第130話 二人は楽しく商店へ

 そして会話を楽しみながら30分ほど。無事に目的地である3丁目の商店にたどり着く。


 建物の中に入った二人。その初めて見る光景に思わず驚きの声が上がる。

 予想より大きく豪華な建造物。


 その商店はとても高級感があり、庶民的な市場のような雰囲気とはうって変わり荒々しいにぎわいはない。しかし商人特有のギラギラとした目つきをした人たちがさまざまな商談をかわしていた。


 幸一もサラも何度かこういった世界を市民から小耳にはさんだ事はあるが実際に言ったのは初めてだ。商人たちが持つ独特の気配。ギラギラした目つき、この市場を生かして大きく利益を上げようとしているのが一目でわかる。


 すれ違う人達に軽く挨拶をしながら道を進んでいく。その中でこの場所の雰囲気になじむため二人とも道を進んでいく中少しでも商人の人達がどんな事を話しているのかを聞く。商人たちは取引や地方の商品の吟味の話。金銀など貴重品の相場や売り買いの話をしていた。

 二人はまず何からすればいいか迷ってしまう。


「とりあえず、いろんな商品、見て回ろう?」


「あ、うん……」


 露店で買った砂糖がついたチュロスを食べながらサラが話しかける。確かに珍しい雑貨や食品など珍しい物がたくさんあり、見て回るには困らない場所ではあるが──。


「ううん、それはまずくないか。俺達仮にも勉強しに来ているんだし、」


「ちょっとくらい楽しんだってバチは当たらないよ」


 サラが楽しそうな表情をしながら幸一の服を引っ張り前へ前へと進む。幸一も歩きながら少し考えたが結局はサラの言葉に同調する。

 いつもサラは市民達のため、俺達のために必死になってくれていた。そんなサラにとって今は仕事中とはいえ初めての場所。そして今まで俺といた時のように魔獣がいるわけでもなく事件が起こっているわけでもない。たまには楽しんでもいいはずだ。


 幸一は頭の中でそう考えサラについていく。


「うん。分かったよサラ。それじゃ、ちょっと見て回ろうか」


「うん、一緒に行こう」



 そんな周りから見ればデートにしか見えないやりとり。それを後ろから見ている二人の人物がいた。


「ちょっと、イレーナちゃん。前に出過ぎ。もっと目立たないようにしないと怪しまれるわ」


「あ……ごめん」


「それと周囲にも気を配って。秘密警察がいる事も想定しなきゃだめよ」


「うん、わかった」


 青葉とイレーナであった。二人が夫婦の商人であることを想定してこの場にもぐっているようにこの二人も幸一とサラを周りに気付かれないよう護衛するための訓練としてこうして二人を護衛する事となったのである。


 特にサラは戦闘が出来ない事もあり周囲を護衛することが必要不可欠であったため、彼女をサポートしなければ幸一の負担がそれだけ増えてしまう。



 彼の負担を少なくするために二人の護衛が不可欠。しかし青葉から見るとイレーナの動きが拙くぎこちなく見えてしまう。イレーナがこういった任務が初体験なので指導にも力が入る。


「いい? 二人を見ることも大事だけれど自分も目立たないようにする事だって大事よ。私たちが幸君とサラを追っているってばれたら彼らだって変な疑いをかけられてしまうのよ」


「は、はい……」



 青葉のダメだし。しかしどれくらいの言葉がイレーナの耳に届いているのだろうか。

 歯ぎしりしながらイレーナは慣れない裏方の仕事を何とかこなしていく。


 青葉から見ればぎこちない動きにも見えるがイレーナがこの任務ができるようにしなければならないためいつもより一層力が入る。


「二人はゆっくり道を歩いていくわね。私たちも大体おんなじペースで歩いていくわよ」


「うん──」


 そして二人は目立たないようにゆっくりと道を進めていく。周囲に気を配りながら、二人の無事を想いながら。


「キョロキョロしすぎ!! 怪しまれるわ」


「は、はい~~」




 一方サラと幸一。

 二人は露店が立ち並ぶ道をゆっくりと歩いていく。

 見たことがない食べ物や飾りもの。そんな物を売っている。いろいろな商品を歩きながら歩いているとサラの足がピタッと止まる。



「ここの商店見てみよう?」


 ほんのわずかなほほ笑みを浮かべながら一つの店に指をさす。そこは食べ物を売っているみせだった。



 サラによるといずれもこの街ではなく地方の珍しい食品を取り扱っている店だそうだ。

 店の中に入って商品を観察してみると珍しい魚の瓶詰めや何の肉かわからない干し肉などが飾られている。物珍しそうに二人が見ていると店主の人が小さな瓶詰めを奥から持ってきて二人に小さな試食用の肉と用意してくれた。


「あ、ありがとうございます」



 店主の人に強く促され幸一も干し肉を味見することにした。


 パクリ──。


「あ──。この肉いい香りがする」


 干し肉から花の香りがした。サラもそれを理解したようで思わず口に出す。

 すると店主のおじさんが嬉しそうに反応した。


「二人とも見る目があるねぇ。こっちの魚もどうだい?」




 店主の人が説明を始める。これは南国から輸入した干し肉で特別にハーブなどの香りを入れているらしい。味もおいしく遠征をおこなった時にぜひ保存食として欲しいと幸一は考えたが……。



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