第170話 さてと、面倒事って続くんですねぇ。

前回のあらすじ:龍族を餌付けした、という結果になってしまった。



 グレイル達が住んでいる集落の龍族達も度々フロストの町へと来るようになり、我が領民達はもちろん、冒険者達にも馴染んできた頃、面倒な報告が相次いで来ていた。


 1つ目はガブリエルから。アバロン帝国から懲りずに使者がこちらに向かって来ているとのこと。前回同様にコーメ達かと思ったら違った。ということは、また身の程知らずに居丈高な口上でこちらに協力をさせようと画策してるんだろうな。そんなことに貴重な金使うんだったら、軍備やら住民のために使った方が効果的だと思うんだけど、そうは思わないんだろうな。しかも、サムタン公国なんて仮に攻め取ったとしても、あんな土地は有効活用もできないだろうに、どう考えても赤字です、本当にありがとうございました。


 で、今回の使者なんだけど、コーメ伯爵ではないのは、彼、いや、彼と一緒に付き従っていた3人も含めて罷免されたらしい。あの程度で罷免とか訳分かんねぇ、、、。当人達も喜んで受け入れていたそうな、そっちも全くもって意味分からん、、、。で、晴れて追放処分になったそうで、家族を連れてこちらに来たいそうで、許可が欲しいという言伝も頂いたそう。


 その件について陛下とリトン公爵に話したところ、別に問題ないという返事が来たので受け入れることに。リトン公爵は非常に嬉しそうにしていた。「ああ、これで仕事が減らせて家族と過ごせる時間が増える。」とか言っていたけど、その隣で陛下が黒い笑みを浮かべていたので、恐らくその願いは叶わないだろうと心の中で「ご愁傷様。」と思わず呟いてしまった。マーブル達もリトン公爵に対して憐憫の眼差しを向けていたので、私の勘違いではないだろう。


 2つ目は、グレイルが従属に近い形でフロスト領と協定を結んだことによって、他の集落に住む龍族の連中が激高したらしく、一部がこちらに攻めてくるかもという報告だった。その報告をした当人であるグレイルが非常に申し訳なさそうな態度で伝えてきた。何でも、「至高の存在であるドラゴンが、人間ごときに頭を下げるなどあり得ない!! エンシェントドラゴンとしての誇りはどこに行ってしまったのか!!」というものらしく、龍族の集落から相次いで届いたらしい。


 もっとも、グレイル達の住んでいる集落では、フロスト領と直に交流があるので、「こちらの決定に文句があるなら好きにしたら。」というスタンスらしく、ドラゴン族に協力する者は全くいないらしい。むしろ、こちらに攻めてきたら、フロスト領側に立って迎え撃つ! とまで言ってきた。流石に後々面倒なことが起こりそうなので、気持ちだけは頂いておいた。ただ、それだと申し訳が立たないので、せめて攻めてくる側の情報だけでも提供させてくれ、とのことだったので、こちらについては喜んで受け入れることにした。


 一応友好関係ではあるので、不思議に思っていると、彼らもドラゴンの肉の味が気になってしょうがないらしく、お裾分けを狙ってのことらしい。以前話したが、同じ集落の者でない限り、同じドラゴン種とはいえ、別物だから共食いにはあたらない、と強調されてしまい、こちらとしては、はい、そうですか。としか言えなかった。


 どちらの報告にしても、面倒なことには変わりなかったので、急遽首脳会議を開くことになった。参加者については、トリトン陛下、リトン公爵、私とマーブル達、フェラー族長とカムドさん、ウルヴとアインとラヒラス、それに念のためということでタンヌ王国側としてアンジェリカさん達戦姫の3人といった顔ぶれである。会場? もちろんアマデウス教会ですよ? フロスト城? 未だに訓練場と酒蔵しか完成してない状態ですが何か? 他は少しずつ建築は進んでいますが、完成の目処は立っておりませんね。しかも、今の時点でトリトン帝国の宮城よりも大きくなってるんですが、それこそ意味が分かりません。城壁とか作ってないから広がり放題広がってますよ、、、。こいつら、完成させる気あるのか? 桜田何とかじゃないんだぞ、、、。


