第74話 さてと、久しぶりの報告会です。

 この日は急に目が覚めた。いつもであれば、マーブル達の至福の肉球でようやく目を覚ますのに、、、。



 周りを見ると、いつもの景色ではなく、白い大理石のようなものに囲まれていた通路で、その先にはそれに似合わない敷物とこたつのようなものが置いてあり、そのこたつのようなものに一人の老人の他に、猫とウサギとスライムがくつろいでいるのが見えた。



 久しぶりだったので、少し混乱したが、全て納得した。起きたように感じるが実際には起きていない状態だということを。ある程度勝手はわかっているので、そのままこたつでくつろいでいる老人達の元へと移動することにした。



「おう、アイスよ来たかの。久しぶりじゃな。」



「お久しぶりです、アマさん。いきなり呼び出したりして、一体どうしたのですか?」



「ホッホッ、その前に、お主もこっちに来て座るがよい。話はその後じゃ。」



「それでは、お言葉に甘えまして、、、。」



 私は、アマさんに勧められてアマさんの正面に座る。私が座るとマーブル達が私の隣に移動してきた。



「おう、そうじゃ。ここにあるミカンも食べるがよい。」



「おお、ミカンですか、これはありがたい。マーブル達もどう?」



「ミャア。」



「ワタシ達は先程、アマデウス様から頂きましたので、少しお腹がいっぱいで、、、。これ以上食べると朝ご飯が食べられなくなりますので、、、。」



「ボクも、もらったー。おいしかったよー!」



 どうやら私が来る前にご馳走になっていたようだ。



「済まんが、先にこの子らが来たので、食べてもらったのじゃ。お主は呼んでもすぐには来んからのう。」



「そうなんですか? 私は目が覚めたらすぐに来ていたつもりなのですが、、、。」



「まあ、そこは個人差じゃから仕方ないのう。それにしても、このミカンといい、お主のいた国というのはどれも美味いものばかりで少し羨ましいぞい。」



「いや、そう言われても、私が以前の世界でも生まれたらこの状況でしたからね。アマさんだって、この世界の神になる前はそれなりにいいもの食べてたでしょうに、、、。」



「お主が考えておるほど、ワシも良い生活をしていたわけではないぞ。今だからこそ言えるが、当時は衛生という概念がなかったからのう、素材がひどいなんてものじゃなかったわい。素材がひどいから、とりあえず焼いてソースでごまかせ、みたいな感じじゃったしのう、、、。」



 と言って、アマさんはなぜか遠い目をしていた。



「まあ、今更それ以上は言うまい。今はこうして美味いものをもらっておるしのう、そうじゃ、昨日のあれは非常にうまかったのう。感謝するぞ。」



「いや、アマさん遠回しに催促してたでしょ? まあ、催促されなくてもお供えするつもりではありましたけどね。」



「おろ? ワシ、催促した覚えないぞ。あ、鑑定のことじゃな? あれは、鑑定結果をワシの口調で言っているに過ぎないから、実際の所、ワシは把握しておらんぞ。第一、一々鑑定しては結果を伝えるのは面倒じゃからのう。」



「・・・なるほど。確かにそう言われると納得できますね。一々ご自身で鑑定してはこちらに伝えるなんて、逆の立場でも面倒で勘弁して欲しいですね。」



「そういうことじゃな。」



「ところで、アマさん、私をここに呼んだのは?」



「うむ。そろそろ本題といくかの、と言っても、今話していた内容とは無関係ではなくての、お主が供えてくれた、ヴルスト、それとギョウザとモツ煮といったかの、どれも美味かったぞい。」



 ヴルスト? ああ、ウインナーソーセージのことか。そういえば、アマさんは音楽の国出身だったな。あそこの言語はドイツ語だっけか? まあ、どれも喜んでくれたのならお供えした甲斐があるというものだろう。



「喜んで頂けて何よりです。幸いにも新たに見つかったダンジョンで手に入ったもので、これによってウインナー、じゃなかった、ヴルストを始めとして、ギョウザが作れるようになりました。モツ煮に関しては以前から塩ベースのスープでは作れたのですが、私的にはやはり味噌でないと、ということで味噌が手に入るまではお供えするのを控えておりました。」



「何? あのモツ煮というものはミソというものが使われておるのか? なるほどのう。ミソというのはお主のいた国の調味料かの?」



「そうですね。本来ですと、大豆という種類の豆を柔らかく煮て、いろいろと加工しないと作れないものなのですが、何故かダンジョンの木の実にこの味噌が入っておりましたよ。」



「ほう、話しぶりからすると、そのミソというものは、お主が欲してやまなかったものかの?」



「その通りです。以前いた世界では毎食のように味噌汁を飲んでおりましたので、ここでこれが手に入ったと実感できたとき、そしてそれを使って調理して久しぶりに飲んだ味噌汁は感無量でしたね。」



