第202話 新たな地

「それは、エーテル体というやつじゃ」


 明らかに今までとは違う力。自分の体がうっすらと、体が白く光っているのがわかる。


「簡潔に言うならば、天使のような絶対的な力になれる力じゃ」


 魔王、大天使。絶対的な存在。真正面から戦ったのでは一万回やっても瞬殺以外の結果が出ないであろう戦い。


 それでも、彼らから勝利をもぎ取りたい。打倒して自分たちの未来を切り開きたい。そのここをからユダがひねり出した答えがこれであった。


 そして、ユダの出した切り札であった。


「この力は、いわばわしたち天使の力そのものじゃ。この力を纏うことで、不老不死の力をえ、圧倒的な力を有しているのじゃ。そしてこの力を一番所持しているのが、大天使というわけじゃ」


 肉体を包んでいる白き光から得られる圧倒的な力が、彼女の言葉が嘘ではないことを証明していた。しかし、一つの疑問が脳裏に浮かぶ。


「都合がよすぎるな、ユダ」


「どういう事じゃ?」


「この力、使うリスクも当然あるんだろう?」


 そう、今までにないくらいの圧倒的な力。確かにこれからのことを考えると嬉しいものだが、強力な力、当然何かリスクがあるだろうと幸一は踏んでいた。口にはしていないが、イレーナや周りも同じ考えだった。


「ふふ……。賢いのう幸一殿。当然じゃが、こんな巨大な力を使うにあたって、副作用もある」


「それは何だ?」


「一言で言うと、あまりに強すぎる力に、精神が持ってかれてしまうのじゃ。」


 ユダはそれからも話す。そこら辺の覚悟も正義感もない人間に与えるとどうなるか。


 その力は副作用として精神を侵食し、理性や自制心を麻痺させ、自分が何でもできるの人間だと錯覚させてしまうのだ。


 なので、一般の人間にこの力を与えると、自分が絶対的な存在だと錯覚してしまい。欲望におぼれてしまうのだ。なのでこの力は、正義感が強く、安易に欲望に流されない強い心を持った人間にしか与えないと決めていたのだった。



「まあ、おぬし達なら大丈夫じゃろ。強い心があるのがあるのは、わしも知っておる」


「──ありがとう」



 幸一が礼を言うと、横から横柄な態度で話に入ってきた人物が一人。


「ユダといったな。俺にはくれないのかその力。強大な敵と戦うといった割には随分とケチな奴だな。俺は安易に欲望に流される安い男だということか?」


 ヘイムだ。彼の尊大な態度に、ユダはそっけない態度になり、言葉を返していく。


「あいにくじゃが、この力は無限に与えられるわけではない。わしの魔力ではせいぜい二人が限度じゃ。それに、絶対的な力。間違った思想を持ったものに与えるわけにいかない以上、初対面の貴様に与えるわけにはいかぬ」


「意外と保守的な奴だな。自らの主人に反抗する気満々のくせに」


「『敵の敵』というだけのものに安易に与えるわけにはいかんのじゃ。ヘイム殿。おぬしは底が見えない。よって不採用とさせてもらったのじゃ」


 ヘイムの横柄な態度に一歩も引かないユダ。彼もユダの頑固な態度に、これ以上挑発しても無意味と考え、ここは一歩引く。


「ありがとな、ユダ」


「それは、大天使たちを倒してからゆっくり聞いてやる。今は勝つことに専念するのじゃ」


 ユダは、幸一とイレーナを信じてくれた。二人ならば、強力な力におぼれて道を踏み外すようなことはないと。


 幸一も、イレーナも強く心に誓う。ユダの気持ちを、不意にはしないと。


 そう決意しながら歩いていると、イレーナが何かに気付き、指をさす。


「サラ。あそこ、出口じゃない?」


「そうだね。行こう!」


 イレーナが指さした先。そこには出口らしく、道の先が光り輝いている。──が。


「だが、紫の光というのは初めて見たぞ。それに感じるんだ、この先にある力の気配。それも──」


「魔王軍の光、かヘイム?」


 ヘイムの言葉に、幸一が同調する。イレーナとユダも、それを感じていた。

 紫という不気味な光。そしてそこからあふれ出るオーラのようなもの。


 それは今まで戦ってきた魔王軍に力そのものだと。


「覚悟はいいか?」


「いいよ。幸君!」


「貴様などに言われずとも、すでに出来ている!」


「当然だ。絶対、殲滅してやる」


 幸一の呼びかけに、全員が首を縦に振る。


 そして彼らはその道の先へと進んでいく。


「ここは、どこだ?」


 道を抜けた先、その場所の風景に幸一は唖然とする。


 彼らがたどり着いた場所は、平原地帯だ。しかしその光景は今まで見たどの風景よりも異質なものだった。


 まず、真っ黒い岩の岩礁地帯が広がっている。そして遠目にはマグマの海。

 それでいて、さっきまでの世界とは異なるような、神秘的な印象を感じさせた。


 そして灰色の空。

 雲が広がっているのではない、空自体が灰色に光っていてそれで昼のようにこの場所は明るい。


 異質という言葉そのものの空間だった。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。


 後ろから物音がするので、イレーナが後ろを向くと……。


「幸君、来た道、なくなっちゃった」


 イレーナの言葉通り、先ほどまで来た道が、完全に消滅してしまったのだ。


「退路を、断たれたのです」


 シスカの言葉通り、これで幸一達は引き返せなくなった。


「空が、光始めた」


 ルーデルが気づくと、幸一達も空を見上げる。


 その言葉通り、灰色の空が、紫に光始める。

 そしてそれは柱となり、まばゆいくらいの光となって地上に降り注いだのだ。


 数十秒くらいするとその光が、余間待っていくと、その光の中に誰かがいるのがわかる。

 それに気づくものが約一名。

 彼女が一歩前に出る。


「それがしか。とうとう現れたぞい」

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