第88話 絶対、役に立つから──

 

 翌日。


 他の冒険者の話しを聞きながら病院で簡単な手当てなどを行っていた幸一達。その中でサラがあることが気にかかり始める。


「すいません、あの人たちは何をしているんですか?」


 サラが質問をする視線の先。

 それは何故か十人ほどの集団で病院を出ていく冒険者達の姿があった。手当てをしているおじさんが答える。


「井戸の水を汲んでくるんです、水はあるんですが井戸が遠くにある上に数が少ないので取り合いになることが多いんです。なのでいつも集団で水を取りに行っています。何かもめ事があっていいように冒険者達にお願いしているんです」


 用は水を巡って住民たちが争いをしている。なので争いがあった時のために多少は戦える人達を水取りに行かせているのであった。サラは複雑な表情をする。


「そうなんですか」


「え? でも井戸ならこの辺りに以前作ったことがあるでしょ。あれはどうしたの?」


 会話に入ったのは青葉だった。青葉は以前にもこの街にも来たことがあり。他の冒険者と一緒に街のためにと井戸を作ったことがあったのだった。


「そ、その井戸なんだけどね……」


 その話題が出た途端おじさんはうつむき複雑な表情に緯度の行く末路について答える。


 そして重い口を開け始める。


 青葉やほかの地方から来た冒険者達は水に困っていたこの街の人を作り水をみんなに分け合うようにと促しこの場を去っていった。


 しかしその後、都市部の人口が急激に増加する。そして増えすぎた人口に今の井戸では対応できなくなってしまう。

 その井戸を巡って他の部族たちと争いになってしまい、死者までが出る事態になってしまいこの井戸は争いの火種になってしまった。

 そしてみんなで話し合った結果、結局争いのもとになるからと井戸自体を取り壊して売って金にしてしまったのだった。


「そ、そんなことがあったんだ」


 サラとイレーナが互いに顔を見回し暗い表情になる。


「そういうことだったのね……。やり方を変えなきゃダメってことね」


 青葉はため息をつかせていた。彼らのためにやったこととはいえ自分がやったことが彼らに争いの火種をもたらしたことに自責の念に多少なりともかられていた。


「それでね、その犠牲になった人がね……」


 そう囁きながら看護師の女性は青葉の奥にいる人物に視線を向ける。その人物とは──。


「俺の両親だよ」




「え? そうだったの……」


 ニウレレだった。彼がそっぽを向きながらつぶやくように答える。

 唖然とする青葉。自分がみんなとためと思って行ったことがみんなを傷つけ争いの火種になっていた事を初めて知った。そして複雑な思いになり言葉を失ってしまう。


「本当にすいません、私のせいで大切な人を失ってしまうなんて」


 青葉はうつむき始め暗い表情になり身体を震わせながら言葉を返す。そして頭を下げ始める。しかしニウレレは──。


「いいんだ、俺はあえて言わなかったんだ」


「え──、でも……」


「これを行ったらみんなが俺達を見捨てちまうだろ。誰も俺達に助け船を出そうなんて考えなくなってしまう。それが嫌だったんだよ」


 ニウレレが一番恐れていたこと、それはこの地方が誰からも見捨てられ世界から孤児のようになってしまう事であった。


 それでもやり方さえ変えればそっと青葉達に伝えることもできた。 ただ本人は無口で寡黙な性格であったため。うまく青葉達に伝えることができなかったのであった。


 他の冒険者の一人が話しに入り込んでくる。


「あまり気にしないでください。そういったことは私達の間でもあります。だからと言って手を差し伸べるのをやめないでほしいんです」


 たしかに青葉達の行いはあの時はうまくいかなかった。

 だが自分たちの思いがうまく伝わらなかったというのは誰にでもある。最初から完璧に出来れば誰も苦労はしない。紆余曲折を繰り返してやっとうまくいくということもある。

 気まずい案件ではあるがここの人達にとってむげにはできなかったのである。


「それでも私たちを見捨てないでほしいんです。政府があんな腐敗した状況で世界から孤児のようになってしまったらもうどうする事が出来ませんから。今度はみんなで相談し合って想いが届くようなやり方で恵まれない人たちのために尽くしましょう」


「みんなごめんね、今度は絶対みんなの役に立つから。私頑張るから──」


 落ち込んでいた青葉の表情に笑顔が戻っていく。そして立ち上がり再び傷ついた人の治療を始め出す。


「わたしたちも行きましょ!!」


 サラの掛け声に反応して幸一とイレーナも何かできることはないかと立ち上がり探し始める。


 こうして彼らはこの街の住民の役に立ちながら様々な話を聞き情報を得ていった。そんな事をしながら再び一日が過ぎていった。




 その夜、ホテルのベランダ。スラム街の方には古びた建物から薄暗い明りが見え、繁華街からは人々の声がにぎやかに聞こえていた。


 それをちょこんと体育座りをしながら見ている一人の少女。

 いつものような明るい表情やそぶりは影を潜めため息を吐きながらその風景をじっと見ていた。


「青葉、そこにいたのか──、やっぱり気にしていたんだな」

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