 主に話し合われたのは、ドラゴンの襲撃に関してのものだった。アバロン帝国の使者が来ることについてはそれほど話し合われることはなかった。


「んあ? アバロン帝国? どうせ、サムタン公国を攻めるからその尖兵になれとか下らない内容だろう?」


「あるいは、懲りずにフロスト侯爵に取り入って、こちらの内部をかき回そうとする、といったところですかね?」


「まあ、そんなところだろうな。あっちはこちらを何も無い未開の地と思っているから、大したことのない素材を得意げに見せびらかしてくるのが精々だろうな。」


「でしょうな。コーメ元伯爵からの報告を聞かずに、自分なら上手くやれる! とか思っているでしょうな。ガブリエルからの報告ですと、フロスト領の調査依頼をなかなか受けてもらえず、情報がほとんどあちらに届いていないようですから。」


「ん? それって、あちらさんの情報収集をやったりする機関が何もしていなかったりするのか?」


「らしいですな。特に我らの国みたいな辺境扱いを受けている国々に対しては、暗殺者ギルドを始めとした非合法なギルドを使って情報を得ていたようです。」


「なるほどな。で、うちには、マーブル達がいる、ということだな?」


「そういうことです。マーブルちゃん達だけではなく、野ウサギ族はもちろん、コカトリスまでおりますからな。その上で、ガブリエル達元暗殺者ギルドのメンバーが増えた今、好きこのんでこちらに来る者なっておりませんな。まあ、もっとも、ここまで防諜できているのはフロスト領だけですけどね。」


「まあ、帝都もそうだけど、帝国に関しては、他の領については防諜する意味もあまりないけどな。」


「まあ、それについては追々、というところでしょう。」


「ということで、この件については放置でいいな。」


「ええ、それでよろしいでしょう。コーメ殿達が来たら適当に出迎える程度でよろしいかと。」


「そうだな。じゃあ、次はドラゴンの襲撃についてだが。」


 何か、陛下と公爵の2人だけで完結してしまった。折角参加してくれた戦姫に対しては?


「アイスさん、タンヌ王国側でも、似たり寄ったりの対応ですから、問題ないですわ。」


「あ、ハイ。」


 タンヌ王国側でも「聞く必要はない、どうせ大したことは言っていない。」というスタンスのようだ。リトン公爵が話を続ける。


「グレイルからの報告ですと、今回の主力となるのは飛龍族という話です。」


「飛龍族? ということは、ワイバーンとかスカイドラゴンか?」


「そうですな。あとは風龍といったところでしょうか。」


「なるほど。じゃあ、いつも通りでいいですね。」


「ミャア!」「賛成です!」「やるぞー!」


 私のいつも通り、という言葉にマーブル達は反応したが、それに待ったをかけた人物が。他ならぬトリトン陛下である。


「あー、済まねぇが、侯爵達は補助か、グレイルクラスの取り巻きクラスの奴らが出てくるまで控えてくれねぇか?」


「ん? それは構いませんが、一応理由を伺いますが?」


「ああ、簡単な話だ。ここにいる領民達もそうだが、他の者達にも戦う機会を与えてやって欲しいんだ。」


「他の者達? ということは、陛下と一緒に来ている近衛兵とかですか?」


「ああ、帝都は元より、リトン宰相のところからも精鋭を連れてここで訓練しているんだが、ここで訓練した兵達がどこまで強くなったのか確認する、という意味もあるんだよ。」


「なるほど。」


 確かに、自分がどれだけ強くなったかを確認したい気持ちはよくわかる。襲撃してくる数にもよるけど、領民達も思いっきり暴れたいだろうしね。陛下の意見を付け加えるようにリトン公爵が話す。


「それだけではないぞ、フロスト侯爵。魔法に関しても、今まで以上に成長しているからな。ここにいるマーブルちゃんのおかげでな。」


 マーブルを見ると、「ニャ!」と得意げな顔をしていた。非常に可愛らしくて、思わず目尻が下がる。


「なるほど。マーブルの指導か。それなら納得だけど、それだと魔法部隊って限られてくるのでは?」


「心配には及ばない。ユミール殿が通訳してくれておるし、セイラ嬢やルカ嬢も指導してくれたからな。領民達でも魔法を使える者が増えており、種類も多種多様だぞ。」


「なるほど。すばらしい講師がついたのなら納得です。流石にアンジェリカさんの魔法は無理でしたか。」


「ああ、雷属性は誰もできなかったよ、ハハ。」


「ワタクシとしたら、雷以外が使える皆様の方が羨ましいですわ。出力も抑えられませんし、、、。」


 なるほど、アンジェリカさんはアンジェリカさんでみんなが羨ましかったんだね。ああ、魔法が使えない仲間がどんどん減っていく、、、。数少ない仲間であろうファーラビット達やベリーラビット達を思っていると、追い打ちをかけるような発言が。


「あ、そうそう、野ウサギ族だけでなく、他のウサギ達も魔法を開眼したぞ、嬉しいか侯爵?」


 な、ん、だ、と!? では、魔法を使えない領民は私だけに!?


