第142話 さてと、魔導具用の材料を調達しますか。
前回のあらすじ:うどん、美味しかった。
最近、我が領では空前のうどんブームとなっていた。原因となったのはもちろん、戦姫の3人が直接うどんづくりの指導をしているためだ。戦姫の3人は男どもは言うまでもなく、老若男女、種族関係なく好かれている。ぶっちゃけ、領主である私よりも人気及び人望があるのだ。普通の領主であれば、その名声などに嫉妬するのであろうが、私は全く気にしない。正直、領主なんて仕事は、やりたい人にやらせて、私自身はマーブル達と一緒にいろんな所に行きたいのだ。・・・誰も行かせてくれないけど、、、。
戦姫は自分たちでうどんを作って以来、進んで自分たちで作るほどのめり込んでおり、それを見ていた領民達が是非にと指導を仰ぐ始末。領民達も、最初はアンジェリカさん達目当てに教えてもらってはデレデレしていたが、いざ自分達で作ってみて、その味にはまってしまい、食べ方についても自分たちの用意できる範囲で見事にアレンジされており、領内でもうどんの屋台が出始めるようになった。
領民達がうどんの方に気が向いているおかげか、私の場合は、現在作成途中のビールの開発を心置きなく進めることができているのは正直ありがたい。とはいえ、領民達の中でも例外というモノは存在する。そう、何よりも酒を優先させることでも有名なあの種族達であった。
彼らは、戦姫の指導+新しい料理というものでも、そちらに気を向けることなくこちらのビールの方が気になっている様子。チッ、集中できないじゃないか、、、。
「ご領主、今、舌打ちみたいなものが聞こえたけど、気のせいかのう。」
「気のせいですよ、ガンツさん。最近ほぼ毎日こちらの様子を伺っておりますけど、まだ完成までかかりますから、こちらに来ても意味ないですよ、、、。」
「な、何だと!? ハチミツ酒はあんなにアッサリと完成しているのに、こちらはまだじゃと!?」
「ですね。発酵がまだ完了してないんですよ。いかんせん、まだ本当の意味で最初ですから、発酵してくれる成分の量が少ないんですよね。あと何回か作って少しずつ数を集めていけば、結構アッサリと作れるんですけどね。」
「うぬう、なるほどのう。そういうことであれば、ワシも手伝いようがないのか、、、。」
「お気持ちはありがたいですが、そういうことです。」
「待つしかないのはわかった。が、ワシらが手伝えることがあれば、遠慮なく言ってくだされよ。ワシだけでなく、ロックやボーラも同じ気持ちじゃからのう。」
そう言って、この場を去って行く。ちなみに、このやりとりは今日だけでなく、ほぼ毎日行われており、今日はガンツさんだったけど、日によっては、ロックさんやボーラさんが来たりする。けど、話す内容はほぼ変わらない。ちなみに、心の中の舌打ちもセットである。
こうして、多少の妨害は入りつつも、戦姫がうどんを広めてくれたおかげもあって、何とか最低限の完成にこぎつけることができた。とはいえ、この最低限の完成は「若ビール」と呼ばれる状態のモノで、試しに少しくみ出してみたものの、香りもよろしくない。味については言うに及ばずである。以前いた世界では、自分から飲むことはほとんどなかったし、正直苦いので好きではなかったが、それでも1度くらいは美味いと感じたことはあったけど、この状態のビールは正直飲み物と言える代物ではなかった。
ということで、しばらく放置する必要がある。また、常温発酵と低温発酵では、どちらも飲めない状態のものとはいえ、結構違いが生じていた。常温発酵で作ったやつは、まだマシな状態だった。ということで、こちらの方が熟成期間は短くていいだろう。また、乾燥させたスガープラントの葉を入れたやつと入れてないやつでの味の違いは現時点ではわからなかったので、これらは熟成が終わったら考えるとしますか。
