第180話 さてと、みんな大好きなあの食べ物を作ってみた。

前回のあらすじ:うちのペット達は今日も元気です。



 ルクレチ王国を目指して街道をひた走ること数日、予想はしていたけど、ここまで早いとは思わなかった。何が? というと、移動しているだけだから、やることが全く無いのです。最初こそはマーブル達と豆柴達、あるいはウサギ達が戯れているのを見て癒やされたりしていたけど、それ以外だと景色は変わらないし、肝心のマーブル達もただ走るだけでは物足りない、といった感じになってしまってきたのだ。


 というわけで、これより予定を変更することにした。いや、ルクレチ王国へと向かうのは変わらないけど、街道を進むのを止めて、森を移動することに変更したのだ。とはいえ、私とマーブル達だけで話したことなので、一応他のメンバーにも聞いてみることにしたところ、満場一致で賛成となったので、これより森の中へと移動した。


 森の中を移動するため、もちろん馬車は収納する。馬車がないため移動速度は落ちるけど、少なくともルクレチ王国もそうだけど、タンヌ王国もトリトン帝国も魔の森を囲うようにして国があるため、街道も森に沿うようにして敷かれているため、一直線に突っ切る形を取ってしまえば、徒歩とはいえほぼ予定通りにルクレチ王国へと到着する算段である。


 まあ、あくまでこれは予定なので、ある程度の遅延は起こるだろうけど、そもそも2ヶ月かけて移動する距離を1ヶ月で移動できる速度で進んでいたので、数日、いや、1、2週間遅れても別段問題はないし、問答無用で一直線に突っ切る予定なので、下手をするとむしろ予定より早くなる可能性だってあるのだ。


 もちろん森の中を移動するので、狩りや採集をしながらの移動は当然のことである。最悪間に合わなくてもいいやという気持ちがほんの少しあるのは内緒である。いや、招待を受けている戦姫がそんな気持ちでいるのだから、護衛という名のおまけとして来ている私達がどうこう言える立場ではないのだ。ということにしておこう。


 街道を離れて森の中へと入ったが、少し歩くと方向がわからなくなってしまったけど、そんな状態になってしまったのは私だけのようだ。何でだろうな? とか思っていると、アンジェリカさんがツッコミを入れてきた。


「それは、アイスさん、道順とかは放っておいて、最初に食べられるものを探そうとするからですわ。」


「ありゃ、そんな単純な理由だったんですか?」


「多分、そうだと思いますわ。」


 セイラさん、ルカさんだけでなくマーブル達も頷いていた。


「なるほど。みんながそう断定しているならそれが原因なんでしょうね。ということは、ほぼ治らないという裏返しでもありますかね、、、。」


 私がそう言うと、苦笑いされた感じがする。まあ、いいか。美味いものが食べたいのだ。とりあえず探しましょうかね。


 一応決めてあることだけど、進路上にあるものだけを採集、あるいは、進路上に現れた食べられる魔物のみを狩ることにしている。探して回るのも楽しいけど、たまにはこういった縛りを設けての狩り採集も楽しいものだ。制限されている分、それに集中することができるからである。それでも夢中になってしまい進路から外れる場合もあったが、その都度注意を受けてしまう自分がいた。方向音痴が更に酷くなっている気がするのだけど気のせいかな、気のせいだと思いたい、、、。


 基本的には採集は私達が見つけて、それを採取してから一緒にいるメンバーに特徴を伝えて、それを覚えたメンバーがそれらを探しながら進んでいく感じで一直線に道中を進んでいく。相変わらずマーブルは甘いものにしか興味がないようで、甘いものが見つからない場合は、魔物を狩ったりしている。気分転換にと、ジェミニやウサギ達、豆柴達も交代で魔物を狩ってはこちらに持ってきて上目遣いでこちらを見たりする。要は褒めろということだ。もちろん、こちらも喜んでナデナデモフモフをして労う。どっちが労われているかというのは突っ込まない方向で。


