第27話 最終決戦へ
神様に世界の境界を越えるゲートを開いてもらい、あたし達は元の世界に帰っていく。
その通路を移動している間にあたしはこの世界で知ったことを神様に話した。それは神様にとっても初耳のようで、彼は興味深そうに頷いた。
「ずっと昔、お前達の世界に現れたドラゴンがこの世界の魔王を呼んだのか」
「はい、魔物があたし達の世界に現れるようになったのもそれが原因だと思います」
「わしのやった事でゲートが開きやすくなったのじゃな。よく調べてくれた礼を言う」
「いえ、あたし達は魔王が話したことを聞いただけですから」
あたし達の話を天馬と美月が補足する。
「ドラゴンの事なら親父に聞けば分かるだろう。俺より詳しい陰陽師の専門家だからな」
「あたしもパパに聞いてみるよ。ドラゴンの事、もっと知っているかもしれない」
「ありがとう、二人とも。でも、今はその前に……」
あたし達の前にゲートの出口が迫ってくる。魔王はもう向こうの世界に着いているはずだ。戦いの時は近い。
「魔王を倒す!」
まずはこの戦いを終わらせる。後の事はそれからだ。
出た先はあたし達のよく知る町の上空だ。近くにあたしの屋敷が、遠くに学校も見えている。
今は家に帰って両親にただいまを言う時間はない。でも、きっと帰ってくるから。
「行こう、学校へ!」
あたし達は決意を胸に学校を目指した。
学校に近づくと以前に屋敷を覆っていたような良くない空気が漂っているのを感じた。
魔王はもう来ている。確信を深め、あたし達は校門の前で神様に降ろしてもらった。
ここからはこの世界に生きるあたし達の戦いだ。
「送ってくれてありがとうございます。後は聖剣が選んだあたしと陰陽師とあたしの妹分に任せておいてください!」
「うむ、この世界のお前達に託そう」
神様の思慮深い眼差しに見送られてあたし達は校門の中に足を踏み入れていく。もう遅い時間のせいか辺りに人の姿は無い。
あたしはまだ部活をやっていなくてすぐに帰っているので知らないが、この時間ならこんなものなのだろうか。
「もうみんな帰っちゃったのかな」
「いや、この辺りに漂う邪気が人を遠ざけているようだな」
「危険を察知して逃げる。動物なら誰でも持っている本能ってやつだね」
天馬と美月の意見に同意する。
あたしだってすぐに離れたい危険な空気を感じる。危なそうだと気づいているのに近づいていくのは愚かな行為かもしれない。
でも、あたし達は逃げるわけにはいかない。決意して前に進む。
校舎の玄関が見えてきた。その前に知っている少女が黒い椅子に座って待っていて、あたしは緊張を緩めて彼女に向かって走っていった。
「京ちゃん!」
「綾辻さん! 帰ってきてくれたんだ!」
パッと明るい笑顔で迎えてくれる。彼女も怖かったのかもしれない。とても安心した顔をしていた。
あたしはもっと早く来れば良かったと思いながら彼女に避難を促す。
「うん! ここは危険よ。早く逃げて!」
「何かあったの?」
「魔王がこの世界に来て、ドラゴンの力を狙っていて……」
言いかけてあたしは京に向こうの世界の事を話していいものか迷った。だが、おかげで気づけた。京が座っていた椅子。それがただの椅子ではないことに。
「え……?」
言葉を失ったあたしの視線に気づいた京がそれを見下ろして言う。いつものふんわりと優しい友達の声で。
「ああ、この椅子? さっき見つけて作ってみたんだけど、座り心地が悪くて。王様なら女王の椅子にいいかなと思ったんだけど、とても綾辻さんは座らせられないね。もういらないや。捨てちゃお」
それはただの椅子では無かった。よつんばいになった魔王だった。何が起こっているのか分からなくてあたしは口をパクパクさせる事しかできない。
彼はとても怯えた瞳であたしと京を見上げてきた。
「お許しください、ミヤコサマ。お許しください……」
「駄目よ、もういらないって決めたんだから。もう向こうに行っちゃってて」
「ぐほあっ」
