第66話 俺の正体、バレていたのか

「ローチェがお前に突っかかっていたよな。アグナムは男だって。それで、あんたはどう答えたんだい?」


「もちろん。違うって答えたよ。いくらあいつが証拠を見つけようと躍起になっても、証拠は見つけられなかった。当然だ。この通り、俺は男じゃないんだから──」


 今はな……。


「そりゃあそうだろうねぇ。あんたの今の体は女。それは見ればよくわかる。でもね、アイツだってバカじゃない。結構観察眼がある。その眼が男だって言っているんだ。それだけじゃない、確かに私も思った。1つ1つの仕草が男っぽいって」


 ──何か嫌な予感がする。けど、弱みを見せちゃだめだ。強気で行こう。


「それで、お前は何が言いたいんだ?」


「言いたいも何も、私は知ってるんだよ。以前お前と出会ったのはネットの中だということ。当然、その姿は見たことがない」


 姿、見てない──。まさか!


「お前。元の世界では男だったろ。この世界に来たときに、女になったんだろ」


 しまった、ミュクシーはもともと俺の世界の人間。だからゲームのことも知っている。

 思わず、返す言葉が見つからずに黙りこくってしまう。


「そのしぐさ。正論だと考えていいね。この世界に来て女の子の体になったと」


 ──もうだめだ。これ以上嘘をついても隠しきれる気がしない。正直に話そう。


「そうだよ。俺は──元の世界では男だった。これで満足か。それともサナたちにばらしてやるとか考えているのか?」



「それも楽しそうだねぇ。あんたが男だってが知られたらどうなることかねぇ。当然更衣室とかも女性用のを利用しているんだろう。魔法少女たちの下着姿とか見ているんだろう」


 考えるだけで気が重くなる。下手をしたら友をなくし、周囲から変態扱いされて捕まることだって考えられる。


「バラしたところで、証拠なんてない。俺が言いがかりだって言葉を返せばそれまでだ。男だった証拠なんてこの世界にはどこにもないんだから


「安心しな。みだりにサラやレテフに言ったりはしないよ。いった所で信じてくれるかわからないしね」


 俺はホッと胸を撫でおろす。証拠がないって言っても、もし周囲がそれを信じてしまったら一気に立場が悪くなるしね。


「それで、言いたいことはそれだけか?」


「それだけだ。お前の本当の性別が聞きたかった。私の肉体、見れてうれしかったか?」


「そ、そんなわけ無いだろ! 用がないなら帰るぞ!」


 俺は顔を真っ赤にして反論する。確かに、年の割にスタイルが良くて、服を脱いで下着姿になった時はドキッとしたけど、それはサナやレテフで見慣れているし、そこまで嬉しくはなかった。


「フッ。口では強がっていても、顔は正直だねぇ。顔を真っ赤にして叫んで──。じゃあ、決戦の日、楽しみにしてるよ」


「ああ、どっちが強いか、決着をつけようじゃないか」



 そして俺はこの部屋を出る。

 ドアの向こうにはサナとレテフ、ローチェがいた。

 俺と目が合うなり、レテフが早足で寄ってきて、俺の胸に体を寄せる。


「大丈夫だった? 私のアグナム。いやらしいこととかされてない。服を脱がされて抵抗できなくなったところをあんなことやこんなことされて貞操の危機になったりとかしていない?」


「だ、大丈夫だよ。そんなことされてないよ」


 取り乱しているレテフを落ち着かせると、俺はミュクシーに言われたことを説明した。

 そう、後日俺とミュクシーで決闘をすることだ。


 すると、ローチェが興味しんしんそうに聞いてくる。


「ふーん、あのミュクシーと決闘するんだ。勝てるの~~?」


「ミュクシーの実力。知っているのか?」


「当たり前じゃーん。ミュクシーの強さは僕が出会った魔法少女の中でも一番だよ。多分僕より強いと思う。きっとアグナムじゃボッコボコにされちゃうね」


 まあ、そうだろうな。けど、勝つ以外に道なんてない。


「ミュクシーについては、以前戦ったことから実力はわかる。確かに、強敵だ。けど、負けるつもりなんてないから」


「あっそう。じゃあ、せいぜい頑張ってね。じゃあ、出口までは送っていくから」


 そしてローチェは元来た道を進み始める。俺たちも彼についていく。

 ローチェの日からだけが頼りの薄暗い道を進みながら、俺はサラとレテフに視線を向けた。


 サナもレテフも俺を見て、心の中で頑張れと言っているのがわかる。わかった、絶対に勝つから。


 そして階段を上がり、地上へ。俺たちが地上に出ると、再び扉が閉まり、外から入れないようになる。


「じゃあ、決戦の日まで元気でいてね。じゃあねー」


 そしてローチェともお別れ。3人での帰り道。

 歩きながら俺はこの後どうするか、聞いてみた。


「とりあえず。リヒレちゃんの所に行こう。リヒレちゃん、行きたがってたみたいだし。仲間外れにしているみたいで悪かったから……」


「そうだね。ついでに、露店でパフェでも買ってみんなで食べよう。そうすれば、少しは喜んでくれると思う」



 そして俺たちは近くの公園で、露店を見つけ、人数分のパフェを買う。クリームてんこ盛りで、フルーツがの買っているおいしそうなパフェだ。彼女のパフェを手に持つ。


 リヒレ、仲間外れみたいなことして、本当にごめんね……。これからはちゃんと友達として接するから。

 そう考えていると、レテフが心配そうな目でこっちを見る。それも、息が当たるくらいまで接近して。


「本当に、大丈夫だったの? 話したのは、決戦のことだけ?」


「そうだろ、レテフ。ありがとう。けど、大丈夫だよ。特に変なことされてなんかいないから、気にしなくていいよ」


 俺のことを想ってくれているのはうれしいけど。本当に大丈夫だよ。安心して。




 そんなことを話しているうちに、俺たちはリヒレの家へとたどり着く。

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