第86話 反旗の力ホワイトアウト・バーニング・インフェルノ

「守りに入るか。凡人の発想だな──。そんな貧相な発想ではこの私を倒すはおろか一撃を入れることもできぬぞ!!」


「終わったわ」


 青葉がうつむいて思わず囁く。


「これで決まりだ、さらば──唯一王よ!!」


 そして勝負を決めるために右手を振りかざす、そして足に魔力を込めて蹴り込み幸一の方向へ一気に向かっていく。


 へイムは勝負を決める一撃を繰り出す。幸一は少しでもダメージを減らそうと受けの体制に入る。

 しかし身動きが取れない空中では完全に攻撃をかわしきることは出来ず──。


 へイムは振りかざした右手を下ろし幸一に切りかかる。幸一はガードはしたものの強力な一撃をまともに食らってしまう。



 ぐぁあああああああああああああああああ。


 幸一の悲鳴がこの場にこだまする。


 20メートルはあろうである階段をピンポン玉ように幸一の体が落ちていく。






 あまりの実力の差、周りはそれを実感させられて沈黙してしまう。彼らの視線の先には攻撃をまともに食らい、長い階段を転げ落ち無残に倒れこんでいる幸一の姿。


 幸一は今まで攻撃を一回も与えられていない。誰が見ても勝敗は目に見えていた。


「幸君!!」


 イレーナとサラが慌てて幸一を心配して近づく。すると幸一はそっちに視線を配った後起き上がり始め叫ぶ。


「近づくな!!」


 幸一は二人に向かって叫ぶ。その迫力にイレーナとサラは思わず立ち止まる。




「これは俺達の戦いだ、俺と、ルトと、イレーナ、ここにすむみんなの戦いなんだ。だから絶対に負けるわけにはいかないんだ!! だからここであきらめるわけにはいかないんだ!!」


(確かに相手は圧倒的に強い、それでも。俺は勝たなきゃいけないんだ──)


 何とか最後の力を振り絞って幸一がゆっくりと立ち上がる、すると──。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。



 幸一の左腕に言葉が浮かび始める、そしてその言葉が幸一の脳裏によぎり始め理解する。


「新しい──、術式?」


 その言葉の通りその浮かび上がる文字は幸一が新しく使えるようになった術式の口上だった。


 へイムは相手の表情からそれを理解する。そして高らかに笑い始める。


「素晴らしい──。流石は勇者だ、この局面で新しき術式を手に入れるとは。それだけの天命と強運、魂を持っているということだ」


「その強運、太古の時代からそうだ。歴史を作る偉人と言う者は圧倒的な強さもさることながらここぞという時に奇跡とも言うべき強運を発揮する。まるで天命ともいうべきな」


 ここに来て幸一の新呪文、ぱちぱちと神殿の上で拍手をするへイム。彼は全く動じない。逆にここで幸一を心の底で讃え出す。全く負けるとは考えていない。最強として、強者としての余裕を全開に出す。


「ますますお前が欲しくなった。来い、俺を倒すのだろう!! その力で、俺に向かって披露してみろ!!」


 そしてニヤリと余裕の笑みを神殿の下にいるボロボロになった幸一に見せつける。

 一方の幸一、身体はボロボロ、新しい術式、どんな術式かわからないにも関わらず危機感はかけらもない。恐らく負けるとはみじんにも考えていない。


(俺がどんな力を授かっても負けることは無いってか……)


 幸一もそれは理解していた。一瞬新術式を使うのをためらってしまう。

 どの道幸一にはこれしか勝ち筋は無い。この新しい術式でマンネルへイムに勝つという賭けの様な選択肢しか──。


「だが行くしかない。これが俺に隠された最後の可能性、頼む!!!!!!!」


 安寧根の想いが集う時、反旗の業火、魂まで焼きつけよ!!

 此岸に焼き付ける力、ホワイトアウト・バーニング・インフェルノ


 幸一は剣を天空に掲げる、白い業火が出現しそれがトルネードのように変幻し始める。



 周りも、幸一自身も感じる。この術式に込められた魔力の強さを。少なくても今までの術式よりも比べ物にならない強さであった。周りの人たちは見たこともない力の強さに圧倒される。そしてへイムはぱちぱちと拍手をし始める。


「Congratulation、すばらしいよ……」


(この力を見ても危機感を感じない。確実に対抗策はあるな──)


「ここまでの強い魔力。俺が今まで生きていた中でも数回しか見たことがない魔力だ。

 強き志、とても将来が楽しみだ」


 この強大な力を目の当たりにしていても神殿の上で術式を見上げながら棒立ち。幸一はその強さをすべて込めてそれをへイムにぶつけると決める。


(だが俺はこの術式にかけるしか道は無い──)


「この強さならいける、いけえええええええええええええええええええええええ」


 幸一は最後のチャンスと考え全ての力をこの術式に込める。彼の攻撃が龍のごとく神殿の階段を駆け上がりへイムの目前に迫る。へイムはニヤリと笑みを浮かべただ一言──。



「      笑          止           」


 そしてへイムは勝負を決定づけるため自身の中でも強力な術式で反撃を始める。

 彼の体に常人ではありえないほどの魔力が憑依し始める。



 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。



 覇王たる器、世界を束ねる力、ここに現れよ。我が栄光を照らす覇道となれ!!

 シューティングスター・エアレイドウェーブ


 彼が発動した術式。その強さに盛るものすべてが驚愕する。

 今まで見たこともないほどに途方もない魔力が込められている。そしてへイムが勝ち誇ったような笑みを浮かべながら高らかに叫ぶ。



「確かに貴様の術式は素晴らしかった。戦術、懸ける魂、魔力、常人ではありえないものばかりだった。しかし、程遠い。未熟すぎる。届かない!! この俺を倒すのには、まるでな!!」


 負けるとはみじんも考えないマンネルへイムの態度。


 そして二人の術式が衝突する。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


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