第71話 さてと、今日は案内人として洞窟探索です。その4
地下3階へと降りる。さあ、やってきました、お肉祭りの開催でございます。みなさんには思う存分お肉を手に入れてもらいましょうか。私は別のことしますけどね。では、案内係らしく説明でもしますか。
「さてと、みなさん。ここ地下3階は山羊と羊と牛がそれぞれおります。縄張りに入ると襲ってきますのでそのつもりでいてください。ただ、その分たくさん肉などが手に入りますので張り切って倒しましょう。あ、これ大事なことですが、1体は残しておいてください。少々試したいことがありますので。」
エーリッヒさんが聞いて来た。
「アイスさん、1体残すのは承知したが、魔物はどんな感じで襲ってくるのかな?」
「先日戦った感じだと、山羊なら山羊、羊なら羊といった感じでそれぞれ集団を形成しているかな。だから無理して先に進もうとしなければ1集団ずつ戦えるね。」
「なるほど、そういうことであれば、じっくりゆっくりと進んでいけばいいかな。」
「うん、それで頼みますね。というわけで、討伐隊の指揮はエーリッヒさんに任せるよ。」
「私でいいのか? アイン殿もいるが。」
「アイス様がそう言ったのであれば異存は無い。あと俺は指揮官向きではないから正直助かる。遠慮なく指示して欲しい。」
「ということで、エーリッヒさんよろ。まあ、エルヴィンさんでもハインツさんでもいいけど、そこら辺は任せるよ。私達は別の重要任務があるから。あ、言い忘れてたけど、大きさと速度以外はほとんど同じだから、1つ隊形を決めたらそれだけでいけるはず。ってその前に時間も時間だから食事でもしながらそこら辺は決めるとしましょうかね。」
折角だから、これから狩る予定の魔物の肉を試食してもらうことにして、これらの肉を出して調理を開始する。そう、ここでも私が調理係である。だってさ、この面子で料理できるのって私だけだし、、、。とはいえ、ここはシンプルに押し麦ご飯に各種の肉を使った焼き肉、味付けはスガーで十分美味いから問題なし。あとは汁物だけど、これは合わせ味噌でいきましょうかね。
完成した昼食をみんなに配ると、マーブル達以外の全員は一様に驚いていた。まあ、初のお披露目だから仕方がないだろう。
「ア、アイスさん、この食事は、、、。」
「今日の昼食ですが、肉と汁の素はこのダンジョンで手に入ったものです。つまり、これからはこれらが食べられるということです。ですから、この味を堪能して、それを提供してくれる魔物達に感謝しつつ、領内を発展させていきましょう。では、頂きます!!」
私の号令に続いてみんなも「頂きます」という言葉の後に食べ始める。どれを食べてもみんなが「美味い」と嬉しそうに言う。アイドル達はもとより、ウサギ達も美味しそうにがっついていた。うんうん、みんないい顔をしていた。こちらも頑張って作った甲斐があるというものだ。
「たしかに、これを流通させようとすると戦争が起こりますね。フロスト伯爵が領民のみに限定する意味がよくわかります、、、。」
と、ギルド長は呟きながら食べているが、その手と口は止まっていない。ちなみにフロスト領内では、箸が使えるものは箸を、使えないものはフォークやスプーンなどを使って食べている。また、箸やフォーク、スプーンは木製であるが、フロスト領ではこれらにも魔樹の素材が使われている、とはいえ、香りのあるダークアルラウネについては流石に使われていない。こんなに身の回りのものにも魔樹が使われているのはフロスト領内だけであるが、本人達もそのことに気付いていない。
それはさておき、好評のうちに終わった昼食のせいで、パーティ編成の話は行えなかったので、昼食後改めて編成について話し合っていた。食後の休憩も兼ねているので結果的にはその方が良かったかも知れない。話し合いした結果、集団で襲ってくる魔物達と戦っている状態では、敢えて1体残すのは難しいかも知れないということで、襲ってきた先頭の魔物について、私達が対応して、その他の魔物達を他のメンバーで倒していくことで決定したそうだ。みんなの決定なので、私の方でも異論はない。
私達を先頭にして、左側をアインが、右側にはレオが控える感じで進むことになった。最初の集団は山羊こと「グレイトカシミール」が10体ほどいた。みんなの様子を見ると、いつでも攻撃準備はできているようなので、縄張りに入る形で戦闘開始だ。先頭の魔物が今回の私達の獲物だ。今回は肉だけではなく、他の素材も手に入れる予定。例えば、この「グレイトカシミール」の場合だと、山羊の乳と毛である。普通に倒してしまうと、肉と角しか手に入らないが、おそらくこの方法であれば安全且つ確実に手に入れることが出来るはずだという確信がある。
私達に向かって来たのは先頭にいた山羊だったが、ジェミニが真っ向から突進してその動きを止めた。わかってはいたけど、改めてジェミニの凄さにビックリした。だってさ、ジェミニもそうだけど、野ウサギ族ってそこらにいるファーラビットくらいの大きさかそれよりも小さいんだよ。私の肩に乗れるくらいね。そんな小さなウサギが通常時でも人の頭の高さくらいある大きい山羊に突進して一方的に勝つんだから、、、。
