第66話 さてと、お見送りですね。
テシテシ、テシテシ、ポンポン、いつもの朝起こしに気分良く目が覚める。3人と挨拶を交わすが、そういえば、最近襲撃をかけてくるコカトリスの姿が無い、と思っていると、良い速度でこの部屋に入ってきたトリの姿が。そしてすっかり目を覚ましている私の姿を見ると、
「コケ-ーッ!」
と、羽をばたつかせながら鳴く。遅れてしまって悔しかったんかい、、、。参加してくれるのは嬉しいけど、君達のクチバシって結構痛いからね、、、。
しばらくして落ち着いたコカトリス(もちろん今日も違うトリらしい、、、)と挨拶を交わし、いつものごとく今日の分の卵を置いてってくれた。感謝のハグをしてコカトリスは戻っていった。
さてと、朝食の準備でもしますかね。ダンジョンのおかげで味噌が手に入ったばかりか、調味料もふんだんに使えるようになり、食事の準備もずいぶんやり甲斐ができたのは大きい。あとは贅沢をいえば、陸稲でも水稲でもかまわないから稲がほしいところだけど、押し麦に慣れてきたので、そっちは別にいいかとも思い始めた今日この頃である。あとは海の幸といいたいところだが、私は以前の世界にいたときでも、魚よりも肉が好きだった。45という歳になってもだ。正直魚は優先順位が低いが、昆布とわかめ、これらは別である。贅沢を言うと、ひじきみたいなものも欲しいと思っている。
あとは、折角手に入れた腸があるので、もう伏せないがウインナーソーセージを作りたかったのだが、難題が控えていたのに気付いた。そう、肉を詰める道具がないので、詰められないのだ。幸いにも腸は時間停止状態で保管しているから無事だけど、さっさと作りたいのも事実である。詰めるのに口金が欲しいが、残念ながら加工できる領民がいない。木であれば作れる領民は何人かいるけど、流石に木では保たないだろう。それで思い出したけど、そろそろ領内でも鉄鉱石が不足してきたので、久しぶりに採掘に行く必要があるかな。以前とは違って、人手も増えてきたので、それは領民達に任せるのもアリだと思う。
朝食も食べ終わったので、マーブル達とマッタリしながら今日の予定を考えていると、カムドさんと戦姫の3人が揃って部屋にやってきた。
「アイスさん、おはようございます。」
「アイスさん、ご機嫌よう。マーブルちゃん、ジェミニちゃん、ライムちゃんもご機嫌よう。」
「アイスさん、マーブルちゃん達、お早う。」
「ウサちゃん達、おはよう。」
「みんな、お早う。それにしても、フェラー族長と戦姫の組み合わせとは珍しいね。何かあったの?」
「いえ、アイスさんは昨日でダンジョン探索が終わったとのことですので、細かい内容の裁決をと思いまして伺ったのですが、そのとき丁度3人と会ったので一緒に参った次第です。」
「なるほど、アンジェリカさん達は? 今日は探索の予定はないけど。」
「ええ、今日はタンバラの街へと戻るので、その挨拶に伺いましたの。」
「なるほど、って、ギルドへの報告はどうするんですか?」
「それは、アイスさんがなさってくださいな。あのダンジョンは領主権限で一般開放なさらないんですよね? でしたら、説明は領主であるアイスさんがなさるべきかと思いますの。」
「・・・なるほど、面倒ですが、確かにそうしなければならないか、、、。まあ、それはいいとして、これから戻るのはかまいませんが、転送魔法で戻るんですよね?」
「ええ、そのつもりですわ。それで、どうなさいましたの?」
「いや、それは構わないと思いますが、転送先って登録してあったかなぁ、と。」
「「「あっ!!」」」
「タンバラの街だとホーク亭だけど、宿を引き払ったときには他の宿泊客もあの部屋を利用するだろうから転送ポイントは抹消してあるし、タンヌの王都に至っては、そもそも転送ポイントなんて用意してないんだけれども、その辺はどうでしょうか? 残念ながら、流石のマーブルでも転送ポイント無しでは転送できないと思うけど、、、。」
「ミャウ、、、。」
マーブルも、残念ながらその通り、という感じで返事をしている。この場にいるのは私達の事情を知っている面子なので、中年冒険者だったときの話をしても問題ない。流石にフェラー族長のときにはこう言った話はできないからね。いや、フェラー族長を信用していないということは決して無い。
