第208話 さてと、これから式典へと向かいますか。
前回のあらすじ:水がどうにかなったので、式典を開くそうだ。
テシテシ、テシテシ、ポンポン。いつもの朝起こしでございます。帝都では大がかりな催し物の当日となっているけど、辺境(アイス個人が自称しているだけ。国内では裏の帝都と影では呼ばれている)の地の領主である私にはあまり関係がない。けど、侯爵という非常にありがた迷惑な爵位があるため、出席を余儀なくされており少々憂鬱ではあるけど仕方がない。
少々憂鬱なのはフロスト領内では私だけのようであり、領民達は喜んでいるとのこと。それに水を差すのはよろしくない、ということで致し方なく出席することにしている。その前に朝ご飯の用意をしないとね。
朝食の準備をしているところで、乱入者が現れた。それも6人。そのうち3人はお馴染みであるアンジェリカさん達戦姫の3人である。残りの3人はというと、ウルヴ、アイン、ラヒラスの3人だった。話を聞くと、どうやらいつも通り屋台で済ませようと思っていたらしいが、今日は非常に混み合っており、落ち着いて食べられる状況ではなかったらしい。ということでこちらに来たようだ。どうやら、戦姫も同じ考えだったようで、それならばと一緒に来た模様。
まぁ、いいんだけどね。材料はふんだんにあるので、今更6、7人くらい増えたところで問題はない。朝食ならそれほど手間もかからないし。
朝食も食べ終わり片付けも済んだところで、乱入した6人はそれぞれ私達にお礼を言って部屋を出た。6人ともそれぞれ準備があるのでのんびりしていられないのだ。まぁ、それについては私にも言えることなんだけどね。
私もさっさと準備を済ませたいのだけど、一応こういった場での準備については一人で勝手にやることはよろしくないらしく、着付けを担当する者達に手伝ってもらわなければならないそうだ。フロスト領では、基本的には自分のことは自分でやるため、そういった仕事をする者、あるいはそういう類いの役職を持つ者は存在しない。いるとしたら、アンジェリカさんくらいのものである。
それに、私は普段は貴族の格好となる衣装は着ておらず、領民、あるいは、そこらにいる冒険者と同じ格好でいるため、他国から来ている人達は私が領主であることに気付かない者も少なくない。もっとも、1週間以上ここに滞在している者達は理解しているみたいだ。まぁ、常にマーブル、ジェミニ、ライムという可愛さ極まりない猫(こ)達が一緒にいるのですぐにわかるようになるんだけどね。
マーブル達と軽く戯れていると、フェラー族長が部屋に入ってきた。
「ご主人、着付け担当の方達がいらっしゃいました。」
「フェラー族長、ありがとう。お通しして。」
やって来たのは着付け担当の者達だけど、その中にヴィエネッタが一緒にいた。着付け担当の者達はわざわざリトン公爵の指令で帝都からやってきた人達である。・・・ってか、ヴィエネッタってアラクネという魔物なんだけど、この人達怖くないのかな。
話を聞いてみたところ、最初は怖くて震えていたようだけど、ヴィエネッタの編んだ糸や布地に加え、作り上げた作品を見せていくと、恐怖よりも服に対する興味が大きく上回ってしまい、いつの間にか弟子入りまでお願いしてしまったほど。そういうこともあり、今では怖いどころか、できるだけ一緒に居て勉強したいとのこと。
「主、これが今日、主が着るものよ。サイズはバッチリ調整してあるから問題無いわ。それじゃあ、着付けの方よろしくね。」
「「ハイッ、お姉様!!」」
・・・そしてこの呼び方である。まぁ、下半身さえ見なければ、ヴィエネッタはかなりの美人であることは間違いないので、お姉様と呼ばれるのもそれほど不思議ではない、と思う。
着付け係の2人に服を着させてもらっている最中であるが、正直、違和感がありまくりである。普段こんなことはしない上、以前いた世界でも人に着させてもらうなんてことは一度もなかったからねぇ。
何も考えずに身を任せていると、着替えが完了したらしく、ヴィエネッタが鏡を出してくれたので確認してみると、前回作ってくれた服に比べると多少高級感が落ちた感じではあったが、着心地といい、動きやすさと良い段違いのものであった。それでいて、上級貴族の品としての感じを損なうことなく、まさに絶妙という言葉がピッタリの装いとなっていた。
胸元には、スライムのシルエットに猫とウサギの肉球が付いている、いつの間にかフロスト侯爵家の旗の印が描かれていた。もちろん、マーブルとジェミニとライムを表している。