おっと、動きが止まったから次の段階に進まないと。山羊の動きが止まったので、水術で4つの脚を凍らせて動きを完全に止める。動きが止まったら、マーブルが風魔法で毛を刈り取ってから一塊にまとめ、ライムが収納袋にそれを入れる。で、丸裸の山羊に近づいて乳搾りを敢行する、といった手順だ。
とりあえず、作戦通りにカシミールの毛と山羊の乳を手に入れることができた。手に入れた乳については試し飲みとして、少し飲んでみたが、もの凄く美味かった。これは羊や牛も期待できそうだった。あ、毛と乳を提供してくれた山羊さんは私達が謹んでお肉や角に変化させましたので、ご安心を。
こうして、襲いかかる集団から、私達は肉や内臓だけでなく、毛や乳を手に入れ、他のメンバーは普通に倒して肉を手に入れていたが、そのうち、ゴブリン部隊は慣れてきたのか、一撃を与えて怯ませた隙に、ユミールの土魔法で拘束するようになった。アインに至っては、山羊や羊のみならず牛に対しても正面から受け止めるばかりか、その状態で完全に動きを止めてしまっていた。
そうやって、動きを止められた魔物達から毛や乳を遠慮なく頂いたのは言うまでもなかった。流石にアインが強引に動きを止めていた魔物に関しては危険だったので普通にお肉に変えていたが、、、。
こうして予想よりも大量に素材が手に入るようになったので、当初の予定ではサーチアンドデストロイを行っていたが、変更して地下4階への階段を目指して直進、襲ってきた集団だけ美味しく頂くという方法に変更した。というのも、乳用に用意していた壺があと8個くらいしか空きが無くなっていたからだ。この8個の壺については味噌に回す予定だ。酢やウスターソースについてはほとんど使っていないため補充する必要が全く無いからだ。
道中は順調に進んで、これから地下4階へと進んだ。地下4階では、「グレイトコッコ」から羽毛を頂く以外は特に特殊な条件で手に入る素材は無さそうだったので、ほぼ戦闘訓練みたいなものだった。もちろん、羽毛については先程と同じような感じで有り難く頂戴しました。肉も内臓もタップリと手に入ってホクホクでしたね、ええ。
時間的には地下3階と同じくらい時間はかかったものの、特にこれといって変わること無く通常の戦闘訓練の感じで進み、地下4階の下り階段を見つけたので、階段を降りて地下5階へと進んだ。ここは説明しておかないとな。
「みなさん、地下5階ですが、先に言っておきますと、ここでは戦闘は行いません。というのも、ここにいる魔物、というか牛ですが、襲ってきませんので。ただ、この牛たちからは調味料が手に入りますので、先程の乳搾りが役に立ちます。といっても、乳搾りを敢行するのはそのうち1種類ずつです。これらは比較的消費量が少ないので、今日は手に入れません。」
そう、この牛たち、外見では区別つかないから鑑定しないとどれがどれなのかわかりづらいんだよね。ということでガンガン鑑定していく。
鑑定結果では、ビネガー関係の牛が多かった。前回はそこまで種類はなかったはずだけど、いきなり種類が増えていてビビった。前回は「ビネガーカウ」としか表示されていなかったのに、今回は「ワインビネガーカウ」とか、「ライスビネガーカウ」だとか「ブラックビネガーカウ」とか「バルサミコカウ」なんてものまでいたのは驚いた。とりあえず当初の予定通り1種類に1壺ずつ乳を頂いて地下6階へと向かった。
地下6階は猿の楽園です。ここも説明しておかないとな。
「みなさん、ここは一本道ですが、お猿さんが現れて、ものを投げてきます。ただ、これを見事に受け取るとお猿さんは喜びますので、みなさん張り切って受け取って上げましょう。ここも戦闘はありませんので。」
全員が頷く。それを確認してから先を進むと、しばらくしてお猿さん達が出現してきた。「ウキーッ!」と嬉しそうに鳴いてから、木の実をゆっくり用意していた。前回も来ていたから向こうもわかっているのだろう、しっかり受け取るようにと言わんばかりにゆっくりと用意しては投げる気満々でいた。
実際に向こうが木の実を投げてきたが、やはり理解しているようで、私達には速い速度で、他のメンバーには取れるようにゆっくりと投げてきた。特にファーラビットやベリーラビット達へもそうだが、クレオ君とパトラちゃんに対しても取れるようにゆっくりと投げてきたのだ。
私達が投げ変えそうとすると、私達に投げてきた猿が腕で×印をつけてきた。投げ返す必要はないらしい。これらの木の実を私達にくれるようだ。よく見るとわざわざ切れ込みが入っており、そこから甘い匂いがしていた。他の猿たちも投げたものをしっかりと受け取ると嬉しそうにはしゃぎ、投げ返そうとしたメンバーに対してやはり腕で×印をしていた。美味く受け取れたクレオ君やパトラちゃんも「やったー!」と嬉しそうにしていたのを見てほっこりしていたが、猿たちも嬉しそうにしていた。
