第77話 撃滅王

「恐らくこの世界で最強と呼ばれた冒険者です……、今は冒険者と言うより──革命家と言った方がいいでしょうが」


 マンネルへイム。

 その圧倒的な強さから撃滅王とも呼ばれ圧倒的な強さで魔獣たちを全滅させる。その強さから世界最強とも呼ばれているほどである。また、強さだけではなく強いカリスマ性を持っていて人々からも貴族達をもしのぐ人気を確保していた。



 そんなへイムの傲慢かつ横柄な態度、素振り。幸一が反論する。


「あとさっきのサラへの言い方。そんな言い方ないだろ。サラ、心配しないで俺はサラをお荷物なんて思ったりしてないよ」


「あ、ありがとう……」


 その言葉にサラは微笑を浮かべる。

 さらに一人の人物がこの場に現れる。


「へイムさん……、こんなところで会うとは」


 看護師姿に変装したルトであった。


「ほう──、王国の王子様か。こんなところでボランティアか? 報われない努力、認められない努力ご苦労様だ。だがやり方を変えれば貴様の立場ならもっと大勢の人を救うこともできたんじゃないのか?」


 挑発するような物言い、しかしルトはそれに動じずに反論する。


「あなたがそう思っているのならそう思えばいい──。僕には僕のやり方があるあなたとは違うやり方が──」


 さらにルトは真剣な目つきで話しを続ける。



「子供の頃、腐敗した世界で影を落としていた僕にあなたは立ち上がるきっかけを下さった」


「それは貴様が勝手に思っただけだ」


「僕はその言葉に自分なりの答えを出すため戦っている」


 失望していた自分に突然かけてきた言葉。


「お前と同じ考えの者だ、虐げられている者のため。救いを求めている人たちのため戦う覚悟がある者だ。分かるか? なぜお前が何もできないか、それは力だ。綺麗事ばかりを並べ何もできない貴様には誰もついていかない。それが心理なのだよ」


 ルトが魔法を使えるようになる前、苦しんでいる人達に何もできず無力感にさいなまれていた。そんなルトに声をかけたのがマンネルへイムであった。


 最強の革命家を相手に一歩も引かない物言いのルト、へイムはやれやれとため息をつき落ち着いた口調で言葉を返す。


「まあ、ここで話すことではないな。今日の夜、俺はこの場所にいる。そこで話そう──。俺様の野望、そして貴様らの野望も共有できるかもしれぬ」



 そう言ってマンネルへイムはポケットから地図を出し幸一に渡す。


「多分すぐに立ち去ると思いますけどね──」


 ルトがため息をつくとため息交じりで呆れた表情をしながら答える。


「まあ、食わず嫌いをするのも自由だ。だがどうせやることもあるまい。この強くて慈悲深くて強い英雄たる俺様が貴様らに救いの手を差し伸べてやると言うのだ。来い、以上だ」


 そしてへイムは高らかな笑い声を浮かべてこの場を去っていった。





 そして夜──。

 約束の場所に行くため幸一達が夜の街並みを歩いていく。



「ねえルト君、やっぱり答えは決まっているの?」


「まあね」


 青葉の質問にルトは毅然と言葉を返す。

 元々ルトはあまり行く気はなかったが幸一の強い説得により同行する事になっていた。



 歩きながらサラが警戒した表情でへイムと会った時の事を話す。


「私の事完全に知られていました。彼情報についてもとても詳しいですね──」


 イレーナが真剣な表情で答える。


「彼は恐らくはこの世界で一番強い魔法使いと聞きました。何でも一人で襲来した大型魔獣を倒したとか──。でもきっと強いだけではないはずですカリスマ性や政治的な駆け引きもすごいものがあると思います」



 青葉がマンネルへイムについて語る。


「私も会ったことがあるわ。なんて言うか、横柄な口調もそうだけど、底知れないものを感じたわ──」





 彼はどんな人物なのだろうか、そんな想いで幸一達はマンネルへイムのもとへ向かっていく。


 そして夜の街並みを歩く事20分ほど。その場所にたどり着く。

 そこは繁華街のはずれにある大きな大聖堂。ネウストリアにある大聖堂よりは地味で小さめだがこの街では中心にありかなりの大きさを持っていて存在感を放っていた。


 ノックをして中に入る。礼拝所になっており大きな女神の銅像があり、神秘的な印象をうかがわせる。


 そして女神像の目の前、その人物はいた。

 仁王立ちでこっちを見ている。普通の人とは違う圧倒的な存在感を見せていた。


「おお、やはり来てくれたか。さすが勇者よ。まあ、立ち話も何だ。そこに座るがよい」


「すぐに席を立たせていただくと思いますけどね──」


 警戒した様子のルト。ルトが発した言葉の後、背後の扉が開く、そしてその人物がロトに話しかける。


「はい、ルト。流石はあなたです、少し話をしましょう。私は敵ではない。あなたならわかりますよね──」


 ルトと同じ白い髪の色。肌に擬態したような白いドレス、ドレスには白や透明に光り輝く装飾品。

 ルトが思わず目を見開き言葉を失う。彼女こそがルトの姉であり国王の後継者争いのライバル国王の娘ティミセラであった。ティミセラは優雅で落ち着いた素振りで歩きへイムの隣に立つ。


 冷ややかな視線を送るルトをしり目にへイムが言葉を進める。



「貴様は俺と相対しても全く動じないな──。大した奴だ、ますます気に入ったぞ。俺が貴様たちを呼んだのは他でもない。この俺様が作り出す理想の世界の力になってほしい」


「理想の、世界──?」

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