第62話 さてと、地下6階です。



 テシテシ、テシテシ、ポンポン、つんつん、、、。今日も混じっておりましたよ。まあ、いいか。いつもの3人+1羽に挨拶をしてから、またいつものように水術で顔を洗って今日が始まる。昨日と同じようにコカトリスさん達が生んでくれた卵を有り難く頂戴する。今日来てくれたコカトリスにハグして感謝の意を伝えると、マーブル達もそれに続いてコカトリスに感謝の意を伝えると、コカトリスも嬉しそうに「コケ-ッ!」と鳴いてから部屋から出た。



 昨日は醤油とソース、酢を牛さん達から頂いた。折角なので今日はそれを使って調理しようと思っている。ちなみにメニューだが、昨日と同じメニューにすることに決めた。というのも、昨日の時点ではこれらの調味料はなかったので、特に醤油の有る無しでこれだけ味が違うことを感じて欲しかったからだ。それと同時に私がこれらの調味料をどれだけ心待ちにしていたか、知って欲しかったというのもあった。ただ、卵焼きについては今日は醤油を入れた塩っぱいバージョンで作る予定。さてと、張り切って作りますかね。



 手順は昨日とほぼ同じなので割愛する。いや、だって一々説明するのは面倒だしね、、、。



 ということで、朝食も無事完成した。いつもの4人で「いただきます」の挨拶をしてから食べ始める。昨日に続いて今日も卵かけご飯から手を付ける。うん、やはりこの味だ。卵かけご飯はこうでないといけない。いや、昨日の卵かけご飯が美味しくなかったと言えばそんなことはない。コカトリスの美味しい卵のおかげで、醤油無しでもかなり美味しかったのは事実だが、やはり醤油の有る無しでは全く異なる。醤油をかけた目玉焼き、醤油を入れて塩っぱくした卵焼き、醤油入りの卵汁、どれも昨日よりも美味しかった。もっとも、卵焼きについては好みが別れるのでその限りではないだろうけど。マーブル達の反応も昨日以上によかった。



「ニャア---!!」



「アイスさん! 見た目は昨日とほとんど同じですが、今日は昨日以上に美味しいです!! これが、アイスさんが探し求めていたものなんですね!!」



「あるじー! 昨日のもおいしかったけど、今日のはそれよりおいしいよー!!」



 と、こんな感じだ。この違いと良さを分かち合うことができて、お父さんは嬉しいよ。



 この時間の辺りで、昨日は襲撃を受けたのだが、今日は流石に来なかったようだ。折角なので、今日は昼食用に一品用意するつもりだった。米ではないのが残念だが、押し麦でも十二分に美味いはず。何を作るかと言えば、焼きおにぎりだ。普通に作ると、何度も醤油を塗っては焼いてを繰り返す大変な作業だが、今の私には水術がある! 今日はそのつもりでかなりの量の押し麦を炊いてあるので、準備は大丈夫、のはず。



 実際に作ってみて一番大変だったのは、おにぎり自体を作ることだったと先に伝えておく。それでも気合が入っていたのでバッチリ作ることが出来た。その数約100。いやあ、手が疲れたよ、、、。サイズ的にはマーブル達の手伝いは期待できないので、こればかりは自分だけでやる必要があった。今度型作ってもらいましょうかね。



 おにぎりの準備ができたら、網を用意して、コンロに乗せてマーブルに火を付けてもらう。最初は火力が強すぎたので、いい塩梅まで加減してもらって準備完了。おにぎりを乗せていって、醤油を塗っていく。生憎刷毛などという重要アイテムはないので、コテを使って塗っていく。塗ったら水術で水分をある程度抜いてからひっくり返す。ひっくり返したら同じように醤油を塗って、水術で水分を抜いてひっくり返す。予想通り、短時間で香ばしく焼き上がる。今回は3回ずつそれを繰り返しては作っていく。



 出来上がったものから別の所に移動させてマーブルの風魔法である程度冷ます。本来なら焼き上がりの状態を空間収納で保存しておくのがいいかもしれないが、ここは私の好みでほどほどに温かい状態にさせてもらった。猫舌ですから、、、。昨日は匂いに釣られて襲撃されたので、匂いが領内に広がらないように上空に思いっきり向かうように頼んだ。うん、これで大丈夫だろう。



 頑張って100個の焼きおにぎりを作り上げて、収納を完了してから少しマッタリしているときに4人がやってきたので、挨拶を交わして早速アマデウス教会へと向かう。



 転送魔法でいつも通りにダンジョン入り口、地下1階、地下2階を経由してから、地下5階の階段へと転送して地下5階に向かう。



 地下6階は一本道の林道のような感じの景色だった。しばらく進んでいると、木の上の方から魔物の気配を探知したので少し近づいてみると、魔物は猿の集団だったので、鑑定をかける。アマさんよろ。