「さてと、みんな、これはこのお猿さんたちが私達にくれたものです。実に切れ込みが入っていますので、そこから割って中身を頂きましょう!」
私がそう言って、もらった木の実を割ってみせると、他のメンバーも木の実を割った。それを見た猿たちは自分たちでも用意していたのであろう、同じように木の実を用意しており、木の上から降りてきてこちらに来てから、その木の実を割った。中身は少しドロッとした感じの白い液体だったが、かなり甘い匂いだ。
「では、頂きましょう!!」
私の合図とともに、みんなで木の実を頂いた。かなり甘く、疲れが一気に取れた気がした。思っていた以上に疲れていたのだろう。クレオ君とパトラちゃんは寝てしまった。それを見たエルヴィンさんが、何やら道具を出してくれた。集めた薪などをそこに入れて背負う道具だった。一息ついてから猿たちに、今日は彼らの案内でここに来たことを伝えると、案内役は任せろ、と言わんばかりに木に登らずに私達の先を歩いて行った。
地下6階の階段近くまで進むと、数人の猿たちを除いて、他の猿たちは林の中へと消えていった。残った数人の猿たちは、木の実を用意して投げる準備をした。要するにキャッチボールの相手をしろということだろう。先程の木の実のお礼ではないけど、まだ時間もあるしお付き合いしましょうかね。キャッチボールの相手をするのは、私とエーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさんの4人だ。
途中でメンバーを変えてはキャッチボールをしばらく楽しんだ後、消えていった猿たちが現れて白の木の実と赤の木の実を持ってきてくれた。
「また、くれるの?」
そう聞くと、猿たちは一斉に頷いた。正直これはありがたい。というわけで、お礼として今日手に入れた肉を一通り猿たちにあげると、猿たちは喜んでくれた。
猿たちの見送りを受けながら、私達は地下7階へと進んだ。
地下7階は前回と同じように石で構成されている階層だ。今まで自然豊かだった状態が一変していたことに驚いていたが、ここはダンジョンですからねぇ。やはり一本道だったので、進んでいくとマーシィさんの本体がいた広間にたどり着いたが、魔方陣があるだけで他には何もなかった。その上行き止まりである。実はその先に通路があるけど、隠蔽して行き止まりのようにしている。念のために氷の結界はしっかりと張ってあるのでこの先に進むことは難しいだろう。
「おかしいですね、普通、こういったダンジョンではダンジョンマスターがいるはずなのですが。」
「まあ、いないダンジョンもあるのではないでしょうか? ここはいろんな意味で特殊なダンジョンでしょうしね。」
「確かにそうかもしれません。入り口が一番難易度が高いダンジョンなんて初めてですし、、、。」
そう、このダンジョン、私達が入った場合は豆柴が出迎えてくれるが、部外者が立ち寄ると豆柴が地獄の番犬に早変わりする。ダンジョントラッパーも地獄の番犬用に用意されたものらしい。ちなみに、現在のこのダンジョンのダンジョンマスターは私である。ダンジョンマスター権限で初めて知ることができた。
他にもいろいろ知ろうと思えば知ることができるけど、多すぎて面倒だからこれ以上は特に知らなくても良い。このダンジョンを保てれば、私から特にあれこれやるつもりはない。やったのは、コアルームを隠蔽して氷の結界を張ったのと、入場制限を明確にしたことだけである。
「これ以上は進めないようですし戻るとしましょう。」
「そうですね。フロスト伯爵、伯爵ご自身のご案内とギルドへの協力に感謝致します。」
「いえいえ、それでは改めて、このダンジョンはフロスト領の所有で、このダンジョンへは領民のみ許可、冒険者に関しては冒険者ギルドフロスト本部のギルド長であるあなたのみ、あるいは私が特別に許可を出したものに限る、ということでよろしいですね?」
「はい、それで構いません。他の冒険者ギルドにもこのダンジョンについては公表しないということで結構です。」
地下7階の魔方陣からアマデウス教会へと転移魔法で移動する。
「本日はお疲れ様。今日手に入れた肉や内臓はみんなで分けて。毛や乳については一旦こっちで預かるよ。あ、肉や内臓が腐りそうで怖い場合は言ってくれれば預かるからね。では、解散。」
さてと、カシミールの毛と羊毛、あとは鳥の羽を手に入れたな。あとは牛乳か。やばい、やること多すぎるな。嬉しい悲鳴でもあるが、精神的にもキツいのは事実。少しずつこなしていくとしましょうかね。
私が少し疲れた様子を見せると、マーブル達はこちらに飛びついてきた。うん、モフモフ。癒やされるね。もう少し頑張れそうだよ。
何てことは無く、ただの夕食の催促だったというオチだけど、当人は気付いていない、、、。
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