「そうかそうか。それはよかったのう。」



 そう言ったアマさんの表情は慈愛に満ちていた。私が嬉しそうに話しているのを見て、アマさんも喜んでくれているのだろう。



「お主がそこまで嬉しそうに話しているのを見たのは、マーブルと一緒に過ごすようになったとき以来かのう、、、。」



「もちろん、ジェミニとライムも今ではかけがえのない家族であることは間違いないですし、こうして出会えたことはもちろん嬉しい以外の何者でもないですが、やはりマーブルと出会って、一緒に過ごすようになったとき、というのは別格ですね。」



「おっと、話が逸れてしまったの。ということで話を戻すぞい。お主が供えてくれたヴルストもそうじゃが、ギョウザとモツ煮じゃがのう、済まんが、毎日とは言わないまでも定期的に供えてくれんかの?」



「それは構いませんが、一体どうしました?」



「いやの、お主がこれらを供えてくれたときに偶然じゃが、同僚が遊びに来ててのう、折角じゃから一緒に食べたわけじゃが、その美味さに驚いてのう、それだけならよいのじゃが、周りに広めてしまってのう、他の連中が我にもよこせと催促がうるさくてかなわんのじゃ、、、。」



「ありゃ、そうなると、大量に用意しないといけなくなるので?」



「いや、昨日と同じ一食分でかまわん。ほら、一応ワシ食の神じゃから、食事などの食べ物については無制限に複製できるからの。」



「それでしたら、もうお供えする意味がないのでは?」



「いや、条件があっての。目の前に食べ物がないと複製できんのじゃよ。」



「なるほど。その件については承知しましたが、念のためお聞きしますが、毎回、その3品ということでよろしいので?」



「うーん、正直、定期的に供えてくれさえすれば、同じものでも違うものでもかまわんよ。」



「では、そのように致しますので、あ、そういえば、1日1回とかでよろしいですかね?」



「ああ、それについては問題ないぞい、我らは下界のものは食べなくとも問題ないからの、ただ、楽しみが少なくてのう。じゃから、楽しみの一環としての食事じゃから、そういったことは気にせんでもよいぞ。」



「それを聞いて安心しました。ところで、私達だけでなく、領民達にもお供えを許して欲しいのですが、かまいませんか? 今のところ、私達が代表でお供えしているという形をとってはおりますが、領民達が神々に感謝の意としてお供えを希望しているらしくて。」



「ホッホッ、それはむしろ願ったり叶ったりじゃ。お主らの領民達もワシだけでなく他の連中にも報告しておるようで、あやつらも喜んでおったわい。中には上辺だけの賞賛の言葉だけでうんざりしていた奴もおるらしいからのう。」



「そうですか。それは領民達も喜ぶでしょう。早速起きたら伝えるとしますよ。あと、お供え物ですが、いつもの場所でかまいませんか?」



「ああ、構わんよ。祈りや報告なども実際には対象の神々へと直接届くようにしてあるからの。っと、そろそろ時間かの。それでは楽しみにしておるぞい。」



「はい、それでは、また。」



 別れを告げると、再びまどろんだ。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン、つんつん、、、。ああ、いつもの朝起こしだ。今日はコカトリスの勝利か、、、。良い気分で目を覚まして、みんなと挨拶を交わすが、マーブル達は少し悔しそうにしていたのとは逆にコカトリスはハイテンションだった。



 今日の作戦は早めに忍び込んでスタンバイする作戦だったようで、コカトリスは上機嫌だった。まあ、今回はマーブル達もアマさんに呼ばれていたし、コカトリスも不審者ではない(?)ので、感知できなかったようだ。



 コカトリスから卵を受け取り、お礼とモフモフをすると、コカトリスは戻っていった。今日は牛さんから頂いたお乳を加工する予定で、とりあえずその準備からかな。スガープラントからも大量の砂糖を抽出できたので、今日はプリンを作ってみようと思う。



 しかし、現実は甘くなかった。今日の担当はカムドさんだったが、カムドさんいわく、ダンジョンへの探索人員など詰めなければならないことが目白押しだったようで、お乳の加工の仕込み以外は結局できなかった。



 それと、忘れずに領民達に神々へのお供えを許可することを伝えた。領民達は大喜びだったのでよしとしますか。もちろん、自分の生活に見合った範囲内という限定を忘れずに念押しした。後は、必ずしも毎日お供えする必要はなく、数日に1回で構わないこと。言うまでもなく、お供えせずに、お祈りと報告だけでも十分ということは伝えておいた。こんなことでトラブルが起きたら即座に禁止することも合わせて伝えた。



