第69話 さてと、今日は案内人として洞窟探索です。その2

 さて、私達の集団に紛れ込んでいたゴミの掃除が終わったので、これからバリバリ案内していくよ。とりあえずゴミ掃除が終わったことを伝えがてら、最初の間で待ってくれているメンバーを呼んできてもらうとしましょうかね、ということで、アインは最初の間へと戻っていった。



「フロスト伯爵、この度は申し訳ありませんでした!!」



 いきなりギルド長が土下座してきたので驚いた。



「いやいや、この件はお気になさらず。」



「いや、しかし、これは当ギルドの失態ですし、、、。」



「まあ、失態といえば失態だけど、中央のギルドならともかく、こんな片田舎のギルドではそこまで対策がとれないでしょ、そんなことはこちらは百も承知しているから。私がここのギルドに求めているのは、領民達が狩り採集をして得た素材を換金して生活を安定させてもらうこと。正直それだけでもこちらは十分満足しているから。それに彼程度なら、ここの領民達にとってはものの数にもならない存在だし。」



「私をそのように評価して頂けていることは光栄なのですが、冒険者ギルドという観点からですと、、、。」



「まあ、それについてはいいんじゃないの? 冒険者ギルドというものは、その領地に足りていない部分を補う形で存在しているはず。我が領で足りていないものといえば、経済活動だから、その部分を補ってもらっているのは大いに助かっているよ。もし気にするのであれば、よりいっそう良い値段で買い取ってくれればいいよ。もちろん、ギルドもある程度儲かる範囲でね。ということで、この件は終了。」



 ぶっちゃけ、さっきのことは全く気にしていない。恐らくトリトン帝国内で誰かさんがなけなしの金を使って雇ったことだろうし、正直どうでもいい。これで暗殺者ギルドが動くのなら、それはそれで構わない。来たら潰すだけ。必要悪という存在は少なくともフロスト領では必要ない。こっちに手を出さなければこちらからは何もしないつもり。まあ、仕掛けてきたらそれ相応の報いを受けてもらいますけどね。



 マーブルを先頭に最初の間で待機していたメンバーがこちらにやってきた。マーブルとジェミニとライムはこちらに飛びついてきたので、しっかりと受け止めてモフモフを堪能すると、ウサギ族の面々が負けじとこちらに飛びついてきた、といっても順番に飛びついてくれたので、こちらも順番に受け止めてはモフモフを堪能する。レオまで来やがった、いや、レオも十分可愛らしいので嬉しいと言えば嬉しいのだけどね。



 ウサギ族達も飛びついたのを見て、クレオ君とパトラちゃんもこちらに飛びついてきた。もちろん受け止めてモフモフを堪能する。いやあ、至福ですな。同じモフモフでも、どの子もそれぞれ違うのが面白い。合体状態だった豆柴達はいつの間にか5体の豆柴にもどっており、こちらも負けじと尻尾を振りながらこちらに飛びついてきた。



 5匹の豆柴達を見たメンバーは一様に驚いていたが、ゴミ掃除に立ち会っていたメンバーと最初の間で待機していたメンバー達では驚き方が違っていた。立ち会っていたメンバーは凶悪な魔物の存在だった犬たちが実はこんなに可愛らしいモフモフだったということで、最初の間にいたメンバーはこんなところにこれほどの可愛らしい存在がいたことについて。彼らの反応を見ているのも非常に楽しいものだった。



「フロスト伯爵、私は、伯爵の実際に見たことによる説明と、文献に残っていた記述が両方正しかったことが非常に驚きです、、、。でも、実際に見ると、説明や記述以上に驚いたのは間違いないです。」



 ギルド長が思わずそうつぶやいた。



「ははっ、恐ろしいか、可愛らしいかの違いこそあれど、先に進めないという点では、同じ地獄ということでいいんじゃないかな?」



「確かにそうですね。」



「「わんわんだ!!」」



 2人のアイドル達は、豆柴の可愛さに夢中だった。いや、領内では君達にもみんなメロメロですからね。



 どちらにせよ、人懐っこい上に、可愛らしい外見の豆柴達を見てしまったら、構わずにはいられないのは私達だけではなく、他のメンバーも同様らしく、ここでしばらく足止めを食うことになった。まあ、こうなるのは想定してたけどね。



 しかし、先に進まなければ意味はない、ということで、大いに未練は残るけど先に進むことになった。気持ちはよくわかる。実際私達も同じ心境だしね。次の間に進むために部屋から出ると、豆柴達は尻尾を振りながら見送りしてくれた。これが嬉しい+未練が強くなってしまうんだよね。



 気合を入れて未練を断ち切り、次の間へと進む。あ、次の間以降について説明しておかないとな。



「みんな、次の間からは豆柴達ではなく、ダンジョントラッパーという魔物が出てきます。私達が探索しているときはほぼ必ず豆柴となってこちらに近づいてきましたが、今回はどうなるかわからないです。魔物ですので倒す相手ではあるのですが、流石にあの豆柴に化けられていたら倒すのは躊躇われるでしょうが、その点については対策してあります。私達が先頭を進みますので、どうやって対策を取っているのか見て確認して欲しいです。」



 そう言って先に進むと残ったメンバーはその後ろを付いてくる。氷の結界を次の間の入り口に張る。



「向こうの間にも、先程と同じ豆柴達がいるのを確認できると思うけど、どうかな?」



 私が聞くと、みんな頷く。大丈夫だよね? しっかり見ているよね?



