第48話 さてと、お出迎えです。

 さて、先程ギルド長経由でゴブリン達50体近くがこちらに向かって来ていると報告を受けた。先日のスタンピードではあれだけの規模だったにもかかわらず大部分が通常種、一番強い種類でもホブゴブリンがちらほら程度だった。しかし、今回はゴブリンエンペラーが率いているという。それにゴブリンキングクラスが4体ほど、その他のゴブリンも普通のクラスではないとのこと。



 その報告を受けたのは私とフェラー族長、ウルヴとアインとラヒラスのみ。あ、もちろんマーブル達もいるよ。その話を聞いてウルヴ達はもちろん、フェラー族長も色めきだったが、まあ、いくら敵が強くとも、その数だったら問題ない。問題、というか、違和感を感じたのはマーブル達の反応だった。通常なら強敵出現の報告を受けると俄然やる気を出したりするのだが、今回はゴブリンということで、逆に面倒臭そうにするのがいつもの反応だ。しかし、今回の報告を受けて嬉しそうにはするが、その嬉しそうな表情は強敵と戦えるという感じでは無かった。



 そういったわけで、ギルド長には他のギルドへの報告禁止を通達した。というのも、少数とはいえ通常ではありえない強さをもったゴブリン達に心当たりがあるからだ。これは私達だけで向かった方が都合がいいので、とりあえずウルヴ達に町のことは任せて私達だけで向かうことにした。仮に戦闘になったら、まだ彼らでは厳しいと判断したからだ。彼らをこんなところで失うことは出来ない。まあ、予想通りなら、そもそも戦闘は起こらないと思う。



 新築中のフロスト城を見て、ああ、頑張っているなと進行状態を確認してから、舗装された道を真っ直ぐ進んで森へと足を運ぶ。マーブル達はいつも通り私の肩に乗ったり、降りて私の周りを走り回ったりして、私の心を癒やしながら進んでいく。報告ではあと2日ほどでこちらに来るということだったので、斥候専門の冒険者もいるのだろう、後で依頼料に上乗せしておこう。



 私達は森の中を進んでいく。もちろん私は方角などわからないので、マーブル達が指し示す方向に従って歩いている。途中でマーブルやジェミニが飛び出していっては、オークやマーダーディールなどの食べられる魔物を倒してはこちらに運んできてくれた。その間の案内はライムがやってくれた。頼もしい猫達だね。



 ある程度進んでからは気配探知を行った。そろそろいそうな気がしたからだ。気配探知を使いながら進むこと一時間ちょい、確かにゴブリンの気配を探知した。マーブルも反応を示したことから、目的のゴブリン達であることは間違いない、何故なら反応こそしても、戦闘態勢に入っていないからだ、ということは予想通りで間違いないということでもあった。ということで、気配探知を解いて進むことにした。



 もうしばらく進んで暗くなり始めたところで、肩に乗っていた状態のジェミニが飛び出すように降りた。



「アイスさん、ワタシが迎えにいくです!」



「うん、いってらっしゃい。マーブルとライムはどうするの?」



 マーブルは「ミャア!」と鳴いたが、肩に乗ったままだ。つまり、私と一緒にいるということだ。ライムも私と一緒にいるということで、ジェミニだけ先行して迎えに行くことになった。



「アイスさん達はここで待っているです! みんなを呼んでくるです!」



 ジェミニは張り切って離れていった。



 待つこと30分ほど、ゴブリンの一団がこちらに近づいてきた。転生したとはいえ、みんな見覚えのある顔だった。ゴブリン達とはいえ、家族として一緒に過ごしたりもしたのだ。再会を約束したとはいえ、まさかこうして来てくれるとは思わなかった。一団が普通に話ができる距離まで近づいてきた。



「カムドさん、お久しぶりです、、、。」



 先頭にいたゴブリンは、この一団の頭といえる存在のカムドさんだ。ゴブリンエンペラーと認識されていたのは恐らく彼だろう。彼が治めていたムラに前世どれだけお世話になったか。私の方からは、ある意味見慣れた顔だけど、向こうが見る私の姿は別人だ。



