第25話 魔王城の戦い
サイクロプスが棍棒を振り降ろしてくる。あたし達はそれぞれに避ける。振り降ろされた風圧が床や壁を粉々に粉砕しながら抉っていく。
さすがは魔王に信頼されている部下だ。ゴブリンキングよりもパワーがある。
「扉が開かなくなってる!」
「何だって!?」
美月が入ってきた扉を開けようとするが、それはビクともしなかった。天馬も確認した。
「どういうことよ!」
「わたくしに訊かれましても!」
ラキュアに訊いてもらちが明かない。彼女はあたし達をここに連れて来ただけなので何も知らないのだ。
「お前達は心行くまでここで俺と遊んでいくのだ」
サイクロプスが振ってくる棍棒をあたしは避ける。目の前で振り降ろされてラキュアがびっくりした顔をしていたが、形の上では敵であるあたしから庇った格好だろう。
もちろんこんな攻撃は本気で無い事は分かっている。彼はまだ準備運動をしているだけだ。
「わたくしも加勢しますわ!」
「あんたは来るな!」
「ええ!?」
おっと、つい敵に言ってしまった。少し遊んでやったので少し仲間意識が芽生えてしまったようだ。あいつはあたしの屋敷を支配しようとしてパパやママや使用人達を操った敵なのにね。
だが、ラキュアの動きを止めることには成功した。結果オーライってことで。
サイクロプスが足を止めたラキュアに言う。
「ここは俺に任せておけ」
「は……はい」
自分の力に自信のある現れか。あたしもそうだったから分かる。だが、ここではチャンスだ。意識を敵の一体に集中できる。
「一気に畳みかけるよ!」
「ああ!」
「行っちゃうよ!」
あたし達はそれぞれに攻撃を放つ。だが、サイクロプスは平然と立っていた。
「俺の部下を壊滅させた攻撃とはこの程度か?」
「さすがにタフね」
あたし達はまだ全力を出してはいない。別に出し惜しみをしているわけではない。ここは屋内だ。強力な技を使って城が崩れたらあたし達は生き埋めになってしまう。
入口の閉ざされた今の状況では全力の攻撃はリスクが高すぎるのだ。
それを察知した天馬が素早くあたしに向かって言った。
「俺と美月で奴を引きつける。その間にセラからここを脱出する方法を聞き出せ」
「了解!」
どのみち魔王があたし達の世界に向かった現状ではここで長居は出来ない。いつまでもサイクロプスと遊んでいる暇はないのだ。
あたしは戦いを天馬と美月に任せて素早く柱の陰に隠れ、聖剣からセラを呼び出した。
「はいはい、何の用ですか? って、何この闇の空気!?」
「詳しく話すと長くなるんだけど、かくかくしかじかで自分の世界に帰りたいの。ゲートを開けて」
「そんなのあたくしには出来ませんよ」
「ええ!?」
驚いている間にも風圧が横を駆け抜けていく。それでセラも状況を理解した。
「あたくしには出来ませんが、ここは神様の世界。神様を呼びましょう!」
「そんなこと出来るの!?」
「はい。では、呼びますよ。ムムーーン!」
セラは目を閉じて唸った。その間も戦いの音は続いている。急かせる必要もなくセラはすぐに目を開けた。
「通信が繋がりました。すぐに来るからバリアを張って待っていろとのことです」
「バリア?」
「聖剣の能力です。では、あたくしは一足早く避難させてもらいますね」
セラは光となって聖剣に入っていってしまった。あたしにはもう迷う暇なんて無かった。すぐに柱の陰から出て戦っている仲間の二人を呼んだ。
「天馬! 美月! バリアを張るからすぐこっちに来て!」
あたしの動きを待っていた二人の決断は早かった。すぐにあたしの傍に集結した。サイクロプスも向かってくる。その前にあたしはバリアを張った。
「バリアーー!」
聖剣から広がる光が球となり、あたし達を包み込む。サイクロプスが振ってくる棍棒を弾き返す。
バリアなんて初めて使ったけど上手く出来た。
「さすがあたしを選んだ聖剣ね。あたし達気が合うのかも」
「ここからどうするつもりだ?」
「セラちゃんに聞けたんだよね?」
「うん、神様が来るって言ってたけど……」
そうしている間にもサイクロプスが棍棒を振ってくる。バリアはよく弾き返してくれた。業を煮やしたサイクロプスが仲間に向かって叫ぶ。
「何をしているラキュア! お前もここに来て手伝え!」
「はい! ただいま!」
ラキュアが超音波を放ってくるが、あたしのバリアは通さない。バリアはよく働いてくれているが、このままではこちらからも反撃できない。
サイクロプスは次にもっと多くの仲間達を呼ぶだろう。ここは敵の本拠地、増員ならいくらでもいる。
だが、呼ぶ為にはあの封鎖された扉を開かなければならない。あたし達にとっては脱出するチャンスにもなる。さて、どうするか。
あたしが考えた直後の事だった。いきなり空から轟音がして城が崩れた。
立ち込める砂煙。抜けるとバリアに包まれているあたし達は空の上にいた。
そのまま雲の上に下される。そこには神様がいて、あたしはバリアを解いた。
「驚いたぞ。お前達がこっちの世界に来ていたとはな」
「すぐに向こうの世界に送って欲しいんです。魔王があたし達の世界に行ってしまって……」
「状況は理解している。だが、わしの管轄ではない向こうの世界ではわしは天罰の力を使えん。手助けはしてやれんがそれでも行くか?」
あたしは雲の下を見下ろす。魔王の城は崩壊していた。これが神様のいう天罰の力なのだろう。
だが、こうした力が気楽に何度も使える物ではないことをあたしは理解しているつもりだ。
あたしは決意に頷いた。
「はい! この決着はあたし達が付けます!」
聖剣を掲げて誓う。天馬と美月も頷いた。神様は嬉しそうに微笑んだ。
「うむ、勇気ある若者達じゃ。時代はお前達のような者が作るのかもな。では、お前達の世界に向かうぞ」
神様が杖を振り上げてゲートを開く。そして、あたし達は元の世界に帰っていった。
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