第118話  激闘、そして結末

 集いし希望の光よ、その思いを結集させ、新たな希望を照らし出せ!!

 スターダスト・ボルテックス・エアレイド



 空中にいるユピテルは身動きが取れず、剣を前に繰り出し、攻撃を受けようとする。


 ──が無理な体制だったためか、十分受けきれずユピテルの体がのけぞる。


 そのまま体を回転させ、ユピテルに攻撃を放つ。

 体勢を崩していたユピテルは十分な受け身をとれず、攻撃が直撃。


 吹き飛ぶユピテルの体。そのまま数メートルほど吹き飛び、受身をとる。これ以上の追撃はやめた方がいい。


 そしてユピテルはすぐに立ち上がり、剣を俺に向けながら話しかけてきた。





「流石だなアグナム。貴様こそ、俺の生涯のライバルと呼ぶにふさわしい存在だ」


「ありがとう。それはうれしいよ」


「──だが、一つだけ言っておくべきことがある」


「な、何だよ」


「確かに貴様は強かった。パワーも、テクニックも、そして最後まであきらめずに戦う精神も。いままでであって来た魔法少女の中で一番といっても過言ではない。認めよう、貴様の実力。だが、最後に勝つのはこの俺だ!」


 そしてユピテルは深呼吸をし、精神を統一させた。

 まずい、何かをやってくる。すぐに辞めさせないと──。


「ありがとう。けれど、俺は負けるつもりなんてない。絶対に、ユピテルに勝って見せる!」


 俺はそう叫びながらユピテルに向かって距離を詰めていく。


 そして間合いに入っていき剣を振り下ろしユピテルに放つ。手加減はしない、全力の一撃。


 しかし──。


「フッ。流石はアグナムだ。だが、甘いぞ!」



 俺が放った一撃を、ユピテルは軽々と植えてしまう。手加減したつもりはなかったのだが、剣がこれ以上進んでいかない。


「すっげええなあ二人とも」


「やっぱりレベルが違うぜぇぇ!」


 会場の観客も大盛り上がりを見せる。





 さっきとは速度が違う。さっきまでは攻撃こそ防がれていたもののペース自体はスピードのある俺が握っていた。

 しかし今は違う。俺とほぼ互角の速度で




「ユピテル。お前、まだ力を隠し持っていたのか」


「隠していたわけではない。お前の速度に、ついていっているだけだ」




 そんな相手が、全力で俺を倒すと言っている。それならば、返す言葉は、やることは一つだ!


「ありがとう。けれど、その だって俺は破ってみせるよ!」


 両者一歩も引かず、手加減もなく渾身の一撃を相手にふるう。


 その姿はまるでダンスを踊っているかのようだ。

 美しく、手を取り合い踊っているかのような──。


 二つの輝いた宝石が、互いに磨きあい、高みを目指しているようだ。

 体が軽くなり、パワーもスピードも増しているのがわかる。



 ユピテルも、それに乗じて力を増しているのを感じる。



 俺はユピテルより先手を取ろうと。ユピテルは圧倒的なパワーで押し潰そうと、持てる力のすべてを出し尽くす。


 互いに全く手加減をしない。



 ライバルというやつだ。

 互いに互いを信頼できる存在として認識している。ピンチの時には助け合い、共に戦う。


 けれど、どっちが強いかと聞かれたら自分が強いと胸を張って言える。

 死んでもいいから勝ちたくないという相手。


 俺は生まれてきた中で初めて生まれた存在。

 それでも、目の前の相手は一歩も下がらない。


「俺だって本気だ。そして、その本気で貴様を打ち破って見せる!」



 相手はユピテル。今までの敵よりずっと強い存在だ。


 味方だったときはあんなにも頼れる存在だった。それが今や敵同士、優勝をかけて戦う相手となっている。


 それが今や俺の優勝を阻む最大のライバルになっている。俺がどれだけ力を高め、新たな戦術を生み出しても、ユピテルは当たり前に乗り越えてくる。


 そんなユピテルだからこそ、こんなところで負けるわけにはいかないと、絶対に勝って見せると強く感じられる。



 そして俺はユピテルと全力で戦い続ける。


 ──互いを高めあうような、激しい戦いの中で、俺はとある感覚に襲われ始めた。



「──ユピテル、強くなってる」




 急にユピテルの速度についていけなくなり始めたのだ。

 まるで戦っていくごとにユピテルの攻撃が早くなり、パワーが強くなっていくような感覚に襲われる。


 俺は何とか攻撃に対応しながらも動揺を隠せなくなってしまう。


 すると後ろの観客席で座っていた女神「パージ」が突然席を立ち始めた。



 まるで痛みをこらえるような、悲痛さを感じられる表情で、俺の方をじっと見ている。


「サナさん。とうとう恐れていたことが起きてしまいました──」


「恐ろしいこと?」


「生まれ持った魔力です」



「魔法少女の体内には魔力があります。その魔力は日ごろの鍛錬、そして互いに力を磨き上がっていく中で高めていくことができます。先ほどまで、二人は死闘を繰り返していく中で互いにその力を高めあっていきました。しかし、成長速度には限界があり、それは魔法少女によって速度が異なります」


 その言葉を聞いて俺は理解してしまう。俺がユピテルについていくことができなくなった理由を──。


「もうお分かりいただけると思います。今、互いに力を認め合い、ぶつけ合う中で今までにないくらいの成長速度で二人は強くなりました。しかし、戦いあっているうちにアグナムの成長速度が限界に達してしまったのです。もう、アグナムの成長速度は速くなることはありません。しかしユピテルは違う、アグナムの倍以上の容量があり、今もなおその力を高めることができる。どこまでも高みを目指すことができる」


 それは、今まで聞いたどんな言葉よりも非情で残酷なものだった。


「大変申し訳有りませんが、アグナムさんはこれ以上、ユピテルさんについていくことはできません」

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