 そんなこんなで進むこと数日、いつものように転送ポイントを設置してもらい、フロストの町へと戻ってから、道中の食事用の仕込みやらをしようと戦利品を改めて確認すると、いつの間にかかなりの種類の植物が集まっていた。特に多かったのはスパイス系である。そのスパイス系の中でも、クミンとコリアンダーが多めにあったのは大きかった。他にもカルダモンや香りのよさげなスパイスも結構あった。ただ、ウコンことターメリックはなかったのは少し残念かな。とはいえ、大事なのはまずは味であるので、今回は色については気にしないでおこう。


 もうおわかりだと思うが、これから作るのは、ズバリ、カレーである。言うまでもなく一部は種の状態で畑に蒔いて育てるように伝えてあるが、伝えられた領民はというと、何でこんなものを? といった表情であった。しかし、出来上がりのこいつを見れば、間違いなく張り切って栽培してくれることだろう。あ、唐辛子はどうしようかな。そういえば、生姜以外でピリッとしたものってこの街にはなかったから、しかも生姜は生姜焼き一択みたいな感じだったしなぁ、、、。生姜で臭みを取る効果がある、といっても、ここで使われる食材って、基本的に臭みはないからあまり使われることはないのが現状である。まあいい、とりあえず作ってみますかね。


 材料は、と、クミン、コリアンダー、カルダモンに唐辛子は、おお、あったあった。割合をどうしようかな。とりあえず唐辛子は別にしておくのは忘れてはいけないね。配分はどうしようかな。ダメ元でアマさんに聞いてみますか。・・・ハイ、無理でした。アマさん、食べたことなかったのね、、、。そりゃ、食べたことないのに配分もクソもないよね、、、。ゴメン、アマさん。上手に出来たらお供えするから勘弁してください。


 で、他にはバターとかタマネギとか欲しいけど、あるかな、、、。あった、よし! っていつの間に? いや、バターは分かるけど、タマネギって、、、。まあ、深く考えてもしょうが無い。で、問題はお肉だけど、バターを使うから、鳥肉が欲しいところだけど、グレイトコッコの肉って在庫あったかな、、、。ありゃ、無いか、仕方ない。ここは贅沢に牛肉を使うことにしよう。でも、合うかな、いや、まずは試さないとね。ということで、グレイトマツサカ、君に決めた!!


 とりあえず材料が揃ったところで準備開始だ。まずはスパイスを粉にする作業から。クミンとコリアンダーとカルダモンはまとめて粉ひきの魔導具に投入。粉にして保存しておけばいつでもカレーが作れるってものだし、カレー味を付けるのには粉を投入するのが一番手っ取り早い。配分は、クミン2にその他1ずつにしておいた。気に入らなければ配分を変えれば良いだけだ。


 粉が完成したので、とりあえずフライパンに火を着けて乾燥させる+風味を付ける。香りが充満すると領民達のみならず、あの2人も乱入してくる恐れがあるため、マーブルに風魔法で香りが広がらないようにかなりの上空まで香りを飛ばしてもらう。


 ある程度火を入れて、乾燥したのを確認してから、パウダーは一旦取りだし、水術で少しフライパンを冷ましてからバターを投入。ある程度溶けてきたらタマネギを投入して炒める。もちろん、マーブル達にみじん切りにしてもらってあり、時短も兼ねて水術である程度水分は飛ばしてあるので、飴色になるのも5分くらいで完了する。


 タマネギが炒まったら、先程のカレーパウダーを投入してひたすら混ぜる。しっかり混ざったのを確認してから、グレイトマツサカのお肉を投入。馴染ませる+メイラードをつけるのが目的である。しっかりとメイラード出来たら、水を投入。水は水術で温度を変えずに冷たい状態で投入する。


 本来ならこの時点でカレーの匂いが周りに充満しているはずだけど、そこはマーブルの風魔法のおかげでほとんど匂いがない。本当は完全に匂いを出さないようにもできるんだけど、そうすると、調理している側としては加減がわからなくなるので、最低限である。


 ある程度煮込んで、とろみも少しついてきたところで、火を止めてそのままにしておく。今度は完全に匂いは出ないように細心の注意を払って、、、。


 ところで、この匂いを完全に出さないようにマーブルに頼んだとき、マーブル達は怪訝な顔をしていたのだけど、少し匂いをかぐと、私の言ったことが理解できたらしく、完全に協力してくれる感じになったのには笑えた。