どちらにせよ、これで目処は立ったと思うので、後はこれを領民達で作れるようにするための準備をしていく。どうせ、完成したら、これらは馬鹿みたいに消費されるだろうから、今のうちに少しずつ作っていかないと厳しいだろうから。というわけで、ラヒラスを呼び出した。
「アイス様、何か用事? 俺、うどん作りで忙しいんだけど、、、。」
「もちろん用があるから呼んだんだよ。実は、ビール造り、ある程度の目処が立ったから、これからラヒラスに道具を作ってもらおうと思ってね。」
「あー、ビールかぁ、、、。それなら作らざるを得ないか、、、。わかったよ。でも、俺が手がけられるのは魔導具の部分だけだからね、あとは職人達と相談かな。」
「了解。じゃあ、職人さん達と、どう作っていくかはそっちで相談して。」
「わかったよ。そっちは任せといて。」
ビール作成用の魔道具ということで、断れなかったラヒラス。そうだよね、自分たちも飲みたいだろうからね。まあ、仮に断っても作らせるけどね。私に作らせようとした罰だ。せいぜいこき使ってやるからな。
作成するのに使った道具や手順などを話して、細かい内容を詰めていく。いろいろと話し合って、大きさや素材なども含めて決まったことだけど、どちらにしろ、予定していた酒蔵だけど、どう見積もってもスペースが足りないので、拡張することになった。
魔道具の数だけど、一応予定としては、作成開始から完成までの日数の分を作ることが決まった。具体的には、常温発酵のビールは2週間くらいで完成しそうな感じなので、予備なども考えて20基、低温発酵のビールについては、その倍くらいかかりそうなので40基、ということになった。
もちろん、いきなりそんなにたくさんは作れないので、1日1基ないし2基ずつということになった。また、言うまでもなく材料はどうするのか? という問題もあるけれど、ほとんどは領内にあるもので問題ないそうだけど、どうしても魔物の素材などが必要とのことなので、その素材については私が調達してくることになった。というか、龍素材となってしまうので、調達できるのが私達だけだというのもあった。
私が調達しなければならない龍素材については、あのダンジョンが一番手っ取り早い! ということで、マーブル達に話を持っていくと、マーブル達は大喜びだった。ただ、ジェミニが、「そういったことは、戦姫のみなさんにも一声かけた方がいいと思うです。」と言ったので、私は何で? と思いながらも、戦姫のところに話をしにいった。
現在、戦姫の3人はうどん作成の指導で引っ張りだこの状態であり、正直この話に乗ってくれるかどうかはわからなかった。丁度、うどんを茹でている状態で一息ついている感じだったので、これから龍素材を求めてダンジョンへと向かう話をした。
「くっ、これからダンジョンですか? ワタクシ達も正直お伴したい気持ちが強いのですが、領民のみなさんにこのうどんの素晴らしさを伝えないと、、、。」
予想通り断ってくると思っていたけど、何か様子が変だな。
「アイスさん、龍素材と仰いましたね? ということは、フロスト領にあるもう1つのダンジョンへと向かわれるということで、間違いありませんね?」
「そうですね。龍素材を手に入れるにはあのダンジョンが一番確実ですからね。というか、領内にポンポンドラゴンが出てくるのは、それはそれで問題があると思いますけどね。」
「本音ですと、ワタクシ達もご一緒したいのですが、残念ながら、まだワタクシ達ではその階層へは行けないはずですわよね?」
「あ、そういえばそうでしたね。すっかり頭から抜け落ちてましたよ。アンジェリカさん達なら、あの階層でも問題なく戦えるから、行ける行けないについてはすっかり忘れてましたね。」
「それと、今回は探索が目的ではありませんよね?」
「そうですね、龍素材の調達が目的ですから、じっくりと探索という感じではないです。」
「なるほど、わかりました。ということで、アイスさん!」
いきなりアンジェリカさんが強い口調で迫ってきた。近い、近い!!