「マーブル殿とライム殿が一緒ということは、アイスさんですか?」



「そうです。あなたたちの家族としてムラでお世話になったアイスです。」



 嬉しさの余り、涙腺がやばかったけど、どうにか堪えてきたが堪えきれなくなって涙が止まらなくなっていた。涙をぬぐうことなく互いに握手を交わす。ちなみに、普通のゴブリンは不潔極まりない存在だが、このゴブリンの方達は私の生活様式を取り入れているため普通に風呂などに入ったりして清潔を保っている。



「おお、ずいぶんと若返りましたね。お久しぶりです。ユミールがアイスさんが転生したとのお告げを受けたと聞きまして、こうしてみんなで会いに来たのです。」



「こんな、私のためにみんなで来て頂けるなんて、、、。ところで、よくここだとわかりましたね。これもお告げだったので?」



「いえ、マーシィ教官が教えてくれましたよ。もちろん手紙でね。」



「マーシィさん、もうここまで来ると何でもありだな、、、。」



 マーシィさんとは、前世で偶然に発見した像で、像に触れるとご本人が降臨して戦闘訓練を施してくれる有り難い存在だ。現在はゴブリンのムラで大活躍しているはずだけど。



「ムラ長、私達も挨拶をしたいのですが。」



「おお、済まん。あまりの嬉しさに忘れていたよ。」



「再会して嬉しいのは長だけではなく、我々も同様ですからね、お嬢なんかは特にね。」



「ばっ、馬鹿! そんなこと言わなくていいの!!」



「おっと、済みません、アイスさん、彼らにも挨拶してください。」



「もちろんですよ。カムイちゃん、エーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさん、それに他の皆さんもお久しぶりです!! 転生して今の姿はこうなっておりますが、間違いなくあなたたちのムラでお世話になったアイスです!!」



「そんなに他人行儀にする必要はないんだよ、アイスさん。」



「そうそう、いくら久しぶりとはいえ、俺たちは家族なんだからさ。」



「そうだよ。今更水くさいよ、アイスさん!」



「そういうことだな。とりあえず、俺たちは『おかえり』って言っておけばいいのかな?」



「ありがとう、みんな、『ただいま!!』」



 他のゴブリン達も私達を囲んで『おかえり』と言ってくれた。ここまで私のことを思ってくれているという嬉しさに再び涙が止まらなくなった。ゴブリンのみなさんはマーブル達にも『おかえり』と言ってくれてマーブル達も嬉しさのあまり走り回っていた。



 周りが暗くなってきていたので、ムラのみんなの案内で広い場所まで移動して、そこで夕食を摂ることにした。流石にこれだけの規模の上、ゴブリンエンペラーが率いているとなると、魔物が全く襲ってこなかったそうで、肉が得られず、途中で採集した植物だけらしかったので、折角だからこちらが途中でマーブル達が仕留めてくれた魔物を出すことにした。これは偶然ではなく、マーブル達はそれを計算に入れた上で狩ったようだ。流石、我が猫達だ。いつも通り、私が空間収納から魔物を取り出して血抜きをし、ジェミニが解体して、ライムがキレイにして、マーブルが風魔法で血などの臭いを吹き飛ばす。ムラのみんなはそれを見て唖然とする。



「以前見たときよりも早くなってねぇか?」



「ああ、相変わらず凄いと思っていたが、さらに凄くなっているな、、、。」



「それなりに数をこなしてますからね。」



 材料の準備が整い夕食の準備をする。私達ももちろん準備をするが、ムラの炊事担当の方達も手伝ってくれた、というよりも内臓料理に興味津々だった。



 夕食は大盛り上がりだった。私もいろいろなゴブリン達と話をしたし、マーブル達もモフモフされたりと相変わらず大人気だった。食事が終わって片付けになるとライムの独壇場だ。食器や調理器具を次々にキレイにしていくので、洗浄は最低限で済むのだ。



 しばらくまったりと過ごして、ムラのみんなは各自でテントなどを設営してそれぞれ別れる。ありがたいことに見張りは彼らでやってくれるらしいが、今回はみんなにゆっくり休んでもらうために、周りに氷結の罠を張っておいた。



 明日以降の予定を話し合うために、私達はカムドさんのテントにいた。メンバーはムラ長のカムドさん、娘のカムイちゃん、隊長格である、エーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさんの3人、シャーマンのユミールさんだ。