 夕食までにはもう少し時間があるので、他にもいくつか作っておこう、ということで、今回作成するのはソーセージである。というのも今回の移動で、レッドボアというやや大きめのイノシシが狩れ、肉と腸が良い感じで獲れたし、試しにカレー味を付けてみようという考えに至ったからだ。


 カレー味のソーセージについては、腸詰めにしてから火を通すので、匂いは最低限で済みそうだ。予想通り良い感じで出来上がったので、明日以降が非常に楽しみである。美味しいといいけどね、、、。


 さて、念には念を入れて準備をし、無事完成したので、これから頂きますか! といきたかったのだけど、そうは問屋が卸さなかった、、、。まず最初に来たのは、アンジェリカさん達だった。


「アイスさん、匂いを出さないようにしていらしたみたいですが、甘いですわ。ワタクシ達の目は誤魔化されませんわよ! 日頃アイスさんを見ていれば、自ずと本日は新たなる美味しいものを作る顔をなさっているとはっきりわかりますからね。」


 くっ、迂闊だった、まさか顔の表情で察していたとは、、、。それだと匂いを消しただけでは誤魔化されないはずだ。とはいえ、今後、この対策ができるかといったら無理だな。まあ、量は存分に作ってあるから問題は無いにしても、まともに味見してなかったからなぁ、、、。


「くっ、バレてしまっては仕方がない。しかし、アンジェリカさん達は夕食はもう済ませたのでは?」


「ご心配には及びませんわ! 恐らく今日アイスさんが、何か新しいものを作ると察した時点で、まだ夕食は食べておりませんのよ!!」


「いや、そんなので得意げな顔をされても、、、。まだ試作の域を出ませんので、正直お口に合うかどうかはわかりませんが、それでもよろしいので?」


「問題ありませんわ! 試作ということは、これから改良していけばいいのです!」


 非常に力強く説得力がある言葉だけど、これ、食事に対しての発言だからね、、、。


 改めて戦姫の3人用に皿を用意して、麦飯を盛って、カレーをかけて3人の前にそれぞれ出す。


「ア、アイスさん? 何だか匂いが上に上がっておりますが気のせいですの?」


「ああ、それはですね。この食べ物って匂いが強いので、まだ試作段階で発表できなかったから、匂いが出ないようにマーブルに風魔法をかけてもらってあるんですよ。」


「ミャア!」


「なるほど。確かに匂いは感じませんでしたが、今、匂いを嗅いでみると、もの凄く食欲をそそる匂い、いえ、香り、と言った方が正しいですね。」


「そうなんですよ。量を用意できない今の段階で、思いっきり匂いをまき散らすと危険だと思ったんですよね。先程も言ったとおり、試作も試作の段階ですし。」


「そういうことでしたの。でも、ご安心ください。ワタクシ達は、アイスさんがマズいものを作るはずがないと確信しておりますから!!」


 アンジェリカさんがそう言うと、セイラさんやルカさんだけでなく、マーブル達も一緒に頷いていた。いや、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどね、確信がないから、不安なんだよね、今回はチキンカレー用のレシピで作ったけど、肉は思いっきりビーフだし、、、。


 気を取り直して、改めて食べようとしたら、奴らが来た、、、。いや、あのお方達といった方がいいのか。


「おう、侯爵! 何かコソコソと俺らに内緒で作っていたみたいだが、特に俺の目は誤魔化されねぇぜ!」


 はい、我らがトリトン陛下とリトン公爵夫妻です。本当にどうやってかぎつけてきたのやら、、、。アンジェリカさん達は、私の表情を察したということだからまだわかるよ。でもさ、陛下に関しては昨日の夕食以来顔を合わせてないんだけど、、、。昨日の夕食だから、カレーを作ろうなんて考えてもいなかったし、どうやってバレたんだ? はっ、もしかしてさっきアマさんに相談したときに密告された!?


