだけどね。

 死んだって思った時、世界が暗転した。

 一瞬だったかもしれないけど、永遠に近い長さだったかもしれない。

 どれくらい時間が経ったか分からない。

 眠りから目が覚めた時、眠っていた時間を感じないのと同じように、私は目が覚めたのだから。

 私はグランの結婚式当日にループしていた。

 その後も、死ぬ度に同じ景色からスタートする。

 私は死ぬ前の記憶を積み重ねて行く。


 これは何かのスキルなのだろうか?

 だとしたら、何がきっかけで目覚めたのだろうか?

 この世界における、スキルに目覚める条件は以下の通りだ。


 ガチャを引いた時。(何が身に着くか分からない。獲得確率100%)

 親からの遺伝。(親のスキルを受け継ぐ場合がある。獲得確率50%)

 異性との接触。(そういうこと? キスだけでも? 分からん……獲得確率1%)

 ※『世界スキル概説論』より


 3つ目のは、頭の中で想像するとちょっとドキドキする。

 そう言えば、私はマリクの血を浴びていた時、そんな嫌な気持ちじゃなかった。

 どこか官能的というか……。

 やだ。

 もしかしたら、私、血を通してマリクと間接的に……。

 まぁ、少女の豊かな想像力はとどまるところを知らないわけでして。


「じゃ、ジェニ姫。そろそろ行きましょう」


 ケンタが元気いっぱいに、私を誘ってくる。

 彼はグランの結婚式に行きたいと、さっきから、いや、何回ループしても言ってくる。

 つまり、この世界で死に戻りをしているのは私だけだということだ。

 そして、ケンタは再びグランに殺されるという過ちを……。


 それを軌道修正してあげられるのは、この私だけだ。


つづく

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