第37話 可愛い王子様、「ホーゼンフェルト=ミッテラン」

 


 幸一は美術で写生自体は習った経験があり軽く教えることくらいは出来る、しかしそこまで詳しいわけではないのでそれを打ち明けて見たのだが……


「幸一さん、写生の仕方私に教えてくれませんか?」


「幸君、一緒に写生しませんか? よくわからないので見てみたいです」


 多数の女の子に詰め寄られるという今までにない経験に動揺しドキドキしてしまう幸一。

 そうしていると背後から殺気のこもった視線を感じ取るようになる。


「広君? そんなに女のことばかりいちゃいちゃ……、ずるい!!」


 イレーナだった。彼女が顔を膨らませてやってくる、そして幸一の隣で一緒に写生を行い始める。


 早速書いている幸一の肩を誰かが叩く。

 そこには茶髪でポニーテールをした女の子がいて陽気に話しかけてきた。




「へぇ~~幸君って写生得意なんだーー、毎日しているの? 私にも教えてくれませんか? あんまり得意ではないので……」


「あ、うん。僕にできる事なら教えるよ……」


「あ、ありがとうございます、私ソフィナと申します。よろしくお願いいたします」


 黒髪で三つ編みの少女が幸一の隣にちょこんと座りこむ。

 学生時代に美術の授業で習った知識を思い出し彼女に教える。


 今度はソフィナが持っていたコーヒーカップの絵を描く事となった。

 そして左隣の人がコーヒーカップの取っ手の部分を書こうとすると幸一が話しかける。


「ちょっとストップ、いきなり細部を書かないで」


「え? ああすいません」


「まずアタリをとって全体像を描いてからにしないと出来た時にバランスが悪くなっちゃうよ」


「あ、ありがとうございます」


 そして彼の教え方のとおり全体像を描いてから細部の部分を描く、描き始めて一時間ほどたった。すると──


「あ、すごい。今までよりずっと良く出来てます!!」


 描いた絵は全体のバランスがよく出来ていて今までにないくらいよい出来になった。


「いいやり方を教えていただいてありがとうございます、何か自信が持てました」


「あ、喜んでいただいて何よりです。こちらこそ楽しかったですよ」


 三つ編みの少女ソフィナが喜びながら頭を下げてお礼を言う、幸一は彼女が喜んでくれたことが嬉しかった。


 そんな感情になっているとソフィナの表情が少し険しくなり少し落ち着いたトーンで話しかける。


「ちょっと授業とは関係ないんですがいいですか?」

「あ、いいよ」


 するとさっきより声のトーンを低くしてさらに話を続ける。


「単刀直入に言います私の友達の妹が突然姿を消してしまったんです」


「え? どういうこと?」


 ソフィナはさらに説明を続ける。


「特徴、わかる?」


「亜人で羽が生えていて猫の毛耳が生えています、地方から移住してきたようで生活は貧しかったですね……、兵士の皆さんは貧困層のことなんか管轄外って感じで誰も相手にしてくれません。頼りになるのは唯一王の幸一さんくらいなんです」


 幸一の世界と違ってそこまで治安が良くなく警察組織も未熟なため貧しい地区出身の行方不明者などに耳を傾けてくれる者はいないようで頼りになるのが幸一ぐらいしかいないらしい。


「わかった、協力するよ。終わったら話をしっかり聞くからそれでいいかな?」


「本当ですか? ありがとうございます。じゃあその時はよろしくお願いいたしますね」


 ソフィナは喜んでうなずき共に再び写生を再開した。

 隣でいい表情をしないイレーナを気にしながら一緒に写生を行う。




 結果として幸一自身は二、三分ごとに他の生徒から呼ばれる事になりあまり集中できる環境ではなかった、しかし講師として呼ばれていたので特に気にしてはいなかった。


 サラとイレーナも時折呼ばれることはあったそれなりの絵は描けたようであった。


 そして有力な情報を手にすることができたことが一番の大きな収穫である。

 そんな形で写生の授業の仕事を終えこの場がお開きになる。幸一達三人はこの仕事を終え街の巡回に行こうと城門へ移動する。

 すると城門の所に一人の少年がぽつんと立っていた。




「あなたが炎の唯一王の幸一さんかな? ちょっと話があるんだけれどいい?」


 白い髪の毛、中性的な容姿で身長はやや小柄で百六十センチくらい。

 どことなくイレーナに似ている印象を醸し出していた。


「ルト君、久しぶり!!」


 イレーナがその姿を見るや否や叫ぶ。


「ルト君? ああ、彼が先日言っていた後継者争いをしている王子様ってことか……」


 彼こそがこの国の次期国王候補の一人でありイレーナの弟でもあるホーゼンフェルト=ミッテランであった。幸一にとっては初めてのご対面であった。


「まあ、そんなところだね……」


 その言葉に複雑な表情をするホーゼンフェルト。


「まあいいや、こんなところで話すのもなんだし部屋に来てほしいんだけどいいかな? ちょっと頼みたいことがあるんだ」


「は、はい大丈夫です」


 幸一がその言葉を発すると四人が宮殿に入りホーゼンフェルトの部屋に移動をした。



 宮殿の中を歩いて五分程、最上階に彼の部屋はあった。

 他の豪華なシャンデリアや大きく芸術的な絵画などで飾られた部屋とはどこか一線を化し

 王子様らしからぬシンプルかつ質素な部屋に逆に幸一は少し驚く。


「意外とシンプルだな……」


「座って……」


 そのルトの言葉に幸一達はソファーに腰をかける。


「ルト君、大きくなったね」


「あ、ありがとうイレーナ姉さん──」


 そんな軽い世間話をしながらオホンとホーゼンフェルトが咳をすると四人は話の本題に入る。


「とりあえずやってほしいことがあるのは君だ、幸一君」

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