第102話 勝者は

「甘いぞモルトケ」


 そのままユピテルは体を回転。モルトケの背後をとることに成功。モルトケもそれに気づき体を反転させるが間に合わない。


「くらえ! お前に致命傷を与えてやる」


 ユピテルは無防備なモルトケの背後で思いっきり剣を振り下ろす。手加減などしない。

 ほとんど全力で攻撃しているのがわかる。


 その直後──。


「ぐああああああああああああああ」







 ユピテルの全力の悲鳴がこの場一帯に響き渡った。





 最初に有効打を与えたのはモルトケだった。


 傷を負った腕を抑えるユピテル。ユピテルは今の一連のことに対して驚愕している。


「ハハハ──、強力な爆撃、煙を利用してからの雲隠れと奇襲。そこまではよかった、しかしここまでは予想できなかっただろう」



 確かに今のユピテルの攻撃はよかった。

 強力な攻撃ながらも単調にならず策を巡らせた。


 そして相手の攻撃の裏をかいて背後へ。

 無防備な背中一撃を食らわせた。


 そこまでは完ぺきだった。

 しかし、それ以上刃が通らなかったのだ。まるで、その肉体が鋼鉄でできていたかのように。


 互いに譲らない、互角の戦いから一転戦いはモルトケペースとなる。


 しかしユピテルも負けてはいない。押され気味ではあるものの後退しながらうまく対応している。


「どうした。最強の魔法少女ともあろうお前が押されっぱなしではないか。」


 表情が険しくなるユピテルとは対照的に余裕の笑みを見せ始めるモルトケ。


 そしてとうとうユピテルは強力な攻撃を受けて大きく後退してしまう。


「さあ、今日は貴様は敗北する番だ」



 大きく体を回転させ勢いをつける、そしてそのままユピテルへと向かっていく。


 ユピテルは特にリアクションを取らない。ただ無表情でモルトケを見つめる。そしてモルトケの剣がユピテルを切り裂こうとしたその時──。



 ユピテルは素早く剣を構え、一気に向かってくるモルトケに向かって振りかざした。


 特に派手に大技を出したわけではない、たった一回の斬撃。

 しかし、その時の彼女の目は、今までに感じたどんな目よりも強く、そして怖く感じた。



 その斬撃はモルトケが放った攻撃を力づくで跳ね返し──。


「ふざけるな、この程度のお遊戯でこの俺様に勝とうなど百年早いぞ!」


 そのままモルトケに向かって剣を振り下ろす。

 モルトケはまさか自分の本気の一撃が、真正面から力負けするとは思っていなかったらしくユピテルの斬撃をガードできずそのまま受けてしまう。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 今までにないくらい大きな大爆発を起こし、数メートルほどモルトケの肉体が吹き飛びそのまま地面に倒れこむ。

 よほど大ダメージを受けたのか、立ち上がることができない。


「ゴホッ、ゴホッ、バカな──。私の攻撃が破れるなど、貴様などに……、この私が破れるなど、あってなるものか──」


 倒れこみながらユピテルをにらみつけるモルトケ。ユピテルは腕を組んだまま毅然と言葉を返し始めた。


「貴様がどれだけ現実逃避をしようと、これが現実だ」


「バカな、この私が負けるなど──」



「確かにお前は、今まで戦ってきた敵よりも力がある。強さで言えば、トップクラスだ」



 それを粉砕するかのように圧倒的な力で

 モルトケは、この攻撃は予想外だったせいか対応することはできず


「だが浮足立ったな。最初のお前は、確かに俺を警戒していた。前のめりになりすぎず、勝利のために最善を尽くしているように思えた」


 ユピテルの言葉、それは俺も感じる。戦い始めは、彼女が相手だけあってどこか慎重だった。

 しかし、徐々に優位になっていくにつれて表情にも笑みが出て、ゆるみが出てしまっているようにも感じた。


 ユピテルは、おそらくその瞬間を狙っていたのだろう。


「しかし俺に対して優位に戦えると思い込んだ瞬間エサに食いついた魚の様に一気に浮足立った。それまでの緊張感から解放され、スキができ始めた」


 モルトケの 腕がプルプルと震えだす。よほど怒りに震えているのだろう。


 そしてすぐに立ち上がり一気にユピテルへと向かっていく。


 ユピテルはただモルトケのことをにらみつけながら剣を彼へと向ける。


「フッ、ようやく力の差を理解したか。だが手加減はしない、この勝負決めさせてもらうぞ」




 そして再びの打ち合い。あまりの激しさに互いの剣がぶつかり合うたびに、二人のこの戦いに賭ける覚悟が伝わってくる。


 激しいぶつかり合い、衝撃波がこだまするほどの勢いだ。


 それでも、どちらが有利かは明白だった。

 刃がかみ合う衝撃波にモルトケはどうすることも出来ず、吹き飛ばされてしまう。


 あわてて体制を立て直すものの、モルトケは動揺が隠せなくなり、押され気味になる。もはやユピテルの攻撃に対応するのが精一杯という感じだ。


「どうした、その程度では、この俺様を倒すことなどできないぞ」



 互いに、そして俺も理解していた。この一撃で勝負が終わると──。



 今度は、勝負にすらならなかった。モルトケが出した精一杯の攻撃、それをユピテルの一撃が踏みつぶす様に粉砕。





 モルトケの肉体は後方に大きく吹き飛び、壁に強く叩きつけられる。

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