第130話 さてと、さっさと公都へ向かいますか。

前回のあらすじ:酒をねだられました。



 ついにここまでになってしまったか、、、。いや、酒については作ってくれと要望が出ていたのは何度も耳にしていたし、直接訴えてきた者もそりゃあ、もちろんいた。けど、ここまで切羽詰まって訴えてきたのは初めてであるし、恐らく領民達も下手に自分たちが訴えるよりも、ドワーフ族に訴えてもらう方が切実に伝わると思ったのだろう。


 ってか、そこまで酒って執着するもんなのか? 生前については、私は酒類はほとんど口にせず、精々初詣で頂いた御神酒、あるいは家族での新年の挨拶で飲む程度であった。しかもお猪口1杯。そんな私に酒を造れと言われて、はい、早速作りましょう、とはなるわけがない。ハッキリ言って興味が全くわかなかったことが大きい。生前は酒のせいでえらく迷惑を被った経験のある私としては、正直勘弁して欲しいという思いが強かったというのもある。しかし、領民達がそこまで強く望んでいるとは夢にも思わなかった。


 ということで、酒造りを始めようと思うが、正直作り方がサッパリ分からない。一応作れそうなものは、あるにはあるのだけど確証がない。とはいえ、先ずは何かやってみないとなあ、、、。とりあえず考えているのは、この領地で生産しているもので作れるもの、である。この領地で獲れるものといえば、大麦である。


 我が領の大麦は、作付面積こそ大きくないものの、早くて1週間、遅くても2週間で収穫が可能であり、且つ連作もできる、というか連作しないと味が落ちてしまうくらい続けて植え続けなければならないチート作物であり、現在は我が領の稲の代わりとして押し麦が食べられているが、正直言うと、少しあまり気味になっているのは否めない。


 その大麦から作るものといえば、ずばりエールである。ビールとなるとホップという植物が必要らしいけど、生憎私はそれを見たことがない。ホップは苦みと保存性を高める効果があるそうだが、どちらにしろ領内でしか消費させる気はないので、それは大丈夫だろう。あとは気に入ってくれるかどうかだけどね。


 もう一つはミードというハチミツ酒である。ミードはハチミツと水を混ぜて発酵させて完成するものらしいが、我が領にはハチミツも水も自分たちで用意できる。しかも、他の領では手に入ることのほとんどない超高級品のものを。


 ということで、作るのはまずこの2種類から始めようかと思っている。どちらにしろ詳しい知識があるわけではないので、やってみないことには始まらないのだ。


 では、方針が決まったところで、今日の行軍を再開しますかね。ちなみに、今日はいつものメンバーに加えて、帝都からの使者が1人一緒に来ることになった。というのも、この使者は先日我が領で起きたモンスタートレインに対する詰問の使者であり、本来なら私が向かうつもりであったけど、たかだた公国へと詰問の使者を送るのに、侯爵なんて大物は出す必要はない、という皇帝陛下の意向でこちらに来た人物である。


 彼の名は、カット・カット男爵。代々剣の腕前のみで帝国に仕えている、典型的な帝国貴族であるが、正直言うと、うちの親父より頼りになりそうなんですが、、、。なんでこんな人が領土を持たない貴族で、ウチの親父みたいな人物が領土持ちなのかさっぱり理解できない、というのが正直な感想だ。


 で、今回何故選ばれたのかというと、この詰問の使者を選ぶにあたり、使者を決めるリーグ戦があったらしい。使者+我が領での食事へとご招待ということだったらしい、、、。最近覚醒なさった皇帝陛下自らお選びになる使者という誉れも大きいのだけど、それ以上に我が領の食事会というのが大きかったらしい、、、。使者は1人だけだというのに応募者が300名という始末、、、。ってか、何で1人しか選ばないんだよ、もっと人数出せよな、、、。


 一応方針としては、相手を徹底的に下に見るため、一応貴族、しかも身分は低め。いや、それはいいんだけど、貴族でないものが選ばれたら? と思ったら、そうなった場合は名誉貴族として使者となる予定だったそうだ。身分はともかく、強い人限定なのね、、、。