「・・・侯爵、一応念を押しておくが、別にあいつから聞いたとか、そういうのではないぜ。」


「!? な、なぜそれを!?」


「侯爵、お前さん、そういうことに関しては顔に出やすいからわかるんだよ。ちなみに今回の件に関しては、カンだよ、カン。」


 ・・・恐るべし、、、。とはいえ、バレてしまったからには仕方がない、出すか、、、。


「一応、念を押しておきますけど、今回のは試作もいいところの状態ですから、仮に口に合わなかったとしても苦情は受け付けないのでそのつもりで。」


「侯爵が作るんだ、口に合わないものは出さねぇだろ。」


 はいはい、じゃあ、準備しますよ、、、。更に3人分のカレーを用意して提供する。ああ、自分たちの分が冷めてしまったよ、、、。私はいいけど、マーブル達には申し訳ないことしちゃったな。ゴメンね。


「さてと、じゃあ、改めて、材料となってくれた生き物たちに感謝して、頂きます!!」


「「「頂きます!!」」」


 食事前の挨拶で、夕食は始まった。意外に思うかもしれないけど、トリトン陛下も必ず「頂きます」を言ってから食事を食べ始める。リトン公爵夫妻も食べる前のこの言葉は絶対に欠かさない。そのせいもあってか、帝国内でも食べる前に「頂きます」と必ず言っているそうだ。これは非常にいいことだと思う。感謝の気持ちは忘れてはいけない。


 どれ、出来はどんなもんかな? と思いながらカレーをご飯ごと掬って口に入れる。ちなみに今回は唐辛子を一切いれていないので、辛さは全くなく、タマネギの甘みが完全に前面に出ている感じとなった。取り敢えずみんなの反応はどうかな?


「ミャア!!」


「アイスさん!! これ、凄く美味しいです!!」


「ボク、これだいすきー!!」


「アイスさん! これ、非常に美味しいですわ!!」


「うん、アイスさん、凄く美味しいよ!!」


「美味しいけど、少し刺激が欲しいかな、、、。」


「おう、そうだな! 凄く美味ぇが、少し香辛料が欲しいところだぜ!」


「私は、これでも十分上手いと思いますが。」


「わたくしもこのくらいが丁度いいですわね。」


 概ね好評だった。って、唐辛子出してないじゃん。


「辛みが欲しい方は、これを入れて混ぜてください。これは辛みが強いので、くれぐれも少しずつ入れてくださいね。」


 そう言って、私が手本で少し唐辛子を振りかけて、かき混ぜて食べてみる。おー、私はこのくらいが丁度いいかもしれないな。


 そう思っていると、みんな少しずつ入れては味を確かめていた。マーブルは甘いのが大好きとあって、何も入れないのが好みだったよう。ジェミニは私よりも辛いのが好みのようだ。ライムは私と同じくらいが好みのようだった。


 アンジェリカさんは何も入れない状態、セイラさんとルカさんは、結構入れた状態、陛下は少しいれた状態が気に入ったようだ。リトン公爵夫妻は先程の台詞とはうって変わって、多めに入れた状態が気に入ったらしい。


「侯爵、お前さん、何でこんな隠し球を今まで黙ってやがった?」


「隠し球も何も、昨日まで、材料が手に入らなかったんですから。一応、畑にこれらを育てる場所は確保してあります。」


「なるほど、フロスト侯爵、これは我が領でも育てることは可能かな?」


「うーん、正直、やってみないとわかりませんね。ただ、今手持ちはないので、採取してこないとなりませんが。」


「そうか。では、もし手に入れたら頼むぞ。我が領でも育てられるか確かめてみたい。」


「そうですね。美味く育てば、領内の発展にもつながりますしね。」


「そういうことだ。フロスト領だけでなく、国内全体で発展していきたいからなぁ。」


「では、見つかったら、お譲りしますよ。」


「是非とも頼む。もちろん代金は支払う。」


 リトン公爵が特に気に入ったようで、スパイスの種をおねだりされてしまった。とりあえず、初めてのカレーは大成功に終わったとみて良いだろう。陛下達にバレなければ。


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領民A「フロスト様が、また何か作ったらしいぞ!?」

領民B「でも、それらしい匂いは出ていないぞ?」

領民C「いや、陛下達が館に突入されたそうだ。」

領民達「じゃあ、間違いない!!」


そんな感じで、今日もフロスト領はのんびりとした暮らしです。

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