第18話 Unrivaled
「さてと……」
流石に帰ってきたばかりで気が抜けてた。
アイツには三日に一度くらいのペースで襲われるからな。
俺のこの体質はどうにもならないらしい。
まずは人気のない狭いところに移動。
そこで迎え撃つのが一番。
俺の『武器』からして、そういうところで戦うのがいい。
となれば、いつもの廃墟街だが。
ここからとなれば結構距離がある。
一人は慣れている。
孤独は嫌いじゃないが、寂しくもあるな。
折角帰ってきたのにやることがいつもと変わらずじゃマンネリだよ。
「サムソン、そこでなにしてる?」
「げぇ、ビスタ!?」
「なんだ、そのリアクション」
今、それなりに会いたくない奴に出会っちまった。
だが、『アイツ』ではないのでまあいいだろう。
「で、お前は誰だ? マスターが言っていた新入りの一人か?」
「え? もしかして私のこと見えてるんすか?」
これは見えてはいけないものが見えてしまったか?
いやいや、ちゃんと足があるし、幽霊じゃないよな……?
「アイン、何言ってる、ずっと、ビスタの傍にいたよ?」
「いやぁ、今度ギルドの先輩にあったら使ってみたいネタだったんでねぇ」
「冗談だったのか!?」
「まあ、ジョークっすね」
「面白い冗談だ、お前、名前は?」
「アインっす」
「俺はサムソン、ギルド内にいることはそんなにないとは思うがよろしくな」
「うぃっす」
うむ。
後輩に当たるらしい少年だ。
俺から見れば少年なので少年ということにしておこう。
「で、一つ聞くが、ビスタ……仕事はどうした?」
「今日、非番」
「アイン少年の方は?」
「寝坊したんで、サボりっす」
「お、おう……」
こいつはまた一癖も二癖もあるやつだ。
「アイン、寝坊したのは嘘、本当は……」
「いえ、寝坊したのは事実っすよ。
嗚呼、朝9時から出勤ならどれだけ楽になるのだろうか」
「マスターに相談すればそこら辺の融通が利きそうだが?」
「それはダメっすね、自分だけが特別じゃないんですから……」
「だったら、ビスタ、週休七日にする、働きたいときだけ働く」
それじゃあただのニートじゃねぇか!
と、言っても『ニート』という意味がビスタに通じるとは思えない。
まあ、前に色々とあったし、強くは言えないな。
「で、サムソンさんはこんなところで何してんすか?」
「サボり?」
「いや、仕事終わりの野暮用の残業」
「仕事熱心なんすね、あれっすか。
稼げるときに稼いで老後を楽したいって感じですか?」
「老後、か……そんな先のことは考えたこともないな」
先なんざ見えない。
いつまで経っても終わらないおいかけっこを走り続けてるような俺には見えない。
「っと、こんなとこでをお喋りしてる場合じゃなかったわ」
「なにか急ぎの用でしたか、足を止めさせたみたいで何か申し訳ないっすね」
「いや、気にすんなって……じゃあな、少年」
「待て、サムソン」
相変わらず顔が近い。
こういう時のビスタはしつこいったらありゃしない。
「また、アイツ、いる?」
「ああ、いるよ……だから行く」
「なら、ビスタも行く、よろしい?」
ああ、やっぱりそうなるか。
だろうと思ったが、まあ足手まといにはならないだろう。
「じゃあ、私はこれで……」
「待て、アイン、お前も来い」
「いやいや、私が首つっこむのも……」
「来い」
あー……やっぱり面倒なことになった。
分かりきっていたことだが、こうなってしまったか。
いやぁ、俺としては初対面の奴を巻き込むのもアレだよ。
「ビスタ、暇、アインも暇、同じ」
「まあそうですけども、私はいいですけども……サムソンさんが迷惑じゃなければ」
迷惑を掛けるか……。
まあ、そうだろうな。
普通はそういうことを考える。
ずけずけと入ってくるのは『アイツ』とビスタとドゥラの嬢ちゃんくらいだよ。
「迷惑なんざ生きてりゃ誰でも掛ける。
迷惑掛けずに生きてるやつなんざ、そりゃもう完全無欠な完璧超人だ。
……それに、よ………………避けろッ!!!」
「!?」
人が喋ってるときに来やがった。
弾丸というよりも飛ぶ斬撃。
俺は避けた。
ビスタは刀で捌いた。
アイン少年は………………。
「今の風は一体……」
風?
確かに風圧を一点に集めた、そういう類の技だが。
直撃すれば普通なら身体が千切れ飛ぶくらいのアレだ。
「アイン、頑丈、平気」
「な、なるほどね…………というか、無事か、少年?」
「? はい」
はい、じゃないが。
お前の身体はどうなっている?
見たところもケガもないし、血の一滴も流れてねぇぞ!!