「アイスさんのお酒造り、そしてワタクシ達のうどんの指導、これらが一段落付いたら、ワタクシ達をそのダンジョンへとご案内いただけますかしら?」
言葉自体はいつも通りであったが、トーンが低い感じだった。ヤバい、これ、断ったらアカンやつや。
「え、ええ、もちろん、ご案内差し上げる所存です、ハイ。」
怖くなって思わず口調までおかしくなってしまったぞ、、、。
「わかりました。そういうことですので、今回は我慢しますが、お約束を違えましたときには、アイスさん、わかりますわよね、、、。」
「は、はい、十分理解しております。ただ、、、。」
「ただ?」
「本人はその気であっても、周りの妨害によって、その約束を違えざるを得ない場合が無きにしも非ずかと、、、。」
「周りの妨害? ああ、なるほど。平たく申しますと、トリトン陛下とそのご一行様が、そういった類いのことをしてくる、と、そういうことですわね? そちらは大丈夫ですわ。ワタクシがトリトン陛下とリトン宰相にきっちりと話をつけますのでご安心を。」
半ば脅迫に近い感じで、ダンジョンの案内をすることになってしまった感が強いけど、アンジェリカさん達で陛下の無茶ぶりを抑えてくれるのであれば、こちらとしては正直ありがたい。ここ最近、領民達のためとはいえ、マーブル達と楽しくお出かけができなかったのだ。あまりにもこういった状況が続くようでは、領主や貴族の位を捨てて、出奔ということも考えていた。そうなっても、陛下やリトン公爵はフロスト領の状況を理解しているし、待ちの運営はフェラー族長やカムドさんに任せれば問題ないし、そのような状況ができつつあるので、いつでもこちらは辞められるのだ。
「まあ、そうは言っても、アイスさんもそろそろ限界のはずですから、恐らくトリトン陛下やリトン宰相はこれ以上の無茶ぶりはしてこないと思いますわ。」
流石はアンジェリカさんだ。しっかりとこっちの精神状態も把握してやがる、、、。
「ということで、今回は我慢致しますが、一区切りついたら、ご案内いただきますわ。」
念を押されて、この場を後にする。何かマーブル達がジト目でこちらを見ているが、一体何があったのだろうか、、、。まあ、いいか。
「よし、それでは、これからダンジョンへと向かいましょう!」
「ニャー!」「了解です!」「いくぞー!」
マーブル達も久しぶりのダンジョンで元気いっぱいだ。さて、張り切って参りましょうか。
ということで、ダンジョンへと転移して、ダンマスの部屋へと到着。軽く挨拶をしてダンマスの部屋を去る。今回の目的は龍素材の調達であるため、目的の階層は地下4階か5階がいいだろう。折角だから両方行きますか、ということで、まずは地下4階へと降りる。ここは通路が長いため、水術で路面を凍らせるいつもの加速移動でさっさと魔物達の待ち受ける部屋へと移動しては、蹴散らして回った。
思った以上にあっさりと殲滅して、地下5階へと移動。この階層は強敵揃いではあるが、普通に倒せる程度の強さでしかないので、無理に瞬殺しようとしなければ問題ない。ただ、問題があったのは、魔石しか落とさない魔物ばかりで、龍素材をそのまま落とすタイプの魔物が出現してくれずに、踏破してしまったことだ。
それでも、久しぶりの戦闘で、マーブル達は張り切っていたので、再び地下4階へと階層移動して、魔物達を倒していく。再び地下5階へと降りて、魔物達を倒していき、ようやく手に入ったと思ったら、その後は馬鹿みたいに同じ魔物が現れて、馬鹿みたいに素材を手に入れることができた。といっても、正直どの部位を使うかなんて知らないから、丸ごと収納して持っていくだけなんだけど。
無事に素材を手に入れてフロストの町へと戻り、ラヒラスに素材を渡そうと、手に入れたドラゴンをとりあえず丸々1頭出す。
「・・・こんなドラゴン見たことないんだけど。欲しい素材は問題なくあるみたい。ってか、アイス様、あんたおかしいよ! 何で近場で狩り採集するようなノリで、こんなやばそうなもの手に入れてくるの?」
「いや、普通に倒せる魔物だし、別に良いじゃん。マーブルやジェミニ、ライムも頑張って倒したからね。」
「ちょっと待って。マーブル君達も頑張って倒したって、、、。それで、アイス様、一体どれほど手に入れたの?」
「ちょっと待ってね。ええと、私が6体、マーブルとジェミニがそれぞれ4体ずつか、ライムは1体か。」
「は? 何? こんな化け物が15体収納してあるってこと?」
「そうだよ。それにしても、ライムもついに自分だけで倒せるようになったよね、おめでとう!!」
「ミャア!!」
「ライム、お見事です!!」
「わーい! みんなにほめられたー!!」
ライムがその場で16連打のごとくピョンピョン飛び跳ね、その周りをマーブルとジェミニが廻っている。いやあ、眼福ですなあ。
「あのさあ、そこ、ほのぼのしている場面じゃないからね、、、。」
「で、全部で15体しか狩ってないけど、それで足りる?」
「何言ってるんだよ!! 1体でも十分お釣りが来るんだよ! ってか、こんなバケモン当たり前のように狩ってくるなーー!!」
珍しくラヒラスの叫び声が周りに響いていた。
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ゴブリンの職人A「ラヒラスさん、来たよ。ってどうした?」
ラヒラス「あ、来てくれましたか。いや、ドラゴンの素材をお願いしたのですが、こんなヤバいのを調達してくるとは思わなくてね、、、。」
ゴブリンの職人B「このレベルのドラゴンということは、アイスさん達だね。」
ラヒラス「わかるの?」
ゴブリンの職人達「「アイスさんだからねぇ、、、。」」
ラヒラス「見ただけでわかるんかい、、、。」
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