第168話 メーリング、あなたを解放したい
その言葉にはっと戸惑うメーリング、慌てて周りをキョロキョロと見始める。
すると──。
「ということッス。私は黙秘義務なんてないっすからね──」
後ろの壁際からひょっこりとルチアが出てきたのだ。その姿にメーリングは絶句し言葉を失ってしまう。
「ルチア? つけさせていたの? 約束したわよね、口外しないって」
「ああ、俺は確かに頼んでいない。気づいたのだって俺が一回振り返ったときに、目があった時初めてわかった」
「そうッスよ、 あくまで私が勝手についてきただけっす。独断でやっただけッスから彼は別に約束を破ってないッス」
ルチアが両手を頭の後ろに置き、ニヤリとした表情で囁く。
「まさかお前が気づいていたなんてな──。何でわかったんだ? 俺とメーリングがここに来ること」
そう、幸一は約束を守っていた。口外はしていなかった。それではなぜルチアは気づいたのか、それは──。
「遺跡で二人が変なやりとりをしているのは知っていたッス。ただ何を話したのかはあの時はわからなかったッス」
遺跡を出た後、一回幸一が止まっているホテルにルチアはよった。そして寝ようとして幸一が着替え、シャワーを浴び始めた時──。
「幸一さんのハンガーにかかってあったズボンを整えようとした時に、ポケットにさぐれをいてたッス。そしてらメモがあったんで確かめたッス。んで幸一さんが帰ってくる前に元に戻した。たったそれだけの事ッス」
「ルチア、どうして? そんな気配、感じていなかったのに──」
目をキョロキョロとさせ動揺しながら言葉を返すメーリング。スラム街に行く時などあまり他人に見られたくない事をしているときは、つきまとわれないよう周囲に警戒はしていた。
「確かに単純な戦闘は私は向かない、ましてやメーリングには絶対に勝てないっす。けどこういう相手の後をつけたりするのは大得意ッス。気配を消すことだって当然できるッスよ」
ルチアが余裕の表情で語る。
その言葉に肩をなでおろしため息をつくメーリング。
「負けたわ──」
自分の負けを悟るメーリング。
「幸一──、やるじゃない。何食わぬ顔でルチアに後をつけさせるって、完ぺきに騙されたわ。やるわね」
自分の事を認めたような物言いに困惑する幸一、なぜなら──。
「え……、ほめてもらえるのはありがたいんだけれど──、それは誤解だな……」
「どういう事? 約束を破ってルチアに後をつけさせたんじゃないの?」
幸一の言葉に戸惑いを見せるメーリング。するとルチアは自信満々な笑みを浮かべながら答えた。
「ああ、誰にも言われていないッス。勿論幸一さんにも……、私が勝手にやったッス。彼は無罪ッス」
その言葉にメーリングは呆れたように笑いため息をひとつつく。
「──負けたわ。いいわ、教えてあげる」
そう言ってメーリングはポケットをあさり、一つの物を取り出す。
取り出したのは手のひらサイズの小さな箱。そしてその上蓋をぽっと開けると──。
銀色で幾何学的な模様をしたカルトゥーシュがそこにあった。
「これよ。このカルトゥーシュを使ってバルトロは自分の意思と魔力を私に供給しているの」
メーリングが言いずらそうにそっぽ向きながら答える。するとそれを怪しいと考えたルチアが彼女に一歩踏み込み言葉を返す。
「それだけッスか? 聞きたいことが山ほどるんすけどねェ」
その言葉に露骨にいやな顔をするメーリング。すると質問したのは幸一だった。
「どうしてメーリングがバルトロの支配から離れないのか、それを知りたいんだ」
「なんで? そんなこと聞いてどうするのよ」
そして幸一はメーリングに接近し両手をぎゅっと握る。
「メーリング、あなたを解放したい!! それだけだよ」
その言葉に彼女は顔をほんのりと赤くする。眼前まで迫った彼の顔、心臓がどくどくと高鳴り彼に聞こえてしまうのではないかと錯覚してしまう。
メーリングはもはや自分の秘密を隠しきるのは不可能だと悟る。そして覚悟を決め──。
「わかったわ。それが出来ないという事を教えてあげてあげるわ」
うつむき気味で暗い表情をしながら彼女はちらりと背後に視線を向ける。
「ほらバルトロ、見せてあげて。私があなたに逆らえないという事を教えてあげて」
メーリングがその言葉を発した瞬間、彼女の体が白く光り始めた。その様子に驚き、釘づけになる二人。
「うっ……、あぁん──、あっ!!」
するとメーリングの体がかすかに震えだす。彼女が思わず自分の体をぎゅっと抱きしめる。そして目から光が消え、彼女の意思がなくなっていく事を感じた。
カルトゥーシュが強く真っ白に光り始める。メーリングの目から光が完全になくなった。
「こういうことだ、俺様に逆らえばこいつはこうなる。この女もそれは身にしみて理解している」
口調が以前出会った天使「バルトロ」のものになる。幸一はそれを理解して話しかける。
「理解している? どういうことだ、何があった?」
「……なんとなく状況は読めてきたッス。私の親友、傷つける事は許さないッス」
「バルトロ」を知らないルチアも今の状況を理解。親友を操っている彼女に強く反発する。
「まあ、こいつも最初は何度も反発しようとした、俺はそのたびにこの状態にさせ分からせたんだ。俺様に抵抗など無駄だってことをな──」
メーリングの瞳に光が戻る。
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