第54話 レテフの、意外な過去

 そしてレテフたちと合流。


 俺の姿が見えるなり、レテフが早足で俺に寄ってくる。


「エッチなこととか、あんなことやこんなこととかされてない? 貞操は大丈夫?」


 そして息が当たるくらい近くまで寄ってくる。まあ、一歩手前まで行っちゃったけど問題はない。


「大丈夫だよ。レテフじゃないんだから」


「そ、それはよかったかな……。けど、どんなことを話したか、教えてくれるかな?」


 サナの言葉に俺は少し考える。ここで本当のことを言ったら、ローチェが、完全な敵として扱われちゃうよな……。


 とりあえず、アイツが男だということと、鉄束団だということは伏せておこう。


「まあ、先日のコンテストのことと、なんか、気が合うから友達になってくれってことだ」


 俺は適当な理由をつけてごまかす。2人とも、とりあえず信じてくれた。


「友達? わからないわ。そう偽って、接近した挙句、不埒なことをしてくるかもしれないわ。大人のキスをしたり、裸をのぞいたり、大人の階段を上るように迫って来たり」


「だ、大丈夫だよ。そんなことするような子じゃないから安心して」


 だからレテフじゃないんだから大丈夫だって!

 俺は何とか彼女をなだめる。


「じゃあ、夜も遅いし、もう帰ろうか──」


 そして帰り道、暗い石畳の道をとぼとぼと歩きながら、今日の出来事を思い出す。


 ローチェ。まさか男の娘だったとは、おまけに鉄束団だ。

 敵……なんだよなあいつ。


 確かに、次の試合。俺は全力で戦うつもりだし、勝つ気でいる。

 けれど、アイツ、敵だという感覚が全くしない。


 ムエリットの時の様に、戦うしかないのか。あいつは、負けたら消滅してしまうのか。


 けど、それは、なんか嫌だ。

 根っから悪い奴なんかじゃない、ただ魔法少女になりたかっただけの男の娘だ。



 何とかして、それだけは回避しなきゃ──!








 ローチェの家を訪れてから数日後。

 俺たちは再び、リヒレの店を訪れた。


「おじゃましまーす」


「ようこそ!」


 ご機嫌な気分でリヒレが店の奥からやってくる。

 昼前のこの時間。客足は全くない。


 彼女の店は、コーヒーを業者や富裕層の家に出して生計を立てている。だから、店は空いていても問題ないのだ。


「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」


 リヒレのエプロン姿。笑顔が似合うかわいさ。とても素敵だ。


「リヒレちゃん。すっごいかわいい!」


 サナがその姿に、興奮。まあ、気持ちもわからなくもない。


 そして4人掛けの座席につき、10分もするとコーヒーが出てくる。

 コーヒーを机に置くと、リヒレがレテフの隣につく。


「今日のコーヒー、とっても自慢なんだから!」


「自慢、どんなコーヒーなの?」


「それは飲んでからの楽しみよ。サナちゃん!」


 ウキウキな表情のリヒレ。どんなコーヒーなんだろう。そして4人とも手を合わせ──。


「いただきます」


 その言葉を合図に、コーヒーを口にする。

 味わいを感じるなり俺は驚く。


「確かに味が違う」


「うん、確かにこのコーヒー、おいしい。香りが豊かで、味も市場の出店で飲んだものとは違うしおいしい」


「サナちゃん。そりゃぁそうよ!!」


 今まで飲んで来たコーヒーよりはるかにおいしい。味も、香りも今までとは違う。


「だってこれ、政府に出しているコーヒーだもん。特別品なのよ」


「えっ? そうなの」


「政府のコーヒーは、うちで卸したものを使っているわ。これがそうなの。本当はパパから、この豆は他人に出さないでって言われてるの。けど、ちょっと余っちゃったから、使っちゃった」


 そうなのか、ま、そこまでの量じゃないしいいか。


 そしてコーヒーをすすりながら談笑。おいしい食べ物や、ファッション、趣味など、楽しく、たわいもない会話を楽しむ。


 なんか新鮮だな。前の世界では、友人なんていなかった。だから、人とこんなに会話で盛り上がることなんてなかった。

 必要なこと以外喋ったりしないコミュ障だった。


 だからこの世界に来て初めて知った。親しい友達と、こんな会話をして楽しむ良さを。



 そしてサナは何気なく1つの質問をレテフに投げかける。


「そういえばさ、レテフちゃんについて気になったんだけど」


「何、サナ──」


「レテフちゃんって変身するとき、口上を叫ばないよね。何か理由はあるの?」


 確かに俺も気にはなっていた。俺やサナもそうだが、魔法少女は変身するときに、専用の言葉を叫ぶ。

 何か理由でもあるのかな──。


 サナが何気なく言ったその言葉、レテフはその言葉に驚いたようにドキッとし始める。


「それは、ね、ちょっと深いわけがあるのよ」


 すると、答えたのはリヒレだった。彼女はどこかノリノリな気分で、レテフの昔について語り始める。


「ちょっと前は体をクルクルって回転したり、ウィンクしたりしてとってもかわいらしい変身をしていたのよ」


「へぇ~~」


「ちょ、ちょっとリヒレ、やめて。サナも変な妄想しないで!」


 あわあわと手を振り、否定するレテフ。しかしそれにかまわずリヒレは話を続ける。


「けど、私や魔法少女仲間がそれを指摘したの。「レテフちゃんかわいい」って。そしたら顔を真っ赤にして、恥ずかしがっちゃって、かっこいいポーズとかをやめちゃったの」


「へぇ、かわいいポーズ? 興味ある、見たい、見せてそれで記録に取ってみたい!」


「やめて、私、あのポーズ恥ずかしくてやりたくないの。だから、一生懸命無詠唱で変身できるよう練習したの!」


 必死になって反論するレテフ。まあ、そこまで恥ずかしいなら勘弁してあげよう。

 そしていったんこの場が落ち着き、俺がカップに残っていたコーヒーを飲み干したその時。



 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 突然の爆発音。俺たちは慌ててキョロキョロと顔を合わせる。


「たぶん、ホロウが現れたんだと思う、行ってみよう」


「「うん」」


 サナとレテフも同調。すぐに店を出て表に出る。


 すると──。

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