第69話 ユピテルさすがの強さだ

 一方リヒレ。じっとレテフを見つめていると、彼女に向かって手招きしているのがわかる。


「こっちに、来いってことね──」


 そしてレテフはリヒレについていく。

 リヒレは控室の方に入っていく。おそらく外で戦えという事だろう。


「これで邪魔者はいなくなった。さあ、どっちが強いか、行こうじゃないか!」


 体が震える。

 正直、絶対勝てるかって聞かれたら自信持って勝てるって言えない。


 けど、勝たなきゃこの街だって、リヒレだって救えない。

 それにサナだって、レテフだって、強い敵、戦いづらい敵相手に戦うって決めた。


「だから、この俺が、戦わないでどうする!」


 そう叫び、ミュクシーに剣を向けた。


「そう来なくっちゃ。まあ、最後に勝つのは私だけどな」


 その言葉に会場は大盛り上がりとなる。


「うおおおおおおお。頑張れ2人ともー」


「どっちが強いか、見物だな!」



 そして始まる、俺とミュクシーとの死闘。



 今、始まる!






 そのころサナは。


「うわあああああああああああああ!」



 大量の幻虚獣相手に大苦戦。今も幻虚獣の出した光線を受けきれず、攻撃が直撃、身体が後方にある壁に激突。


 やはり、サナ1人では荷が重かった。さすがに彼女1人で幻虚獣数体に立ち向かうにはいが重すぎた。


 幻虚獣の強力な攻撃を耐えるには、全身に力を入れ、全力で障壁を張らなければならないが、そうすると、他の幻虚獣への対応ができなくなってしまう。


 今の攻撃も正面の幻虚獣の対応に精一杯で、他の幻虚獣への対応ができんなかったから起きたものだ。



 今回は急な奇襲ということもあって、魔法少女の援軍が来るには時間がかかる。


「ごめん、アグナムちゃん。今回は、勝てそうに、ないや……」


 背後から別の幻虚獣の攻撃が直撃し、彼女の体は宙を舞う。


 そしてそのまま地面に落下しようとしたその時──。




 ドサッ。




 サナは感じ始める。膝の裏と首の後ろあたりに柔らかい感触。地面に落下したはずなのに全身に痛みを感じない。


(違う。誰かが、支えているんだ)


「バカ、こんな数の幻虚獣相手に、1人で突っ込むやつがあるか。俺以外」


 聞き覚えのある声だ。サナの親友で、ずっと追いかけている存在。


「ユピテル……ちゃん?」


 金髪で、短みの髪の魔法少女。ユピテルだ。

 彼女が吹き飛んだサナをお姫様抱っこの形で助けたのだ。


「もうちょっとしっかりしろ」


 予想もつかなかった出来事にサナは戸惑い顔をかあっと赤くさせる。

 ユピテルはゆっくり彼女を下ろすと。幻虚獣たちをじっと見つめる。


 グォォォォォォォォォォォォォォォォ!


 威嚇するような幻虚獣の叫び。そして剣を強く握りしめると、


 一気にユピテルは幻虚獣相手に向かっていく。その光景にサナは思わず叫ぶ。


「まって、無茶だよ!」


 そんな心配、彼女には無用だった。

 ユピテルは目にも見えない速さと、圧倒的な威力で1体、また1体と幻虚獣たちを切り裂いていく。


「す、すごい」


 まるで幻虚獣が、スローモーションで動いているかのように。


 そして3体ほどの幻虚獣が消滅。あとは2体。

 その1体も、ユピテルは向かってくる拳をかわし、一気に切りかかる。


 しかし──。


「危ない。後ろ!」



 サナが思わず叫ぶ。何と背後から別の幻虚獣が襲い掛かってきたのだ。空中で身動きが取れず、無理やり対抗しようとしたその時──。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!


 その幻虚獣の背後で突然の爆発。よく見ると、そこでサナが立ち上がって親指を上げているのがわかる。


「ユピテルちゃん。大丈夫?」


 サナが援護してくれたようだ。ユピテルは微笑を浮かべ、「ありがとな」と一言返す。

 残る幻虚獣は1匹。


 グォォォォォォォォォォォォォォォォ──!


 その幻虚獣が地響きを上げるような大きな怒号を出すと、口を大きく上げ、中が光始める。

 ユピテルは、大きな光線が来ると理解、剣に魔力を大きく込め、振り上げる。


 そして幻虚獣が口から光線を発射した瞬間にユピテルは大きく剣をふるう。


 王者の竜の波動。今ここに現れ、歯向かう敵を殲滅せよ

 アブソルート・ヘル・ブラスト


 彼女の剣から強力な光線が幻虚獣に向かって発射。敵の出した攻撃を一瞬で瞬殺し、幻虚獣に直撃。


 その体を吹き飛ばさせ、奥にある建物の壁に激突。


「これで決める!」


 ユピテルがそう叫んで一気に急接近。幻虚獣すぐに体勢を立て直し、ユピテルに襲い掛かる。

 そして左手を上げ、一気に彼女に殴りかかってくる。


「そんな攻撃。この俺には通用しない」



 ユピテルには、そんな単発の攻撃は何でもない。

 もっと強い敵、ライバルと戦い、勝ち続けてきた。


(これしきの止まったような攻撃。俺は何度も経験している)


 そう、彼女にはもっと強くて、勝たなきゃいけないやつがいる。

 一度は、奇襲によって敗北。最強の名を奪われた。だから、取り返さなきゃいけない。


 こんなところで、彼女は立ち止まっているわけにはいかないのだ。


 ユピテルはその攻撃をスッとかわし、一気に接近。その剣を振り上げる。


 ズバァァァァァァァァァァァァァァ!


 幻虚獣は攻撃を防ぐことができず、ユピテルの攻撃によって一刀両断。一瞬で勝負はついた。


「アグナム。お前に、絶対勝つ」


 絶対に勝たなきゃいけない人物の名を囁きながら。

 ユピテルはスッと着地すると、サナの方へ向かう。


「援護ありがとう、サナ。大丈夫だったか?」


「う、うん。ユピテルちゃんこそ、大丈夫?」


「俺は平気だ」


「ユ、ユピテルさん。来ていたんですか?」


 幻虚獣の知らせを聞いて駆けつけてきた魔法少女達だ。


「ああ、ちょっと手間取ったが、何とか片付いた」


「す、すごいですね、ユピテルさん」


 ツインテールをした魔法少女が若干引いている。普通は数人がかりで倒すはずの幻虚獣をほとんど1人で倒したのだから当然だ。


「そうだよ。すごいよ」


「やめろサナ。この位、当然だ」


 ユピテルは全く驕らない。この程度では、彼女は満足しないのだ。


(あとは、アグナムだ。まさか、負けているなんてないよな)


 ライバルである俺の名を呼びながら、ユピテルは空を見上げる。

 自分を打ち破った敵、簡単に敗北は許さない。


 そんなことを胸に刻みながら──。

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