 このカット男爵という人物は、強者オーラがそこそこ出ているが、かといって傲慢ではなく、こちらの身分がかなり高くても卑屈になることなく接してくる。こういう好人物が帝国にまだいるのが驚きであった。


「最近、よく耳にします、フロスト侯爵とご一緒できるのは光栄です。」


「最近、よく耳にする、ですか。それって碌な話ではないですよね?」


「いえ、そんなことはありません。何せ、スタンピードや先日のモンスタートレインなどの活躍に加え、新たな魔物の素材や汚職にまみれた3ば、いえ、3大臣を罷免できる状況を作り上げた手腕など、宮殿内でもかなり評判となっております。」


「あー、スタンピードなどについてはともかく、ば、いや3大臣については、向こうが自爆した形になるから私の手柄かどうかは怪しいんですがね。」


「それ以上に、私が驚いたのが、これだけ短期間で侯爵に上り詰めたにも関わらず、男爵である私にも分け隔てなく接してくださることです。」


「まあ、正直、貴族の位なんてどうでもいいという意識があるからじゃないですかね。こっちも嫌々受け入れた感が強いので。」


「私は生憎、剣の腕前しか自慢できるものがありませんでしたが、それも侯爵やお供の魔物を見てしまうとその自信も木っ端微塵に打ち砕かれた思いですよ、ハハッ、、、。まあ、以前に侯爵のお供の強さを目の当たりにして唖然としましたが、こうして久しぶりに拝見しますと、その強さを感じますね。」


「私はともかく、マーブル達はみんな例外なく強いですからね。自慢の子達ですよ!!」


「ミャア!」「キュー!」「ピー!」


 マーブル達が嬉しそうに声を出した。うん、非常に可愛らしいね。


「しかし、こうして見ますと、どの子達も普通に可愛い魔物、いや動物にしか見えませんな。」


「そうでしょう!! 強さなんてどうでもいいのです! この、可愛さが特に自慢なのです!!」


 マーブル達の強さを褒められると嬉しいけど、それ以上に、この可愛さを褒めてくれるのが嬉しいのだ。私が興奮気味にマーブルの可愛さを強調すると、流石のカット男爵も少し引き気味となってしまった。


「アイスさん、それよりも早く出発いたしませんか? 昨夜、通信の魔道具で、お父様から早く公都へ行けと催促の通信が来たのですわ、、、。向こうの大使が待ちくたびれていると。」


「だったら、こんなところでノンビリとしている場合じゃなかったでしょうに、、、。」


「詰問の使者なんて面倒なこと、そんなことはそれが得意な者に任せるといいのですわ! ワタクシはそういったことは苦手なのです。」


「いえ、恐らくですけど、詰問するにも情報がなさ過ぎて、向こうの大使も困っていると思いますよ。別にアンジェリカさんが使者として向かう必要はないかと。現に、トリトン帝国でも、こうして私の代わりとして、カット男爵が向こうに使者として行ってくださるのですから。」


「なるほど、確かにその通りですわね。ということで、アイスさん、早速出発いたしましょう!!」


「了解しました、って、カット男爵は準備万端でしょうか?」


「私の方はいつでも構いません。それよりも侯爵の方は準備は完了しておりますか?」


「私はいつでも出発できる状態になってますので、ご心配なく。では、早速参りましょうか。」


 そう言って、いつものメンバー+カット男爵で公都を目指して出発した。アマデウス協会の転送室から、洞穴族の住居跡地へと転送する。


「フロスト侯爵、ここは?」


「ここは、洞穴族が住んでいた洞窟ですね。彼らがフロスト領へと移住してくれたので、こちらをサムタン公国における秘密拠点として私達で使うことにしたんですよ。ここからなら公都まで1日足らずで到着できますし、この道は強い魔物が棲んでいるそうで、公国の者は基本通らないそうなので。」


「洞穴族、なるほど、ノームやドワーフたちをまとめて洞穴族と呼ぶのはそういう理由だったのですね?」


「そういうことです。それでは公都へ向けて出発しますか。」


「しかし、フロスト侯爵、私は使者の格好をしなくても大丈夫ですか?」


「使者の格好をするのは、公都に着いてからでも問題ないと思います。どうせこじれて終わるだけですから、カット男爵はご自分が無事に戻れるように準備をすればいいだけです。」