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『スローモンキー』・・・ものを投げるのが好きな猿の魔物じゃ。こやつらは縄張り内に入るとものを投げつけてくるが、基本投げてくるのは木の実とか食料関係が多いの。投げつけてきたものをしっかりと捕ることができたら奴らは非常に喜ぶ。遊び好きじゃからのう。そうして仲良くなることができたら、貴重な木の実を手に入れられるかも知れんの。遊び感覚で投げてくるから、決して捕れない速さではないはずじゃ。長い間誰も来ていないようじゃから、大いに受け取ってやるとよいぞ。


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 ほう、木の実を投げたりするのか。しかも遊び好きか。折角だからお付き合いするとしましょうかね。そうすると、今日も戦闘はなさそうだけど、貴重な食材が手に入るとなれば話は別だろう。ではみんなにその旨伝えますかね。



「みなさん、鑑定の結果、彼らに敵意はないようです。木の実などを投げてきますが、しっかりと受け取って上げると喜ぶようです。反射神経を鍛える訓練と思ってできるだけ捕る方向でお願いしますね。」



 そう言うと、約1名を除いて了解してくれた。ちなみに了解しなかった約1名とはルカさんだ。まあ、仕方ないかな。そういったことって苦手そうだしね。



 そういったわけで、一方的なキャッチボールの開始である。鑑定が済んでから少し進むと、一番前にいた猿が早速投げてきたので、しっかりとそれを捕ると、猿は嬉しそうにはしゃぎ、後ろにいる仲間に呼びかけるかのように吠えると、近くにいた猿たちが一斉にものを投げてきた。猿の数は全部で9体だった。



 ルカさん以外のメンバーはしっかりと捕れていたが、ルカさんだけは上手く捕ることができなかったが、頑張って捕ろうとはしていたようで、それを察した猿達はルカさんに対してだけはかなりゆっくり投げるようにしていた。そうしてようやく上手く捕ることができるようになったのを見て猿たちはもの凄く嬉しそうにはしゃいでいた。



 こちらだけ捕っていてもつまらないと思い始めてしまったので、折角なので投げてきた猿に向かって受け取った木の実を投げ返してみる。投擲スキルがあるので、投げるのは得意になっている。もちろん遊ぶためなので、しっかりと受け取れるように加減はしている。それを受け取った猿はさらに嬉しそうにはしゃいで、投げ返してきた。うーん、この世界に来てもキャッチボールをするとは思わなかったけど、これはこれで楽しいな。



 それを見た他のメンバー達も同じように受け取っては投げをするようになり、猿たちも楽しそうにキャッチボールを楽しんでいた。



 しばらくキャッチボールを楽しんでいると、猿たちはこっちへ来いと言わんばかりに、後ろに下がってはこちらを見るような仕草をしていたので、ついていくことにした、というより、普通に一本道を先に進んだだけだけどね。



 猿たちについてきてしばらくすると、少し広めの場所に到着した。そこにはいろいろな種類の木の実やらが置いてあり、それを囲うように猿たちが座っていた。どうやらこれから食事を摂るらしく、私達を招いてくれるようだ。折角仲良くなったのだし、お言葉に甘えるとしましょうかね。



 招かれるまま私達も猿たちに交じってたくさんの木の実の周りに座ると、キャッチボールの相手をしていた猿たちがそれぞれ、私達にその木の実を渡してきた。どうやら分けてくれるみたいだ。折角の好意を無碍にしたくはないので、渡してくれた木の実を頂くことにした。どう見ても果物です、本当にありがとうございました。私が受け取ったのは桃のような見た目の木の実だった。桃って細かい毛みたいなものがびっしり生えているから、一旦水術で洗おうかと思ったが、実際に触ってみると、ツルツルしていて毛のようなものはなかったので、囓ってみると、やはり桃だった。しかも、もの凄く甘い。



「こんなに美味しい果物は初めてだよ、ありがとう。」



 とお礼を言うと、私の相手をしていた猿はもの凄く嬉しそうにしていた。しかし、もらってばかりでは申し訳ないので、メンバー用に用意していた昼食を用意して猿たちにも食べてもらおうと思った。そう、朝たくさん作った焼きおにぎりだ。



 まずは、ライムにキレイにしてもらってある敷物を敷いて、その上に焼きおにぎりを置く。とりあえず口に合うかどうかわからないので、メンバーと猿たちにそれぞれ1つずつ渡して食べてもらうことにした。気に入ってくれたら、自分たちで取って食べてくれればいいと思ってそうした。



 焼きおにぎりをみて驚いていたのは猿たちよりも、むしろ女性陣の4人だった。唖然とする中、アンジェリカさんが聞いてくる。



「ア、アイスさん、その食べ物は一体? たまに食べているおにぎりですが、いつもと違って何か色がついているのですが、、、。」



「これはですね、焼きおにぎりといいまして、おにぎりに昨日手に入れたソイソースを塗って焼き上げたものです。まあ、実際に食べて味を確認して下さいね。猿のみんなも遠慮なく食べてね。」



