第28話 深部

 

「何か来る──」


 そう囁く幸一、その言葉にイレーナとサラも反応し周囲をきょろきょろとする。

 張りつめた緊張感がこの場を包み敵はどこだ、と周りを確認するが……



(なにもいない、気のせいかな?)


 静寂な中でアンデットらしき怪物は一匹もいない。気のせいではないかという思考が二人の脳裏によぎり始め警戒の意識が無意識に弱まって行く。












 ──瞬間。








 ヴヴェワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ



 なんと壁からアンデットの騎士が登場しサラを襲い始めた。


 どす黒い体に邪悪なオーラ、ゾンビに近い外見、しかし奇妙なのはそれだけではなかった。

 下半身が壁にのめり込んでいて、その壁から上半身を出しているような状態でサラに襲い掛かる。


「させない!!」


「変なバケモノだ」


 イレーナと幸一がすぐにそのアンデットに対応。アンデットの体を薙ぎ払い身体が三つに分断される。


 アンデットは断末魔の叫び声を上げながら消滅、その姿を見るたサラの恐怖感が消え息を撫で下ろした。


「ありがとうございます──」


「いや、まだだ!! まだ何かいる」


 幸一が感じていた気配はまだ消えていなかった。そして神経を研ぎ澄ませ敵の気配を感じ取る。そして──。



 ウガァァァァァァァァァァァァァァァァ


 幸一のちょうど上、天井から突然叫び声が聞こえ始める。すると彼は持っていたカシラニコフをその天井の方に薙ぎ払う。


 何もいなかったはずの上に、先ほどとは違った姿の黒くて邪悪なオーラを放つゾンビが出現していた。

 彼はなんと天井の壁に化けていたのだった。


 そのゾンビは日頃は壁に擬態していて、無警戒で油断したところを奇襲するのが得意なアンデットだった。


 幸一のカシラニコフがアンデットの心臓を貫く、叫び声を上げる暇もなくアンデットがその場に屍となって崩れ落ちる。



「一筋縄ではいかないってことか、お前らも気をつけろよ」







 後方から兵士たちの悲鳴が聞こえる。恐らくは先ほどのような奇襲を得意とするアンデットやゾンビに出くわしたのだろう、いきなりあんなグロい魔物が出てくれば誰だって驚く。


 イレーナは彼らを援護するため、後ろへ向かった方がいいのではないかとサラに提案。


「国王様大丈夫? 応援した方がいいかな?」


 サラと幸一は少し考えたがやめた方がいいと結論を出す。


「でも強い敵がいたら国王が危ないですよ、余程全滅しそうな強い敵でない限り私たちは先方にいて、露払いの役割をした方がいいと思います」


「警備の兵だってイレーナほどじゃないけど、それなりに強い兵はいるよ。ここは彼らを信じよう。強い敵と闘って国王の安全を確保するのが俺達の役目だ」


 確かに正論だった。


 今までは幸一なら瞬殺出来る雑兵しか相手にしていなかったが、もし強敵がいた場合国王の命が危険にさらされてしまう。最悪有利に戦っていても人質に取られてしまう可能性だってある。


 事実悲鳴が聞こえた後、闘っている物音が三十秒ほどした後悲鳴は無くなった。 

 恐らく警備の冒険者がアンデットやゾンビを倒したのだろう。


 その事に安堵し三人はさらに道を進める。





 そして狭い道を抜けると大広間に到達する。


「広い部屋──、着いたんでしょうか?」


 壁には西洋風の壁画や神秘的な幾何学模様、さらに象形文字の羅列がいたるところに記されていた。

 大広間の中には会議室の様な机やアンティークな飾り、しかし薄暗くてよく見えない。


 その間に後方を歩いていた国王や側近、マグブライトとラミスなど警備役の人が入ってくる。そして最後に後方部隊だったルーデルとシスカなどの冒険者達が入る。






「これで全員か──」


 幸一の言葉通り全員がこの部屋に入り終えた。すると突然暗かったこの部屋に電気がついたかのようにパッと昼間のように明るくなる。




 改めて周囲を見回すと壁には様々な動物の絵画や神秘的な模様、そして古代文字で書かれていた文章などが記されていた。


 休息の時間となり各自眠りについたり食事をとったりし始める。幸一達も持ってきた非常食を国王や側近たちと一緒に食べ始める。その中で話を聞き、少しでもこの世界に関する情報を集める。

 他の人たちがしばしの休憩をとる中、サラは自分の知識を動員して文章の解読を始めた。



 とある壁画の冒頭にはこんな文字が描かれていた。



「最近の若者は将来のことを考えもせず将来が心配である──」


 要約すると、国王が最近の若者についての文化や考えに懸念を示す内容が描かれていた。


 どうやらここに書いてあるのは機密事項というより日記のような日頃のぼやきや思ったことをただように書いているような内容のようだ。


「ということは大昔の秘密や魔王軍、勇者などのこの世界の機密情報は載っていないか……」




 一方。





 シスカは牙をといでいた、彼女はウサギの習性として牙が生え続けるので、長くなったら石などで牙を研がなくてはいけない。


「すいません、私達ウサギの亜人って前歯が一生伸びるんです。ですのでちょっと前歯が伸びてきたので歯を削らせてください」


 そしてシスカは前歯を削った後、カバンから生のニンジンを取り出しぼりぼりとかじり始めた。


 食事が終わりサラは引き続き壁に記している言葉の解読を進める。しかし内容はどれも最近の若者に対する愚痴や自分の趣味などと言った到底世界の秘密とは思えないような内容ばかり。


 落胆する国王やその側近たち。彼らの言葉の中に期待はずれだ。騙された、という声が広がり始める。


(他に秘密があるんじゃないか?)


 そう考えた幸一はその周りに何か怪しい物が無いか探す、さらにその壁に触れノックしてみると──。


「ここが怪しいな、絶対何かある」

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