その姿にもう魔界で会ったような威厳や力強さは無かった。
京は鋭く魔王の腹を蹴り上げる。魔王は勢いよく吹っ飛んで、ぼろ雑巾のように玄関から靴箱まで転がっていった。
「心配いらないわ、綾辻さん。あいつのドラゴンの力はもう抜き取ったから」
「京……」
あたしには何も分からない。今までに見た京にこんな力は無かったはずだ。彼女はただ優しくいつものように微笑んだ。
「綾辻さん、わたし二番になれる力を手に入れたんだよ。天馬君や美月ちゃんよりもきっと役に立ってみせるから。それを証明するから、ここで見ててね」
「え……?」
京の瞳が天馬と美月の方に向けられる。二人はすぐに応戦の構えを取った。
京が振るう鞭を二人は避ける。さっきまで立っていた二人の間の地面が砕け散っていった。
あたしにはただわけも分からず見ている事しか出来なかった。京が見ていろと言ったから、天馬がここは任せろと目線を送ってきたから、何かあるんだと信じて見ている事しか出来なかった。
「綾辻さんと同じ一番を取った天馬君。でも、これからは三番だよ」
京はまず天馬をターゲットとして接近する。天馬の体術はあたしとも互角に渡り合えるほどのものだったが、京を相手に押されていた。
それはただ力や技術の問題だけではなく、京を相手に攻撃していいものか彼も迷ったのだろう。
「天馬君! 加勢するよ!」
美月がステッキの先にファイアボールを作り出す。目的は攻撃よりも天馬が対処できる隙を作る事だ。だから、京にも聞こえるように言った。
戦場を離れて見ているあたしにも分かる。
だが、次の瞬間には京は美月の隣にいてその肩に手を置いていた。
「綾辻さんをお姉ちゃんと呼ぶなんてあなたはどこから来たの? ここから消えてよ。わたしは小学校の時から綾辻さんを見てきたのよ。綾辻さんに妹なんていない!」
京の鋭いキックを美月は間一髪のところで避けた。
「あら、素早い子リスちゃんね。往生際が悪いこと!」
京が暴風雨のように鞭を振るってくる。防戦一方になりながら美月は天馬に訊ねた。
「京お姉ちゃん、どうしちゃったの!?」
「おそらくドラゴンの力に乗っ取られている」
「わたしは何も乗っ取られてはいないわ!」
京の振り降ろしてくる鞭を天馬と美月は二人で根元で受け止めた。京は力勝負を挑まない。すぐに後ろに跳び下がる。二人が油断する暇は無かった。
「美月! そこをどけ!」
「うわっ!」
天馬は美月を突き飛ばし、すぐに自分も反対側に跳んだ。直後、竜の触手が地面を飛び出し、地中に戻っていった。
突き飛ばされなかったら捕まっていた。美月は唖然としながら天馬に言った。
「今の何?」
「地脈の話はしただろう? その出口となる穴から竜の力を飛ばしたんだ。今目印を付ける、そこには近づくな」
陰陽師は妖の気配に敏感だ。
天馬はクナイに紙を付けて投げ、地表の数か所に刺した。即席だが封印の効果がある。数秒ぐらいは防げる。避けるには十分な時間だ。
あそこが竜の力が現れる場所。美月は覚えた。
京は不満そうに言う。
「さすがは綾辻さんと同じ一番を取っただけの事はあるね。気に食わない事をしてくれる。でも、関係ないよ。ドラゴンその物を呼び出してしまえば何も問題なくなるわ」
「なんだと?」
「京お姉ちゃん何を言っているの?」
「古びた封印なんてわたしの力で壊せるんだよ。さあ、今こそ目覚めてここに来なさい。大いなるドラゴンメギウス!」
京が手を振り上げて地面に光が迸った。地響きを上げてドラゴンが浮上してくる。
地下で見たあのドラゴンが今、封印の鎖から解き放たれて目を覚ます。
「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!」
それはもう何年振りのことになるのだろうか。ドラゴンメギウスの咆哮が現代の町に轟渡った。
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