 私の方もアマさんからリクエストがあったので、ウインナーソーセージとギョウザとモツ煮をお供えする。今まではお供え物はそのままの状態で、気がついたら中身だけ消えていた感じだったが、今日以降はお供えして数秒後にスッと消えるような感じに変化していた。



 今までもそうだったが、器に盛られていたものは、中身だけ消えて、器はしっかりと残っていた。まあ、器ごとなくなってしまうと、神界が器だらけになるよね、そのうち。更にこちらも数少ない器がなくなってしまうわけだから、最初はよくても、後々厳しい状況になってしまうのは想像に難くない。



 それはそうと、お供えを解禁したら、領民がこぞってアマさんの像の前にある大きな皿の部分にお供え物をしている。お供え物を置いて数秒もすると消えていくことに領民達は驚いていた。私も最初は驚いたけどね。置いては消えていく光景に子供達が面白がって、いくつか用意していた木の実などを1つずつ置いては嬉しそうにしていた。「全部一回で置かんかい!!」と突っ込みが入りそうだが、子供達がやっていることである。神様達も笑って済ませてくれるだろう。



 そんな感じで領民達もお供えをするようになってから数日後、私は再びアマさんに呼ばれた。今回はマーブル達は私と同じ場所にいて、私の姿を確認すると、3人とも定位置に乗ってきた。ライムは入ったという方が正しいか。



 3人と一緒にアマさんのいる部屋へと向かうと、アマさんはいつものようにこたつでくつろいでいた。今日はこたつの上にお茶と煎餅がたくさん入った皿が置いてあった。アマさんがどんどん日本人化している、、、。けど、貴方、元は西洋人ですよね? 違和感がまったく感じられないのですが、、、。そんなことを考えつつアマさんの部屋に到着すると、アマさんはこちらの考えなどお見通しと言わんばかりにニヤリとしながら案内してくれた。



「おお、来たか。度々呼んですまんの。ところで、ワシも似合っておるじゃろ?」



「アマさんも段々とこっちに染まりつつありますね、、、。



「そうじゃろそうじゃろ、お主の影響が強いのかもしれんの。まあ、その話はいいから、座ってくれい。」



 私がいつも通りアマさんの正面に座ると、マーブル達も降りて定位置に座った。ってか、マーブルは猫なのにこたつには潜り込まないよね? そう、今更の話だけど、マーブル達は私の両隣と膝の上に座る。時間毎に場所が変わっている。膝の上に座るメンバーが交代する形だ。私の方でも、膝の上に乗っている猫を撫でながらアマさんと話をしている感じだ。まあ、そんな話はどうでもいいか。



「それで、アマさん、今日呼び出したのは?」



「ああ、今日お主達を呼んだのは、改めてお主達にお礼を言いたかったからじゃ。」



「私は直接お世話になっているので必要ありませんが、領民達は喜ぶでしょうね。」



「とはいえ、我々が直接出向いてお礼を言うわけにはいかんから、何か別の形でという話になってのう。」



「有り難い話ですが、あまり大げさなものになってしまうと、周辺が五月蠅くなって逆に迷惑になるかと思いますが、その辺はどうなんですかね?」



「そうじゃの。我々でもそのことについては懸念しておる。じゃが、彼奴達がそれでも何かお礼をしたいと言っておってのう、というわけで、領民達にはそれぞれ信仰している神や精霊の加護をつけるということで話がまとまった。もちろん鑑定されてもバレぬように神の隠蔽を施しておいた。まあ、加護といっても病気になりにくいとか、怪我の回復が早くなるといった程度のものらしい。」



「そうですか。その程度でしたら領民達にも気付かれないでしょうし、それくらいでいいかもしれませんね。」



「そう言ってくれて安心したぞ。それとな、お主にも是非お礼をしたいと奴らが言っておっての。」



「はい? 私にですか?」



「そうじゃ、お主にじゃ。」



「私は、アマさんはともかく、他の神々の方達に別段何かしているわけではありませんので、、、。」



「いいか、そもそも、こういう状況を作り上げたのは他ならぬお主じゃ。これが領民の要望であったとしても、実際に聞き入れてこういう機会を作ることができたのは、お主が領主だからじゃ。一つの教会でどの神を拝んでも構わないということを考えつくのはほとんどおらんのだぞ。まあ、そういうことじゃから、是が非にでもお主にお礼をするといって聞かないのじゃ。」



「はぁ、何か断るに断れない状況なんですね。内容によってはありがたくお受けしますよ。」



「そうか、そう言ってくれると助かる。」



 お礼といっても、神々からだからねえ。重たい奴は勘弁して欲しいのだけど一体何だろうか。



「ところで、お主、「えむえむおー」というのは知っておるかの?」



「はゐ?」



 えむえむおーって、、、。MMOか? こっちの世界では絶対出てこないであろう言葉にびっくりした。

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