「あそこに見えているのは、豆柴に見えるけど、違う存在なんだよね、まあ、見てて。」



 私達が次の間に近づくと、豆柴達に変装したダンジョントラッパー達が一斉にこちらに向かって近づいてくる。「オンオン!」とか言いながら尻尾も振ってくる徹底ぶりだが、こちらの結界にぶつかっては次々に正体を現していく。



「こうやって、変装状態のダンジョントラッパー達は、何かにぶつかったりすると変装が解けるから、これで正体を暴いてから倒すといいよ。もちろん、豆柴ではないから、普通に攻撃しても大丈夫だと思うし、変装を暴くスキルなんかを持ってたら、そっちを使ってもいいんじゃないかな。とりあえず、私は豆柴状態であるうちは手出しできないから、こうやって変装を解いてから倒しているね。」



「フロスト伯爵、変装が解けるのはいいのですが、彼らは再度変装してくるとかありますか?」



「流石はギルド長、こういったことに気付くのですね? ですが、残念ながらわかりません。」



「わからない、ですか?」



「うん、わからない。だってさ、豆柴に変装しているというのはわかっているんだから、変装が解けたらさっさと倒しちゃうでしょ。それを検証するのもアリだとは思うけど、あの結界にぶつかった直後の表情だって、見るのは地味にキツかったりするし、、、。少なくとも、私ではその検証は無理です。検証できそうな領民にやってもらうしかないかな、、、。」



「こういうことは冒険者ギルドにお任せできますかね?」



「いや、仮に検証できないとしても、ギルドには頼まない。ギルド長を始め、ここのギルド職員は信用できると思うけど、所属の冒険者が必ずしも信用できるとは限らないからねぇ、、、。まあ、信用できない冒険者が仮にここに入ってきても豆柴達に迎撃されて終わりだけどね。」



「それを言われてしまうと、ギルドとして返す言葉がありません、、、。」



「私が言いたいのは嫌みではなくて、正直そこまでして検証するほどのことでもないかな、ということなんだよね。こいつらそれほど強くないから、サクッと倒してしまうに限るよ。というわけで、希望者は化けの皮がはがれたあいつらを倒してください。ちなみに1人1体までで、先着順です。ああ、奴らはこの先にもいますので、自分だけ狩れなかった、ということはないのでご安心ください。」



「ということは、最初は我らで行った方がいいかな。」



 と言うと同時にハインツさんが槍を持って先行、続いて剣をもったエーリッヒさん、ボウガンに矢をつがえた状態のエルヴィンさんと続き、ユミールさんも右手に火魔法を灯してその後を追う。ちなみに、この間にいるダンジョントラッパーの数は6体。あと2人はどうなったかというと、何とクレオ君とカムイちゃんが突っ込んでいった。お手並み拝見といきたいところだが、同時に心配な部分も多いが、それは杞憂に終わっていた。ゴブリンの4人はそれぞれあっさりとダンジョントラッパー達を仕留めて終了。



 クレオ君は、「てりゃー!」というかけ声とともにローリングソバットを、パトラちゃんは「とりゃー!」というかけ声とともにアッパーをそれぞれダンジョントラッパーに放って、それぞれ1撃で仕留めた。2人とも体重は軽いけど、ダメージの与え方を理解しているのだろう、流石は獣人、さらに格闘術スキル10の逸材だ。頼もしいと同時に末恐ろしく感じた、、、。でも、無理はやめてね、、、。



 その先のダンジョントラッパーも問題なく倒していた。ちなみに、残ったメンバーがどうやって倒したかというと、アインはダンジョントラッパーを鷲掴みにして握りつぶし、ギルド長は双剣で鮮やかに切り倒していた。ギルド長って双剣使いだったのね。ウサギ達といえば、レオともう1体の野ウサギ族は牙を使うまでも無く突進のみで、一角ウサギ達2体は自慢の角の突進で、ファーラビット2体とベリーラビット2体は自慢の後ろ足の蹴りで見事に仕留めていた。うん、強くなったよね君達。



 特にファーラビットやベリーラビットが鮮やかにダンジョントラッパーを仕留めていた光景に驚いていたのはやはりギルド長だった。



「本来なら、初心者の冒険者の練習対象でしかないファーラビット達が、何で魔物ランクCのダンジョントラッパーを、、、。やはり、この領地の領民となると変わってしまうのか、、、。」



 何か遠い目をしていたけど、ウサギ達はウサギ達でしっかりと鍛錬した結果だからね。ここに住めばいきなり強くなれるわけじゃ無いから勘違いをしないで欲しいな、、、。とはいえ、ペットで癒やしの存在とはいえある程度自分の身も守れるようにこれからも更に強くなって欲しいとは思っている。



 って、ダンジョントラッパーってCランクの魔物だったの? ってか、ギルド長ダンジョントラッパーの存在知ってるんだ、、、。ま、まあ、いくらクソ田舎のフロスト領とはいえ流石冒険者ギルドのギルド長といったところかな。ダンジョントラッパーの言葉を聞いても通常通りだったということは、結構ダンジョンには存在しているということなんだろうな。



 そんな感じであっさりとダンジョントラッパー達を仕留めていった。もちろんドロップ品の骨は回収してますよ。豆柴達にあげると喜んでくれると言うと、クレオ君とパトラちゃん達はもちろんのこと、ウサギ族も嬉しそうにしていた。意外なことにゴブリン達も嬉しそうだった。君達もモフモフ好きなんだね。やはり種族を問わず「カワイイは正義!!」なのだろうか、いや、「モフモフは正義!!」の方が正しいのかもしれない。



 と、こんなどうでもいいことを考えつつ、今は私の肩に乗っかっているマーブル達のモフモフを愉しみながら地下2階への階段に到着した。

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