「そうですか? なるほど、私が使者として選ばれたのは、無理して向こうに言うことを聞かせることではなく、襲われそうになっても無事に帝都へと戻るだけの実力を買われてのことだったのですね?」


「そういうことです。ですから、カット男爵はトリトン陛下の意向に従って、言いたいことを言えばいいだけなのです。」


「ワタクシも同じようなことをお父様に言われましたわ。『どうせ、奴らは約束事も理解できない低脳な連中だから、無理しても友好的な態度を取る必要はない。』とね。」


「アンジェリカさん達もそういう話になっていたのですか。となると、個人的にタンヌ国王とトリトン陛下が通信していそうな気がするのですが。」


「言われてみると確かにそれはありそうですわね。今回の援軍の一件で、お父様は帝国に関心を持ち始めたようですし。」


「いや、タンヌ国王はアンジェリカさん達の行動に関心があるだけで、帝国にはそれほど興味はないんじゃないですか? 何せ帝国には何もないですしね。」


「確かに、帝国には何もないですな。ただ、それはこれからは異なってくるのでは?」


「ん? カット男爵、それはどういうことですか?」


「侯爵、フロスト侯爵が、何もなかった場所にフロスト領を興されて、1年も経っていないのに、あそこまでの町並みを作られたのですよ? しかも、産出品はほぼ高級品ばかりではないですか。我々は、フロスト領での夕食を賭けて、日々の仕事を競っている有様です。1年未満でこの有様ですから、これがあと数年もしたらどうなっていくのか興味は尽きないでしょう。」


「そうなのですか? 私は別に普通に生活しているだけですが。」


「はぁ、フロスト侯爵は、もっとご自身でなさったことを自覚された方がいいかと、、、。」


「ですわね。カット男爵、あなた様はなかなか話の分かる方ですわね。」


「アンジェリーナ王女殿下にそう仰って頂けると、光栄の極みです。」


 何か4人で話が盛り上がっているようだけど、そんなに私がしてきたことって異常なのか? まあ、異常だろうが何だろうが、私は私のやりたいことをやって、マーブル達と楽しく過ごすだけだ。


 サムイ→公都ルートも結構進んできたが、その分、魔物の気配も強くなってきているようだ。現にこちらを狙う存在が現れてきた。とはいえ、この程度では脅威とはならない。こうした魔物達は、マーブル達がここから飛び出しては、倒して戻ってくる。それぞれマジックバッグを持たせてあるから、食べられそうな魔物はしっかりと確保してくるだろう。


 そんな中、マーブルがこちらに走ってきた。この様子だと、何か強い魔物の存在がいるようだ。わかったよ、という気持ちでマーブルを撫でてモフモフを堪能してから、メンバーに強い魔物の存在を伝えた。


「さて、皆さん、マーブルからの報告で、この先に強い魔物の存在を確認しました。一応、避けようと思えば避けられますが、どうしますか?」


「アイスさん、言うまでもありませんわ! マーブルちゃんがわざわざ報告してくるほどの久しぶりの強敵、、、腕が鳴りますわ!!」


 やる気のアンジェリカさんに控えているのは、こちらもやる気のセイラさんとルカさん。一方呆気にとられている感じのカット男爵。


「え、えっと、フロスト侯爵? わ、私達はこれから公都へと行くのですよね?」


「はい、そうですよ、カット男爵、どうなさいました?」


「い、いえ、これから公都へと行くのに、その前に危険を冒す必要があるのかと。」


「あ、そうか、カット男爵。そっちは問題ありませんよ。折角ですから、戦姫の3人の強さをその目でご覧になればよろしいかと。」


「あ、は、はい、、、。」


 まあ、カット男爵は私達と行動を一緒にするのは初めてだから仕方がない。


 それでは、マーブルがわざわざ呼びに来てくれた強敵というのがどんなものか確認しに行きますか。


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フロスト領の領民達「ガンド殿! よくぞ言ってくれた!!」

ガンド「お、おう、、、。(こ、こやつら、ワシ以上に渇望してたのか!?)」

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