着替えが終わると、マーブル達がこちらに走ってきたが、よく見ると、マーブルとジェミニの首にはスカーフのようなものが巻かれていた。ライムはいつものシスターのかぶり物である。マーブルとジェミニの巻かれたスカーフには私の服に付けられたお揃いの印がついていた。言うまでもなくライムのシスター帽のマークも私達とお揃いである。・・・控えめに言っても可愛すぎる。流石にこの格好でマーブル達の毛が付いてしまうと衣装担当の人達が後で大変なのでモフモフは我慢する。
着替えも終わったので、あとは帝都へと出発するだけだが、アマデウス教会から帝都へと転送移動するだけだから、移動にはそれほど時間はかからないので、時間に多少の余裕がある、ということで、領内はどうなっているのかを見て回った。
外に出ると、町中ではいつも以上に賑わっていた。領民はもちろんのこと、ウサギ族やコカトリス達も代表で帝都に行くメンバーはみんな見事に着飾っていた。
私達の姿にいち早く気付いたのは、フロスト領が誇るアイドル、クレオ君とパトラちゃんの2人だった。
「フロストさま-!!」
「フロストしゃまー!!」
2人は私目がけて飛びついて来た。2人とも帝都に参加するメンバーであり、それはそれは可愛いものであった。素材こそヴィエネッタの作った糸ではなくシルクスパイダーのものではあったが、それでもシルクスパイダー達が作った最高級の質の糸を惜しげも無く使った服とのこと。
普段以上に可愛かったので、撫でる時間もいつも以上となってしまった。2人は「えへへー」と嬉しそうにしていたが、私もマーブル達とは少し違ったモフモフを堪能出来て「えへへー」状態であった。
2人をモフッた後、領民達と軽く話をしながら領内を歩いて周ったが、行く先々でマーブル達がつかまってしまい、思ったほど歩き回れなかった。とはいえ、ほぼ全員向こうから来てくれたので、任務や仕事などで町にいない領民以外は全員と話すことはできたけどね。
良い時間になったので、マーブル達とアマデウス教会の転送室へと移動した。本来ならマーブルの転送魔法でもいいのだけど、転送装置で出欠を確認できるらしく、そのために今回は転送装置を使って欲しいと言われたからだ。
マーブル達と一緒に転送装置を使い帝都にあるフロスト侯爵邸へと到着した。私の個室という名目上の転送部屋を出ると、戦姫の3人と、ウルヴ、アイン、ラヒラスの3人、それにエーリッヒさんたちゴブリン族の人達、さらにはレオ達ウサギ族やコカトリス達もいた。
私とマーブル達3人、及び戦姫の3人は主賓扱いで、その他のメンバーはその護衛という扱いである。まだここに来ていない領民達は参加者ではあるけど、領民代表ということで一般席での参加らしい。しばらくしたら宮殿から馬車で迎えが来るのでそれを待っている状態とのこと。
ちなみに、アンジェリカさん達戦姫の3人は白を基調としたドレスを着ており、見事に似合っていた。それを見て私は確信した。私には性欲というものが無くなっていると。以前いた世界の状態での私であれば間違いなくその姿を目に焼き付けておいたりしたはずであるが、似合っている、キレイだ、以外の感情が浮かんでこなかったからだ。
護衛として来た他のメンバーはというと、黒を基調とした全身鎧を着ており、もちろんそれを率いるのは殿、じゃなかった、ウルヴである。ウルヴはエーリッヒさんを護衛大将に推したが、他のメンバーは全会一致でウルヴを推したため、多数決で決定。レオ達ウサギ族やコカトリスも首に黒のスカーフを巻いており、その辺りは抜かりなく色もお揃いにしてある。
ちなみに鎧についてだけど、いつものヒドラ皮の鎧ではあるけど、実はインナーとしてシルクスパイダーの素材で編んだものが使われており、防御面だけでなく通気性も確保されており、全身鎧であるにも関わらずそれほど暑くなく非常に快適であるというのが鎧を着た全員の意見だった。
それだけ貴重な素材を惜しげも無く使っている我が領の装備だけど、後日冒険者ギルド長に値段を聞いたところ、「フロスト領だから、加工賃だけで済んでいるけど、他国であれば、大国の一年の国家予算に匹敵するかそれ以上の値段がかかると思う」と顔を青くして言っていたのが印象的だった。地産地消っていいよね。