いや、それよりもこれは非常にまずいな。
アイツの狙撃みたいな飛ぶ斬撃はほぼ正確無比。
アイツの動きを見たところでまずは何が起こったか分からずに斬られる。
初見、情報無しで避けれる奴がいたとしたら……そりゃ反射神経と反応速度の化け物だ。
うちのギルドでそれが出来るとしたら、スズカさんくらい……。
いや、となれば朝のあの嬢ちゃんは…………考えるのは後だ。
「一先ず、だ……二人ともついて来い」
「えっと、はい」
「了解」
走って、この場から逃げる。
とにかく走る。
……
…………
……………………
「サムソンさん、何に狙われているんですか?」
「まあ、理性の枷がぶっ壊れた獣みたいなやつだ。
話せば少しばかり長くなるし、面倒な説明になる」
「あーそういった話っすか、掻い摘んで話てもらえますか?」
「……あれは俺がガキの頃、宇宙人に拉致られて、改造手術を受けてだな……」
「すいません、初っ端から意味が分からないんで、やっぱいいっすわ」
だよなー。
俺だってこの話をすればこういう空気になるのは知ってた。
だが、事実なんだよなー。
さて、そんなことよりも目標地点に着いた。
「いるんだろ、『ユニ』」
「アッハッハッハ! やっと『ユニ』の名前を呼んでくれた!!
今日は余計なのに邪魔されてたから、回り道が過ぎた!!
さあ、今日も存分に殺し合おうか!!」
金色の髪に真っ赤な瞳。
狂ったような笑顔で物騒な言葉を投げかけてくる。
俺が『ユニ』と呼ぶ少女は壊れている。
「あのう……さっきの風起こしも彼女が?」
「まあそうだな、色々とヤバい奴だから、関わるのは今日だけにしといた方が良いぞ」
「はぁ……」
「斬る」
刹那だった。
ビスタが飛び、『ユニ』の首を撥ねた。
何の躊躇もなく迷いもなく、切断した。
普通なら死ぬ。即死する。
だが、『ユニ』は壊れている。
首を斬られても、すぐに元通りになる。
再生能力という奴だろうか。
俺も未だにわからない。
「痛いなぁ。痛い痛い。
首がちょっと痛かったぁ! でも、生きてるからセーフ!!」
「なんなんですか? アレ?」
「わからん!」
死なない生物を見れば普通はこういう反応をする。
そら、そうなるよ。
「倒せる方法とかあるんすか?」
「夕方五時まで逃げ切る、もしくは動けなくまで殺し続ける、以上」
「それ以外は?」
「わからん! 『ユニ』の気分次第だ!」
「了解、ビスタ、沢山、殺る、問題なし」
「アハッ! 今日は面白いのがいっぱい!!
嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて
嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて
嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて
嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて嬉しくて……楽しい!」
『ユニ』には感情が欠落している。
人とは不完全な生物だが、この欠落具合は人ではない。
欠落を補うために別のものを付け加えられている。
だが、それは人が持っていてはいけない。
「おっと……俺が目的だろ?」
「アハハハハ! 今日はどうやって『ユニ』を殺すの?
斬る? 刻む? 磨り潰す? 貫く? どう殺す?
アハ、ハハハ、ハッハッハッハッハ!!!!!」
「可愛い顔して無茶苦茶を言う」
俺が左足を斬る。
同時にビスタが右足を斬る。
「……サムソンさん、今の糸っすか?」
「ああ、ちょっと特殊な素材のな」
「糸使いは大体強いっすからね」
驚いた。
あの一瞬で俺が何をしたか、見抜きやがった。
まあ、それは置いといて、『ユニ』の再生が終わっている。
持久戦になるか、さっさと終わるか。全てはアイツの気分次第。
それがわかってればいいんだが、生憎俺にはわからん!
「次、来る」
「わかっとる」
「お喋りなら『ユニ』も混ぜてほしいなぁ!!」
「お前に贈る言葉はたった一つだ…………『お前を殺す』」
「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
……
…………
……………………
夕方5時。
ズタボロになった廃墟街。
来た時よりも風通しが良くなった。
一服する。
今日も『ヤツ』を退けた。
「いやぁ、結局なんだったんですか? アレ?」
「最初に言ったろ、俺にもわからん」
「サムソンさん、何故狙われているかは分かるんすか?」
「……となると、俺がガキの頃、宇宙人に拉致られた話をすることになるが、いいか?」
「ああ、ならいいっすわ」
俺の過去話、頑なに聴く気がないな。
というか、よく見たらノーダメージじゃん、コイツ。
敵じゃなくて良かった。
「サムソンの話、どうでもいい、ビスタ、空腹」
「なら、マスターのところ行くか」
「サムソン、飯、奢れ」
「ったく、しょうがねぇな、少年は?」
「私は水だけあればいいんですが、行きますわ」
本当に変わった奴だ。
そういう奴らが集まるのがあの場所、あのギルドだ。
……基本変人しかいねぇな、俺を含めてな!
さて、また『ヤツ』が俺の近くに現れる前にまた何かの遠征クエスト受注すっかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます