第102話 巡礼祭
早起きして朝食をとった後、馬車で巡礼祭の最初の地の教会へ向かった。
イレーナの説明によるとこの辺りは信仰が厚い信者たちが集まる居住区のようだ。
他の街並みと比べると小さい教会が多かったり祈りをささげている人が多い印象を受ける。
馬車で移動する事30分ほど。
そしてその中心の場所にその教会はあった。
巡礼祭のスタート地。セフィラス大聖堂。
この街一番の教会、先日のパーティーを行った宮殿より広く大きく見える。
「ああこれ、防寒対策で外壁に回廊があるタイプね、見た目ほど広くはないはずよ」
青葉は建造物に多少の知識がありそう説明するがそれでも十分に大きく感じる。
雪国特有の構造ともいえる屋根積もった雪を自動的に落とすために斜めにとがった屋根。
一階が雪に埋もれるのを想定して二階に大きな窓が多めに置かれている。
教会の扉を開けると中には礼拝の部屋があった。すでに先客が来ているようでスーツを着ている政府の要人や礼拝を終えた信者の方の姿がちらほらと見えた。
時間がたち集合時間になると要人の方が続々とやってきて席に着き始める。
幸一達は教会の中をまじまじと見る。
女神たちが人々に恵みを与えている様子が描かれた壁画。中央には銀色をした大きな鐘。
人々は黙とうをして祈りをささげたり信者同士でコミュニケーションをとっている姿が見受けられた。
まだ少し時間があるようなので周りの様子を観察したり、イレーナからこの巡礼祭の流れやこの街のことについて聞いてみることにした。
まずは巡礼祭の流れについて、イレーナが簡単に説明を始める。
郊外に3か所の聖地が存在する。この場所からはそこそこ遠い場所にあるため1日一か所ずつ巡礼していく。
大きな教会が二つ。最後の大遺跡。
移動は馬車が中心だが、山の険しい場所にある教会などの場合徒歩での移動になる。
「それにね、途中で魔獣や他の動物と遭遇してしまうこともあるわ」
「だから対策として魔法使いを連れてきたりするのか?」
すると青葉とサラが会話に参加し出す。
「それはあるかな。とくに重要な要人に関しては結構警備がつくわ。幸君や私が参加出来たのだってそれを当て込んでのことだってあるし」
「はい、この巡礼祭の進路には狭い道もありそこでは守備が手薄になってしまいます。場合によっては大勢の兵士より少数の魔法使いの方がいいということもあります」
そうやって会話をしていると兵士の格好をした人物がやってくる。政府の兵士とは格好が異なっていて信者のような服装やそぶりをしているところを見ると恐らく教会側の兵士なのだろう。
その兵士が幸一達4人に配置を教える。
その後、移動のための準備が始まる。礼拝のための道具や武器、わずかな食料を荷台に乗せて馬車は出発し始める。
そして幸一達の移動が始まる。彼は先方への配置となった。要するに先方として襲ってくる敵を守り国王や教祖様を守れとのことだろう。
移動中幸一はこの街や教会の事について聞いてみる。するとイレーナが今まで教わった言い伝えや本で学んだ事を思い出す。
「この地域にはね、龍がいるんだって」
そう呟いて黙り込む幸一にイレーナが幸一とサラ、青葉にこの地の天使と竜の伝記の説明を始め出す。
この地は世界でも屈指の豪雪地帯であり冬季はとても過酷な環境となる。
過酷な環境の下天使の名を使い民衆を律するため強い信仰となる傾向がある。
「天使達は人々の行いを見ていて、この地で徳を積んだ者たちに救いの竜を与えたという伝説があるの」
幸一は相槌を打ちながらイレーナの話しを聞いていく。
「天使たちはそれ以外にも豊作や奇跡、誰かの救護という形で様々な助けを人々に施し災害から人々を救ったと記されているの」
「人々の行いを天使たちは見ており、また天使とそのしもべを使わすであろうと、善業を行い、徳を積んでいる限り──」
「それが……龍?」
「はいそうです。そして選ばれた人物の前に希望の象徴として現れるだろうと──」
「ちなみのこの龍ね、この世界を作った龍の一つとされているわ。言葉を持っていなかった人々に一瞬で言葉を教えたって伝説があるわ」
青葉のその言葉に幸一は興味津津になる。ひょっとしたらこの龍の事はこの世界全体に関わることなのではないか。
そんなことを考えながら幸一は話を聞く。
そんな話をしていると目的地の教会に到着する。馬車を下りて当初の配置通り先頭を歩く。
断崖絶壁の海岸線を馬車がゆっくりと進んでいく。
「幸君、この辺り景色いいよ。見て見て」
青葉の言葉に幸一が右に視線を向ける。
極寒の地で見られる氷河の浸食によって形成された谷が沈水して出来た地形。
見渡す限りの海と山のコントラスト。氷食谷のは横断面がU字型の形をなしているので,両壁は急崖をなし,海に注ぐ河川は懸谷をつくっている。
フィヨルドである。幸一とイレーナはその雄大な風景に驚き、その絶景にサラも思わず声を上げる。
「すごい、絶景です。こんなの見たの初めて」
恐らくはこの雄大な景色を天使が作ったものだと考え信仰の対象となりここに教会を作ったのだろう。
絶景のうねった山道の途中に広場のような場所があってそこで馬車がストップする。
「教会の説教壇」という異名をとるプレーケストーレン。
まるで海に突き出す断崖絶壁の一枚岩のようになっていてそこからはフィヨルドの絶景が見渡す限りに広がっていた。
だれしもがこの絶景に目を奪われる。
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