第37話 この街の過去

 翌日。2回戦、ムエリットとの対決日だ。


 服を脱ぎ、シャワー室へ。試合開始まであと1時間。とある人物にこの時間に来てくれと頼まれ早めにここに来た。


 この体になってから、シャワーを浴びるのがなんだか気持ちいい。繊細な肌に、ほどほどに温められた熱いお湯が流れる。


 全身が温かくなり、体の芯からリラックスできる。気持ちいい。試合前に心を整えるのにちょうどいい。

 試合が終わったら、疲れをとるためにもう一回浴びよう。


 シャワーから流れ出るお湯に体を包まれながら、今日の試合のことを考える。


 ムエリット。確か鉄束団っていうんだっけ。


 でもムエリットに対してはそこまで敵ってイメージがないんだよな。ゲームの時もそうだが腕はあるけど特別卑怯なマネとかしてこないし。いつも真っ向勝負を挑んでくる印象だし。


 今回もそんな感じなんだろうな。


 そしてシャワーが終わり、身体を拭く。

 バスタオルを巻いて更衣室へ。


 更衣室のほうに視線を移す。するとそこには1人の人物がいた。

 堂々とした態度で腕を組んでいる、俺と同じくらいの少女。


「久しぶりだな、アグナム」


 オレンジ髪のセミロング、以前俺と戦った最強の魔法少女、ユピテルだ。

 俺がこいつを倒してしまったせいで彼女の名声が崩れてしまっている。なので何か話しずらい。

 彼女が手紙で、この時間、早めに来てほしい。秘密の話があるといってきたのだ。


「ユ、ユピテルか、なんだよ……」


「そう聞きずらそうにするな。俺が負けたのは実力が足りなかったからだ。気にしなくていい」


「あ──、ごめん」


 ユピテルは特に気まずい態度にはなっていない、堂々とした態度。

 俺がそう言葉を返すと、ユピテルはカバンから数枚の紙を取り出す。



「先日発見された遺跡。俺は行かなかったが、別世界から来たものだと聞いた。そして以前街を襲った鉄束団のムエリットとドイデとつながりがあることも」


「うん。それは俺も知っている」


「問題はその2人とこの街の関係だ。この街を2人がどうして襲ってきたのかを知りたくて、俺は2人の名前を調べていたんだ。だが、2人の名前はない」


 俺もあいつらが何でこの街を襲ってきたかを知らない。


「そこで俺はここに街ができる以前のことを知ろうとした。お前、この地の歴史、知っているか?」


 俺は首を横に振る。当然だ。この街に来たのはこの前なんだし。


「もともと100年ほど前にジャングルだった地を切り開いて作ったのがこの街だった。ジャングルには当然先住民がいた。」


「俺が調べたのはここに街ができる前の歴史だ。図書館の書物では街ができてからの歴史書はあったが、それ以前の資料が全くなかった。不自然だと思わないか?」


「た、確かに、いくらできる前とはいっても何もわからないのはおかしい。どんな場所だったとか、何が住んでいたとかあってもおかしくはないと思う」


 そうか、意図的に隠し事があるっていうことか。それも知られてはまずい事実が。


「そう考え、立ち入り禁止エリアに深夜忍び込み本を漁った。あったよ、エリアの一番奥、誰にも見られたくいと言わんばかりの場所に」


 俺はその言葉に驚く。つまりそこに秘密があるってことか。


「その場所に忍び込んで、この街の歴史について調べたんだ。これがその資料だ」


 そして俺は手渡しされた資料に目を通す。内容はこの街の歴史のようだ。



 なるほどな。この地に街ができる前、人間の先住民はいなく。

 オークたちが暮らしていた。

 彼らの関心は自分たちの生活のみ、自分たちのテリトリーさえ侵さないでいれば何もしなかった。


 しかし、この国の皇帝が、この地を切り開いて王都を作ると宣言しだした。


 当然街を作ろうとした王族と対立。一宿即発の事態となってしまう。


 そこに送られてきたのが勇者だった。


「そしてその勇者の名前が、ムエリットということか」


「ああ」


 ユピテルは深刻な表情で首を縦に振る。


「おそらく自らが表立ってやると、そのまま敵意が王族に向く。すると占領後、彼らを取り込めなくなる。だからそういった汚れ役は別の役にやらせたんだろう」


「俺もそう思う」


 そしてその考え通り、ムエリットはこの地へ向かった。


 ムエリットがジャングルへ向かい、そこに住んでいるオークたちに出会う。

 そしてそこで出会ったオークの頭がドイデであった。


 ムエリットは王族たちから課せられた使命を果たすためにオークと戦おうとした。




 しかし思わぬ事態が起きた。

 最初は敵対視こそしてたが、ドイデとムエリットは意気投合してしまったのだった。


 共に歩む仲間だと。そしてムエリットは当時の王族たちにこのような報告をした。


「こいつらは敵なんかじゃない。俺はドイデ達から住処を奪うことなんてできない」


 自分たちの思惑通りに行かなかった王族たちはこの報告に憤激。こいつを国賊として認定され、暗殺されてしまったのだ。


「そ、そんなことがあったのか──」


 唖然とする俺、ムエリット、戦っているときはただ強さだけを追い求めているようなやつだと感じた。昔の俺みたいに。


「そしてその憎しみを抱えたまま今、戦っていると」


「だろうな」

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