そんなこんなで宮殿からのお迎えの使者が到着したので、馬車に乗って宮殿へと向かうことにする。忘れているかもしれないけど、国別で見ると、トリトン帝国は世界でも最貧国の1つである。いくらフロスト領が栄えたとしても、今国家を豊かにしようとリトン公爵が頑張っていても、その事実は変わらない。
何が言いたいのかというと、国が貧しいので、使用する馬車、さらには馬車を引く馬の質、どれも宜しくない状態である。馬車といっても、よく言われる乗合馬車というものに毛が生えた程度のものなのである。どういうことかというと、屋根こそついているけど、周りはほぼむき出しなのである。
よく言えば、周りをしっかりと眺められる、悪く言えば、見られっぱなしなので非常に落ち着かない、ということだ。宮殿への道には人はいないけど、道に沿って人がびっしりと並んでおり、その人の多さは貧しいながらも流石は帝都と言わざるを得ない。とはいえ、それだけ多くの人達が見ているのは主にアンジェリカさん達戦姫、あるいはマーブル達であり、私はそのオマケ程度で見向きもされていない。
いや、正確には私に対しては見られているのではなく睨まれている、といったところか。それも男女関係なく。戦姫の3人と同じ馬車に乗っているということで。とはいえ、ぶっちゃけそんなことは慣れきっているので、ハイハイ、いつものこと、いつものこと、で流せるようになっている。
そんな視線を受けながら馬車は宮殿まで到着した。私が到着したことを聞いたカット子爵が出迎えてくれたので、馬車を降りて、カット子爵の案内で宮殿内にある噴水(でも今は水はない)前に到着。今回はお呼ばれしただけなので、執務室へ行ってお2人に挨拶しようとかそんな面倒なことはしない。大人しく一賓客としてこの場をやり過ごすだけである。
噴水前にはいくつかの貴族家がすでに待機していた。軽く挨拶を交わしたところで指定されていた場所でみんなで待機する。本来であればこういった場でも社交の場として他の貴族と交流するべきであろうが、生憎私は他の貴族と交流する気はこれっぽっちも存在しないので、フロスト領のみんなと軽く雑談をしたりしていた。
他の貴族達はこちらをチラチラ見ていた、主に戦姫の3人だけどね。その戦姫の3人はそういったものは一切なかったかのごとく見向きもしなかった。たまに近づこうとした強者も中にはいたけど、近寄ることはできなかった。というのも、レオ達高ランクの魔物がそいつらに向かって軽く殺気を放っていたためだ。
そうこうしているうちに、祝賀会は始まったようだ。最初、リトン公爵からことの経緯を話していた。最初に文献からこの地に水脈があることがわかり、その水脈は偶然見つかったダンジョンにあること。そして、帝国に所属している冒険者にその水脈を見つけるよう依頼、それに合わせて帝都に堀を作ってその水を行き渡らせるべく、帝都の領民が一丸となってその工事を行ったこと。
そして、帝都に行き渡るのを確認出来たら、今度は帝国中に行き渡らせるために工事を続けていき、やがてトリトン帝国中にその水を行き渡らせて国を開発していく予定であること、そしてその工事などで帝国民に仕事を与えて共に栄えていくつもりであることをここにいる貴族達に伝えていた。
それらを聞いていた貴族達のほとんどが体を震わせていた。中には涙をこぼしている者もいたようだ。というのも、私は立場的に先頭にいたため、後ろにいた貴族達の様子をうかがい知ることはできなかったからだ。
しばらくすると、床からゴゴゴゴという音と共にわずかではあったが地震のような揺れが起きてすぐさま水の吹き出し口であろう場所から大量の水が、そして噴水から水が出現した。その大量の水が流れている様子を見た者達、特に実際に工事の作業を行ったであろう者達が号泣した。そうだろう、苦労が報われたのだ。
しばらくして、外からも歓声が起こっていた。そう、水が帝都に行き渡り始めたのだ。完全に帝都に水が行き渡ったであろうそのとき、トリトン陛下から一瞬光が現れた。あ、これまたパワーアップしたな。そんなパワーアップした陛下を見たとき、陛下はニヤリとしながらも口の前に1本指を立てていた。ハイハイ、黙っていろ、そういうことですね。わかりましたよ。
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投稿が非常に遅れまして申し訳ありませんでした。
話は書いていたのですが、どうもまとまらず何回も書き直した結果の遅れです。
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