 そう言って、見本といわんばかりに私から食べ始める。それを見て、マーブル達も食べ始める。



「うん、我ながらいい出来だね。」



「ミャア!!」



「アイスさん、これ、とても美味しいです!!」



「あるじー、これおいしい!! ボク、これだいすきー!!」



 3人の反応も上々だ。それを見た残りのメンバーや猿たちも食べ始める。



「アイスさん、これは非常に美味ですわね!! アイスさんが夢中になって搾っていた理由がわかりましたわ! これだけ美味ですと、確かに夢中になりますわね!」



「はい、こんなに美味しいとは思わなかったです! やはり、アイスさん達とこうして一緒に冒険して大正解でしたね!!」



「うん、可愛い家族がいて、美味しいご飯が食べられる。それに楽しい。これ以上は罰が当たる。」



「アイスさんは、こんな美味しい料理も知っているんですね!! ムラに住んでいたときも、いろいろと美味しい料理を教えてもらいましたが、まだまだあるのですね!!」



 4人の女性陣の反応もかなりよかった。猿たちもかなり喜んでくれている。うん、頑張って作った甲斐があったというものだ。焼きおにぎりはあっという間になくなってしまったが、逆にそれを食べ過ぎて他の料理や木の実が食べられなくなったのはご愛敬。どちらにしても、みんな満足してくれたのはよかった。



 昼食が終わって、少しマッタリしてから、猿たちがまた付いてこいと言わんばかりに、先を進んではこちらを見ていたので、付いていくと、第2ラウンドが始まった。この頃になるとルカさんもある程度の速度に対応できるようになっていた。ちなみにマーブル達はどうやってキャッチボールをしていたかというと、マーブルとジェミニは前足でキャッチしてから上に放った後、後ろ足で猿たちに返していた。ライムとオニキスは体内に放り込んでは放出する形で猿たちに返していた。みんな、器用だね。



 キャッチボールをしながら先を進んでいくと、地下5階の下り階段まで到着したので、そこに転送ポイントを設置してもらってフロストの町に戻ろうとしたら、猿たちが私達を引っ張ってここに座らせる。どうやら少し待って欲しいようだ。



 言われたとおり座ると、1体を除いて残りの8体が林の中に消えていく。1体は座ったまま動かないので、一緒に待つことにした。しばらく待っていると、一緒に待っていた猿へと木の実が投げ込まれてきていた。木の実は白っぽいものと赤っぽいもの2種類で、大きさはボーリングの玉くらいの大きさだろうか。各20個ちょいの合計50個くらいの数まで増えてから8体の猿たちもこちらに戻ってきた。



 待機していた猿は、赤い木の実を割り、その中身に指をいれて舐めると、私に差しだしてきた。これは舐めて見ろということなんだろうな。私も同じようにその中身に指を入れて舐めてみる。



「!! こ、これは!!」



 まさか、昨日に続いて今日、待ち望んでいたものがここにあるのか? 正直言うと、醤油よりも待ち望んでいたものだ。そう、味噌だ。あまりの嬉しさに体が震える。それを見たアンジェリカさんが思わず聞いてくる。



「ア、アイスさん、だ、大丈夫ですの? 一体どうなさったのです?」



 あまりの嬉しさに、それに答える前に、猿たちに聞いてしまった。



「こ、これをくれるの、、、?」



 そう聞くと、猿たちは木の実を持っては私に渡してくる。しかも投げるのではなく手渡しだ。



「あ、ありがとう、、、。」



 味噌が手に入った嬉しさと、猿たちの心遣いが嬉しくて言葉に詰まってしまった。涙をこらえるのが精一杯の状態だった。



「ア、アンジェリカさん、すぐに返答できず申し訳ない。これは味噌という調味料でして、昨日手に入った醤油以上に私が探し求めていたものです。それが、こうして手に入るとは、嬉しすぎて、、、。」



「い、いえ、それはかまいませんの。そこまでアイスさんが喜ぶ姿を見るのは初めてなので少し驚きましたけど、、、。」



「そうですね、ここまで嬉しいのはマーブルと一緒に生活できるようになったときくらいですかね。もちろん、ジェミニやライムとも一緒になれたのは非常にうれしいのですが、味噌が手に入ったというのはそれくらい嬉しいものなのです。」



「マ、マーブルちゃんと一緒に生活するときと同じくらいですって? そこまで探し求めていたということは、料理も期待して良いということですの?」



「はい、と、言いたいところですが、こればかりは個人差があるので、絶対とは言い切れませんがね。」



「いいえ! アイスさんがそこまで欲しがったものですもの、美味しいに決まっていますわ!!」



 そうアンジェリカさんが言うと、残りの3人も一斉に頷いた。



 気を取り直して、猿たちにお礼を言って今後も遊びにここに来ることを約束して、転送ポイントからアマデウス教会へと戻って解散した。



 戻ってから早速調理しようかとも思ったが、ついに味噌を手に入れた喜びで他のことが手に付かなかったため、明日の朝食で使うことにした。夕食はというと、昼食で準備しておいたけど食べずに手つかずの状態のものと、猿たちからもらった木の実を食べた。



 さて、明日からの食事が楽しみでしょうがないな。そう思いつつ今日という一日は終わった。

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