「はぁ、仕方ないですわ。徒歩でタンバラの街へと移動致しますわ。」
「あ、そうだ。カムドさん、ラヒラスをここに呼んできてもらえますか?」
「承知しました。」
そう言ってカムドさんが手を叩くと、ゴブリン族の1人がやってきた。
「済まんが、ラヒラス殿をここに呼んできて欲しい。アイスさんがお呼びだ。」
入ってきたゴブリン族の1人が姿を消す。
「ラヒラスさんを呼んでどうなさるおつもりですの?」
タンヌ王国に戻る話をしているのに、なぜラヒラスを呼んだのかわからず戦姫の3人は頭の上に?マークを浮かべていた。
「もちろん理由がありますよ。ところで、戦姫の3人は騎乗できますか?」
「ええ、それなりには。」
「それなら、大丈夫ですね。あとは、護衛かな。」
「アイスさん、ワタクシ達に護衛は必要なくてよ?」
「いや、それはもちろん理解しておりますが、こちらに戻ってくるときは3人だけではないでしょ? 何が起こるかわかりませんし、護衛は必要だと思いますよ。」
「確かにそうでしたわね。いったいどなたを護衛に? ウルヴ殿ですの? それともアイン殿ですの?」
「いえ、人族と獣人族は護衛から外します。護衛は野ウサギ族から数体出してもらう予定です。」
「野ウサギ族? それは非常に心強くてありがたいのですが、よろしいのかしら?」
「レオに聞いてみないとわかりませんが、恐らく引き受けてくれるでしょう。というわけで、カムドさん、レオを呼んで頂けますか?」
「ああ、レオ殿でしたら、近くにおりますよ。レオ殿、アイスさんがお呼びですよ。」
「キュー(主、我を呼んだか?)!」
そう言いながら、レオが飛びついてきた。いつもながらいいモフモフだ。でも、1000年以上生きてるんだよね、レオって。まあ、こういう扱いを希望しているから問題ないか。
「レオ、これからアンジェリカさん達がタンバラの街へと戻って、拠点を引き払ってこっちに戻ってくるみたいだけど、その時に何人か一緒にフロストの町へと来るんだけど、その人達に護衛用に野ウサギ族を3人用意して欲しいんだけど、大丈夫かな?」
「そういうことなら、腕利きの3人をつけよう。幸いにもうちのウサギ達は強くなってきているから、野ウサギ族が数人いなくなるくらいでは問題ない。しかし、3人でいいのか?」
「3人で大丈夫だと思うけど。あっ、一つ問題があった。言葉通じないじゃん、、、。」
言葉の問題をどうしようか悩んでいると、カムドさんが助け船を出してくれた。
「それでしたら、カムイも一緒に連れて行ってはどうでしょうか? カムイなら野ウサギ族とも会話できますし、アンジェリカ殿達とも気心が知れておりますし。ただ、そうなると、カムイは残念ながら騎乗ができませんので、その問題をどうするかですが。」
「騎乗にしようと思いましたが、馬車移動にしますかね。確か、ゴブリンの職人が作った馬車にラヒラスが揺れを押さえる魔導具を設置したものがありましたよね?」
「確かにありますが、それは領主用に作ったものですから、アンジェリカ殿達が使うのは何かとマズいのではないでしょうか?」
「それについては大丈夫ですよ。アンジェリカさん達は今は冒険者としてこういう格好ですが、実際は私程度では会話すら認められないほどの格上の身分ですから。」
「なるほど、それでしたら問題無さそうですな。」
こんな感じで話していると、先程のゴブリンがラヒラスを伴ってやってきた。
「ラヒラス様をお連れしました。」
「ご苦労様、ありがとう。下がって良いよ。」
「アイス様、俺を呼んだのは?」
「ああ、ラヒラスを呼んだのは、これからアンジェリカさん達がタンバラの街へと戻るから、それ用の木騎馬と馬車を用意してもらおうと思ってね。」
「なるほど、理解したよ。でも、戦姫の3人なら、馬車よりも騎乗した方が速く戻れないか? 馬車も一応領主用として作った1台しかないんだけど、、、。」