「改めてお久しぶりです皆さん、明日は我が領地であるフロスト領へとご案内します。明日到着できるかどうかはわかりませんが。」



「フロスト領ですか? アイスさんは今領主となっておるのですか?」



「そうです。トリトン帝国フレイム伯爵の長男として転生しまして、それからいろいろとあって、今はアイス・フロスト伯爵として現在フロスト領を治めております。」



「おお、ご領主様ですか! そうなるとこれからはフロスト様とお呼びした方がいいのでしょうか?」



「いえ、今まで通りでお願いします。家族なんだから、他人行儀は勘弁して下さいよ。」



「ハハッ、アイスさんらしいな。」



「アイスさんが領主であれば丁度いいんじゃないですか? ムラ長。」



「そうだな。では、私から話そうか。」



「ええ、頼みましたよ、ムラ長。」



 そう言いながら、ゴブリンの皆さんはカムドさんと頷き合った。一体何だろうか?



「アイスさん、我々がここに来たのは、ただアイスさんに会いに来た、というだけではないのです。」



「改まって一体どうしたんです? それに会いに来た以外の理由があるのですか?」



「実はですな、我々をアイスさん、いえ、アイス様の配下としてフロスト領の領民となるべくこうしてムラ全員で伺ったのです。」



「なるほど、全員でこちらに来たのはそういうことだったのですね。正直申しますと、みんなだとわかったときに、こちらから領民として一緒に過ごして欲しいとお願いしたかったのですよ。」



「おお! ということは、我らを受け入れて下さるので?」



「もちろんです! 是非、我らがフロスト領へおいで下さい!」



「誠にありがとうございます! しかし、受け入れて下さってありがたいのですが、我らはゴブリンです。基本的には魔物であって、獣人ですらないのです。本当に受け入れて下さいますか?」



「もちろんですよ。周りが何と言ってこようがこちらの知ったことではありませんから。とはいえ、一つ懸念事項がありまして、、、。」



「懸念事項ですか? それは一体?」



「言葉です。私はゴブリン語をこうして話せますから問題ありませんが、カムドさんはともかく、他のみなさんは人語とか無理ですよね?」



「なるほど、そういったことですか。ご安心下さい。みんな、頑張って人語を話せるようになっておりますので、ご安心下さい。」



「カムドさんがそう仰るなら、大丈夫そうですね。それと、これはお願いなのですが、、、。」



「お願い? 何でしょうか?」



「今までと同じ口調で私と接して下さい。確かに領主と領民の関係にはなってしまいますが、それ以前に私達は家族じゃないですか。今更水くさいですよ。」



「アイスさんがそう仰るなら、その通りに致しますよ。」



「ありがとうございます。あと、私が転生したというのと、ライムが人語を話せるのを知っているのはこのムラの皆さんだけですので、それを踏まえて欲しいと思います。」



「なるほど。では、私達とアイスさんとの関係はどうしましょうかね?」



「それでしたら、マーブル達と古い知り合いという感じではどうですかね? 私とマーブル達の関係もこの森でマーブル達をテイムしたことになってますので。」



「わかりました、それでいきましょう。」



「そういえば、みなさんでここに移ってもらうのはいいのですが、マーシィさんはどうなってますか?」



「マーシィ教官? 教官ならしっかりと持ってきているよ。一応本人に聞いてみたけど問題ないって返事が来てたよ。むしろこっちに移動した方がいいって教えてくれたのは教官だったしね。」



 カムイちゃんが得意げに話す。しかも人語で問題なく話せている。これは驚いたな。



 この後、ここにいるみんなにとにかく人手が足りないことを強調して伝え、彼らには造成班と狩り採集班と新たに治安維持班を作って、それらに別れるように頼んだ。それとは別に有事の際に隊長格の3人には部隊の指揮官として就いてもらうことも伝えた。前世ではチート性能の指揮官だった彼らを使わない手はない。カムドさんには私の補佐をお願いした。これで本当に最低限の部隊は揃ったことになる。本当にいいところに来てくれたものだ。前世といい本当に感謝してもしきれないほどの恩がある。



 こうして人手がある程度揃ったところでホッとして、気分よく眠りに就いた。お休み、マーブル、ジェミニ、ライム。

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