「何言ってんだ、侯爵? お前さん、魔法を使えない代わりに水術っていうエグいものがあんじゃねえか。」


 そう陛下が言うと、周りのメンバーもウンウン頷いていた、、、。何? マーブル達もだと!?


 冗談ではなく本気で落ち込んでいた私に、マーブル達が体をこすりつけた。ああ、モフモフだ、、、。


 しばらくモフモフを堪能して復活し、話し合いの続きをした。


「とりあえず、その件は承知しましたが、どんな編成で行く予定ですか?」


「そうだな。急ごしらえのメンバーで編成してしまうと、逆に足を引っ張りかねないからな。フロスト領など各領地の人間で固めた方がよさそうだな。」


「ですね。メンバー編成はそれでいいとして、細かい作戦内容はこちらに任せてもらえますか?」


「ああ、それは侯爵に任せる。」


「了解しました。では、カムドさん、エーリッヒさん達に詳細を伝えて戦術を決めて下さい。」


「承知しました。エーリッヒ達に伝えておきます。」


「ん? エーリッヒというとゴブリン族か。侯爵が躊躇いもなく丸投げするって、それだけ凄いのか?」


「はい、彼らは今でこそ、我が領が誇る精鋭といえますが、以前は他のゴブリン達と同等かそれ以下の強さでしかありませんでしたが、その状態でも他のゴブリンやオークなどを殲滅してきましたから。」


 それを聞いたカムドさん以外のメンバーは驚きを隠せず唖然とした。自分で言ってみて改めて感じたけど、流石は以前いた世界でその名前を轟かせていた3人だと思った。マーシィさんに鍛えられるまでは、彼らは普通のゴブリンより少し弱い存在だったにもかかわらず、自分たちの集落を守り切っていたのだ。カムドさんの指導力もあるんだろうけど、やはりあの3人の存在はそれだけ大きいのがよくわかる。


「し、しかし、今回はその作戦能力を知る良い機会になるでしょうな!」


 気を取り直したリトン公爵がそういった。


「ワタクシ達はある程度はこの身で知っておりますが、これだけの規模となると楽しみですわね。」


「ええ、楽しみにして下さい。けど、彼らの本領はさらに大規模な戦で特に発揮されますから。」


 カムドさんは頷いていたけど、他の人達はそれを聞いてさらに驚いた。私は彼らがどういう人物か知っているけど、他の人から見たらゴブリンだからねぇ。後は、グレイル達から詳細な情報をもらって実際の作戦を立ててもらうだけかな。


 その後は、細かい部隊編成や現段階での大まかな配置を決めた。今回の肝は戦闘員ではなく、補助要員である。補助要員は回復やバフ、デバフなどをしてもらう。具体的にはセイラさんやユミールさんを中心に構成されることになった。その中にはアインもいたけど、考えてみたら、アインは神官だから回復魔法とか使えるんだよな。すっかり忘れてたけど。


 今話せるのはこのくらいかな。後は、どの位の規模で攻めてくるのか、配置や作戦はどうなるのかは相手次第となるから、今できるのは連携の訓練が主になりそうだ。とはいえ、私はいつも通りに過ごすだけなんだけどね。みんな怪我はしても、死んだりしないように気をつけて欲しいかな。任務も大事だけど、自分の命を大切にすることを優先してもらおう。カムドさんも、あの3人もそれはわかっているだろうけど、念押ししておかないと。


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トリトン陛下「宰相、この戦闘に参加する目的はそれだけじゃないだろう?」

リトン宰相「ええ、もちろんですよ、陛下。」

トリトン陛下「だよな。やはり自分たちで肉は獲得したいよな!」

リトン宰相「もちろんですとも! と、兵士達は言っておりましてね。」

トリトン陛下「まあ、侯爵じゃあるまいし、俺たちが前線に出るわけにはいかないからなぁ。」

リトン宰相「当然です。そもそも私にはドラゴン倒せませんし。」

トリトン陛下「俺は問題なく倒せるんだが、、、。」

リトン宰相「あ、それについては、陛下は素材ごと潰すだろうからダメと侯爵が言ってましたよ。」

トリトン陛下「俺がダメな理由って、そっちかよ!!」

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