「私用の馬車なんだ、ありがたいけど、しばらくは必要ないかな。で、馬車を用意してもらう理由なんだけど、戦姫の3人がタンバラの街から何人か一緒につれてこちらに戻ってきてくれるから、その彼ら用、というか物資を運ぶ用かな。」
「そういうことなら了解した。ただ、護衛とかは大丈夫かい? 戦姫の3人だけなら必要なさそうだけど、帰りとなると場合によっては厳しいかもしれないけど。」
「それについては大丈夫だと思う。野ウサギ族から3人とカムイちゃんに一緒に行ってもらうことになったから。」
「野ウサギ族とカムイ殿か、、、。かなり贅沢な護衛だけど、用心に越したことはないか。」
「そういうこと。」
「ただ、カムイ殿についてはその格好のままではマズいな。対策として変装用の魔導具も用意しておくよ。」
「そうしてくれると助かる。」
「じゃあ、一旦戻るから少し待ってて。」
そう言って、ラヒラスが部屋を出た。それに合わせたかのようにカムイちゃんが部屋に来た。
「アイスさん、話があるって?」
「ああ、カムイちゃん、これから戦姫の3人がタンバラの街へと戻るんだけど、その護衛として野ウサギ族とカムイちゃんに同行してもらおうと思ってね。」
「3人と一緒? 喜んで行きます!!」
「同じ説明をするのが面倒だから、詳細は戦姫達から聞いてね。」
「・・・何か腑に落ちないけど了解。」
ラヒラスが戻ってくるまで特に進める内容はなかったので、適当に雑談をして待っていると、ラヒラスが野ウサギ族の3人と一緒にやってきた。って、野ウサギ族、いつの間に呼んだんだ?
「待たせたね。頼まれたものは用意したから。ちなみにあの馬車は3頭立てになっているから、木騎馬も3つ用意しておいたから。」
「ありがとう、ラヒラス。じゃあ、外に出ましょうかね。」
ウサギ広場に馬車が用意してあった。実は領主用として作られた馬車を見るのは今日が初めてだったりするけど、ここまで立派だとは思わなかった。
「ああ、そうか、アイス様は初めて見るんだね。狩り採集班がたまに魔樹を狩ってくれるから、少しずつ作っていたんだよ。見た目以上に軽いし、悪路でもほとんど揺れないようにしてあるから。できれば1日に1回魔力を込めてくれると助かるかな。とはいえ、込める魔力は少しでかまわないから。」
そうして、ラヒラスは戦姫の3人に馬車と木騎馬の使い方を説明していた。実際に腕輪をはめて魔力を込めることによって現れた木騎馬に3人は驚いていた。今回の木騎馬は色が栗毛で統一されていた。また、その腕輪には少量とはいえマジックバッグ(もちろん時間停止の効果付き)の役割もあることにさらに驚いていた。
戦姫の3人が町を離れることを聞いた、屋台のおっちゃん達はこぞって食料の提供をしていたのには少し驚いたけど、どの人も鼻の下が伸びまくっていたのは笑った。戦姫の3人は代金を払おうとしていたのだが、提供者達は誰も受け取ろうとはしなかったので、後でこちらから無理矢理渡しておきますか。美人の前で格好付けたくなるのもわかるけど、ムリはしないでほしいね。
本来であれば、城門まで見送るのが筋であるけど、フロストの町には城門といったものは存在しない。戦は全て野戦でカタをつける方針なので、そういったものは最後につくるつもりであるので、着手すらしていない状態だからだ。ということで適当なところまで同行した。いざ、別れる段になって、ラヒラスが思い出したようにいきなり声を出した。
「あっ、これを渡すのを忘れてた!」
「何か忘れたの?」
ラヒラスが出したのは、何枚かの布きれだった。
「ラヒラス、何これ?」
「これはね、マーブル君に手伝ってもらって作った、転送ポイント設置の魔導具だよ。1回使ったらなくなるけど、一度設置すれば、マーブル君が消さない限りは消えないから大丈夫。大事な場面で使って。」
「ラヒラスさん、ありがとうございます!」
アンジェリカさんはそう言って転送の魔導具を受け取った。
「では、アイスさん、それとフロストの町のみなさん。また、お会いしましょう!!」
そういって、アンジェリカさん達はタンヌ王国へと戻っていった。みんな、無事で戻ってきてね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます