第18話 作戦と計画
約束の時間が近づき、俺たちは駅に向かった。自転車で行けばすぐの距離。だけど、駅の近くに着いた俺たちは一旦離れる事にした。
「純、作戦は大丈夫そう?」
「大丈夫だよ」
そう言って、彼女は駅の自転車置き場に向かう。千佳は清水さんとうち解けた様子で、名前で呼ぶ様になった。
「優は、録音宜しくね」
「大丈夫、用意は出来ている」
清水さんが、元カレと会った所で俺にこっそり電話をする事になっている。その電話を録音しながら聞いて状況次第で乗り込む作戦だ。
「あのさ、千佳は元カレが犯人だと思うか?」
「純の早とちりな気もするけど。あの子、自信あったよね?」
「多分……確信している様には感じる」
「性格的に、何もなくあそこまで自信は無いと思うんだよねぇ」
「確かにな……でもまぁ清水さんは信じていいと思う……」
いい子とは言うつもりは無い。だけど俺は彼女は自分の意思がしっかりある子なのだと思う。
俺たちは少し離れた所で待つ事にした。千佳と2人、尿意の様な緊張した感覚に襲われる。
「優、どうしたの?」
「なんか、緊張してきたかも?」
「だね、なんかドキドキするよね!」
千佳は俺に笑顔を見せた。この位置からはまだ駅前の様子は見えない。駅前に行くには駐車場を挟んでいる。少し広いスペースにエスカレーターがあり、そこを上がると改札に着く。
待ち合わせはその広いスペース。最悪清水さんは走って逃げられるというのが、作戦の内容だ。
──約束の10分前、清水さんからの着信はまだない。まだ、相手から到着の連絡が来ていないのだろう。だけど、少しずつ心配になってくる。
「遅いね……もう10分前なのに……」
「多分次の電車で来るんだろう」
「本当に一人で来るのかな? やっぱりあたしのイメージだと、仲間を引き連れて来そうなんだけど……」
仲間というのは俺も頭にあった。
だからこそ、俺たちはスタンバイしているわけなのだけど、心配だ。
「あたしちょっと見てくる!」
「ちょっとまて、もう少しだけ待とう。待ち合わせまで10分ある……」
千佳は、そわそわしながら時間を見る。
「5分経って連絡来なかったたら行くからね!」
「わかった……」
余程きになるのだろう。駐車場の囲いが邪魔で中が見えないにも関わらず、視線を駐車場に向け何度も立ち上がった。
「ちょっと落ち着けよ」
俺は千佳の腕を引っ張り立ち上がるのを止める。
「だって……」
そう言ってしゃがみ、不服そうだ。
「ちょっと、いつまで掴んでるのよ?」
「あ……悪い……」
慌てて掴んでいた腕を離す。意識はしていなかったもののいざ突っ込まれると意識してしまう。
「でも不思議よねー」
「なにが?」
「あたしら、あの時あんたが純に声かけなかったら知り合ってないんだよ?」
一瞬、確かにと思ったがよくよく考えると違う。
「いや、お前とは普通にバイトで会うだろ?」
「そうだけど、純は?」
「純も、浅井さんと一緒に……会わないか」
「どうしたの?」
一瞬あの浅井さんと街で会った日に、普通に会うと思った。だけどそれは、俺が声を掛けたせいで清水さんが別れたからという事に気付いた。
「全部俺のせいだな……」
「だね……」
「だねって……相変わらず……」
「でも、仲良くなれたのはあんたのおかげ、純も別れて良かったかもしれないし、浅井ちゃんももっと大きな事故に巻き込まれてだかもしれない」
「そんな、有り得ないだろ?」
「でも、わかんないじゃん? 悪く考えるより、それで良かった。これからどうしようって考えた方が幸せじゃない?」
そう言った千佳の目は真剣だった。そうか……だからこんなに前向きで、お人好しなのだと思う。
「5分前、ちょっと見てくるね!」
そう言って、千佳は外を周り駅前を確認しに向かう。その離れていく後ろ姿が、なんとなく寂しかった。
千佳が見えなくなってすぐに電話が掛かってきた。もちろん清水さんからだ。俺は慌ててボタンを押し、声を殺して耳を当てる。
「……」
ポケットの中なのか、ガサガサという音しか聞こえない。目の前にいるのか、それとも見えたり、連絡が来た後だからなのかはわからない。
「なんだ一人で来たのか?」
しばらくして微かに男の声が入る。俺は慌てて録音ボタンを押す。
「カズアキなんでしょ?」
「おいおい、何の話だよ? 僕は復縁の話だとおもって来たんだよ?」
俺は犯人はコイツだと確信した。一人で来たのかを聞いた後にとぼけるのには違和感がありすぎる。
周りを見渡し、千佳を探す。
彼女は見える場所には居ない。
「復縁なんて、するわけないでしょ?」
「はぁ……あれだけニャンニャン近づいてきて、本性はこれだから……」
ある程度は予想がつく。なんせ彼女の事だ、誘惑するのに躊躇する事はないだろう。
「それでどうなの? 由紀を襲わせたのはかずあなんでしょ?」
「ああ……なるほど」
よし、少し不自然だが、作戦どおり。これでこいつが吐けば連絡してサヨナラだ。
「僕だとでも言うと思ったかい?」
「え? 違うの……?」
そうじゃない! 奴は気付いている。
俺は耳に当てたまま、彼女の元に走り出す。
「そんな事、するわけ無いじゃないか?」
「嘘、それじゃ脅して来たのは?」
「するのと脅すのは違うでしょ? それに僕は脅してなんかいない、ただお金に困っている君が、どうなっても知らないって言っただけだよ?」
「そんな……」
くそ、少し離れすぎたか。ようやく駅前が見えるくらいの場所に着く。
「でも、僕は寛大だ。今からでも、君が謝るなら復縁してもいいって言ってるのだよ?」
「嫌……」
「あー、ムカつくなぁ。そんな事を言う為に来たなんて……もういいや」
「なによ、その手……」
「君の事だ、録音でもしているんだろ?」
すると遠くに二人の姿が見える、スマートフォンを取り上げるつもりなのだろう。そして、彼女の「止めて!」と言う声が響くと、電話の音がクリアに聞こえた。
「ほらやっぱり……ん? 電話?」
ヤバい。気づかれた……。
ちょうど現場に着いた俺は叫んだ。
「なにやってんだよっ!」
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