第104話 速攻、しかし──

 背後から誰かの声が聞こえ始めた。

 そして身体が暖かく感じる。体中に魔力がみなぎっているような感覚だ。


「カグヤ、何をしている。罪滅ぼしか?」


「黙れ 私の、最後の意志だ」


 背後を振り返ると倒れこんでいるカグヤの姿。苦しそうにこっちに右手を向けているのがわかる。そしてそこから感じる魔力。


「カグヤ──」


 ユピテルも、同じように体に魔力を感じているのだろう。

 そう、この与えられている魔力はカグヤから与えられたものだったのだ。


「私の力だ、そこまで残ってるわけじゃないが、使ってくれ」


「え、でもカグヤだって相当消耗しているはずじゃ──」


 するとカグヤはフッと笑みを浮かべながら言葉を返して来る。



「ああ、確かに限界に近い。けれど、二人が必死になって私のために戦ってくれたんだ。今度は、私が二人のために力を振り絞る番だ!」


 ボロボロながらも、どこか誇らし気な表情を見て、強く感じた。


「ありがとう、カグヤの勇気絶対に無駄にしないから」


「ああ、アグナムと一緒だ。礼を言うぞ」


 確かにカグヤとはさっきまで敵同士で、互いに全力で戦っていた仲だ。

 けれど、彼女が最後の力を振り絞って魔力をくれたんだ。勝つ以外、俺に道はない。



「フッ、幸いだったなアグナム。ユピテル。だがその程度の、焼け石に水の魔力で、我に勝てると思うなよ──」


「貴様こそ、俺の前で自分の力にうぬぼれていることが、どれだけ命とりかその身に教え込んでやる!」


「そうだ、ユピテルの言う通りだ。確かにお前に事情があったことは認める。けれど、俺達だって譲れないものがあるんだ。必死に戦ってきたんだ。それを自分勝手な思いで踏みにじられてたまるか!」


 そうだ、俺達にだってまもるべきものがある。確かにこの街にも問題はあるけれど、だからといって全部打ち壊すなんて間違ってる。


 間違いがあれば、正せばいい、少しずつでも、変えていけばいい。外から得体のしれない力を呼んで、全部破壊するなんて間違ってる。



 だから、負けるわけにはいかないんだ!



「さあ、想いを通せるのは勝者のみ。我が憎いというならば、かかってこい!」


「望むところだ!」




 そして一気にケオスに向かって切り込む。

 俺は右から、ユピテルは左からほぼ同時のタイミングだ。


 カグヤに回復させてもらったとはいえ完全には回復していない。

 長期戦になれば魔力の差をつかれて不利は必至。ならば短期で決着をつけるしかない。


 恐らくユピテルもそう考えていたのだろう。だからやることはほぼ同じだった。



 恐らくユピテルもそう考えていたのだろう。だからやることはほぼ同じだった。


 ケオスだってバカじゃない。そんな単純な攻撃はすぐに読まれ、対応されてしまう。

 それでも俺たちは何とか突破口を見つけようと立て続けに攻撃を繰り出す。

 コンビネーションは悪くない。最初は敵だったとはいえ、ずっと一緒にいた仲だ。十分連携はとれている。


 ユピテルが思いっきり剣を振りかざすと、ケオスがそれに対して反応する。その瞬間、俺は逆方向から一気に攻め込んだ。


 スピードを上げて一気に攻撃に入る。

 ユピテルも俺の攻撃に合わせてスピードを上げた。ケオスは対応できない。


 さっきまでの戦いで体力を消耗している分、すぐに決着をつけたい。

 そう考え、この一撃で勝負を決めようと勝負に出た。恐らくユピテルもだろう。


 そして両方同時に彼に向かって一撃を加える。

 俺達の放った一撃はケオスに致命傷を与えた──はずだった。


「こ、攻撃が通らない??」


「どうした。この程度か?」


 確かに俺とユピテルの一撃はケオスの腕に直撃した。特に障壁を張られているわけではない。


 キリキリと音を立てながら彼の腕にダメージを与えようと必死に力を入れて切り込む。


 まるで鋼鉄の分厚い壁に剣を入れているようで、彼の皮膚から先へ行かないのだ。

 ケオスは余裕の笑みで言葉を返して来る。


「本気を出せ貴様ら。そのようなお遊戯ではこの私にかすり傷一つ負わすことはできぬぞ。それとも、すでに本気を出しているのかな?」


 俺はその瞬間ケオスから離れ距離をとる。彼からただならぬ魔力を感じ、身の危険を案じたためだ。


 ユピテルも、同じ反応をしていた。


「では、こちらの反撃と行かせてもらうぞ!」


 そしてケオスが攻撃に出て来る。

 目標は俺の方だ。俺は上段から振り下ろされる剣を受け止める。その瞬間今まで感じたことがない衝撃が襲い掛かる。ケオスはそのまま滅多打ちをするように連続攻撃を仕掛けてきた。


 速さはそこまでではない。テクニカルな部分があるわけでもないのだが──。


「なんだ、この一撃」


「先ずはお前だ、沈めアグナム」



 あまりのパワーに全くガードできない。規格外ともいえる一撃。


 そして俺たちは体を吹き飛ばし、闘技場の壁にたたきつけられる。

 おまけに乱雑に見えてスキが見えない。あまりの力任せの攻撃に受け流すことも出来ず、防戦一方だ。


 こうして打ち合っているだけで魔力が削られていくのがわかる。


「どうした、我を倒すのではなかったのか?」


「まて、俺を無視するとはいい度胸だな!」


 するとユピテルが背後からケオスに向かって切り込んでくるのがわかる。俺を相手にしながら背後からくるユピテルに対応するのは簡単ではないはずだ。


 しかし──。


「甘いぞユピテル、その程度か?」


 ケオスはその攻撃を簡単に防いでしまう。しかしユピテルの攻撃は止まらない。


「そんなわけなかろう。貴様を倒すまで、俺の攻撃は止まることはない」

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