【完結済】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

第62話 私の気持ち、届いてくれたかな？

「これで行く、幸君にそんな嘘はつきたくない！！」

　弱弱しくも強い口調でイレーナが囁く。青葉は冗談交じりで問い返す。

「本当に？　幸君幻滅しちゃうかもしれないよ？」

「それでもこれで行く。私、幸君に作るって決めたんだもん」

　いくら幸君に好かれたいと思ってもそんな嘘をつくようなまねはしたくない。

　イレーナの最後の意地だった。

　そしてその伸び伸びパスタをじっと見る幸一。

「イ、イレーナ……、その──ありがとうな、疲れているのに」

　明らかに気を使っている。そのしぐさからイレーナも感じていて思わずうつむいてしまう。

（うん、やっぱりそうなるよね……）

「と、とりあえず食べてみましょう──、わ、私もおなかをすいていますし」

　気まずそうな表情でサラがそう言いながらもりつけようの皿とフォークを棚からとり出す。

　サラもパスタは食べたことがあり今のイレーナの作ったパスタがどんな惨状になっているかが理解していた。

　そしてサラが食器を机に広げて山盛りになっているパスタを分けようとする。

「ほら、平等に分けるわよ。でないと多く食べる人が出て不公平でしょ──」

　青葉の言葉がイレーナの心臓にぎすぎすと突き刺さる。イレーナは何も言えずにただ耐えるしかなかった。

　そして盛り付けが終わって食事が始める。いただきますの合図で幸一達がフォークを手に取り食事を始める。

　麺をソースにからめ口に入れる。そしてその触感は？

「味はおいしいおいしいんだけど……」

　問題はやはり食感だった

「食感的には餅に近いわね──」

「それは思った……」

　苦笑いをした青葉が幸一に話しかける。幸一は複雑な表情をして言葉を返す。

　これが現実だった。明らかにパスタを煮込みすぎていてコシも歯ごたえもなく無く柔らかすぎている。

　おまけにパスタ自体も山盛りになっていてその量も多い。もっともカルボナーラのソース自体は良く出来ていて味もおいしかったので食べられる料理ではあったが──。

　それでもイレーナの作った料理なので捨てることなどできず、何とか食べ終える幸一達。

　食器を洗った後、青葉がジト目で話しかける。

「うん、おいしかったよイレーナ。また期待してるよーー（棒）」

「だから変なお世辞はいいって、私が悪いんだから」

　明らかに表情と言っている言葉があっていない。しかしそうなったのは自分のせいなので反論できない、サラと青葉がこの場を去りイレーナは幸一と二人っきりとなる。なんて言えばいいか戸惑い言葉を失うイレーナ。

「ぅぅぅ──」

　とりあえずイレーナがつかれていると考え彼女の回復のために手をつなぐ。

　うなだれながら幸一はどうすればいいか考える。

　下手に苦笑いをしておいしいとフォローをしてもイレーナは落ち込んだままになるだろう。

　どう声をかければイレーナの気持ちが晴れるか……。しばし悩む。

　そして幸一は答えを出し始める。

「あの……、ありがとうな。イレーナ」

「え？　その、気を使わなくていいよ──。私が最後に気を使ってうたた寝をしちゃったのが悪いんだし──」

　イレーナがうなだれながら幸一の言葉を聞く。

「気を使ってなんかないよ、心の底からの本音だよ。イレーナはほら、王女様なのにいつも一生懸命で身体を張って戦っているし、そういうところが取っても好きだよ」

「うん、ありがとう……。って好き？？？」

　イレーナはその単語に大きく反応し顔を赤面させる。

「あ、ありがとう。でも私これしかできないの。私は彼らとは違って国王様の直系じゃないから──」

　幸一は以前サラから聞いた言葉を思い出す。彼女は国王の兄弟の娘なので後継者争いには入れないと強く釘を刺されたと、恐らくはその分戦いでこの国の力になりたいと言う想いが強いのだろう。

「でも、そうやってひたむきに頑張っていればいつか報われると思うよ。俺そういうと子ととても好きだし、応援するよ」

「あ、うん。ありがとう──」

　心からの満面の笑みを浮かべるイレーナ。さらに幸一はイレーナに詰め寄って言葉を続ける。

「後今日の料理もとてもうれしかったよ、ありがとうね」

「本当に？」

「うん、俺はとっても嬉しいよ。あんな疲れていたのにイレーナが心を込めてみんなに手料理を作って。確かに麺は伸び来ちゃっておいしくなかったけど、ソースはとてもおいしかったし何よりイレーナが心を込めて作ってくれたのがとっても嬉しかったよ」

「でも今度は一緒に作ってみたいな。だから今度は俺も誘ってよ、それで一緒に作ろう──」

　きりっとした表情、真顔でイレーナを見つめる幸一。

　お世辞だと心で理解していてもやはり心の底からうれしい気分になってしまう。

　うっとりとしながらイレーナは心の中で囁く。

（私の気持ち、届いてくれたかな？）

　作戦は成功とはいえなかった。しかし幸一が喜んでいる姿を見るだけでイレーナの顔が酔ったように赤くして彼の顔を眺めてしまう。

「次は期待して待ててね。幸君──」

　イレーナがにっこりと優しい笑みを見せながらそう宣言する。幸一はそれを見て応援の言葉をかける。

「じゃあ次は期待してるよ、イレーナ」

「ぇえっと──、その……。うん！！」

　真正面から期待されているような事を言われ、イレーナの顔が熱くなる。

　そして心の中で宣言する。

（次は絶対、幸君の心に届かせてみせる！！）